351話 茶番トーナメント閉幕!
Aグループの優勝を決めたリサヴィはBグループの選手達の邪魔にならない場所に移動する。
敗れたAグループのパーティは諦めが悪く、またもや騒ぎを起こしていたが、ギルドの警備員がやって来て訓練場から叩き出された。
Bグループのパーティが準備運動をしているのを見てサラが呟く。
「まだこんなにいるんですね」
サラの呟きにヴィヴィが同意する。
「ぐふ。マルコ以外にもこれほどクズがいるとはな。まだまだ世界は広いな」
「ですねっ」
「そんなことはないですよ」
サラ達の会話にギルド職員が加わった。
「えっ?そうですかっ?」
アリスが疑いの目を向けるとギルド職員は苦笑しながら説明を始めた。
「ク……騒がしい冒険者が目立っていただけで真面目に護衛依頼を受けたいと思っていた者達もいたのです。ただ、ちょっと自信がないとか他に参加する冒険者がどんな者達かわからないという理由で様子見していたのです。相手がコバンザメ狙いだったら嫌ですよね。ああ、皆さんはコバンザメをご存知ですよね?」
「ええ」
「はいっ」
「ぐふ、嫌になるほどな」
「まあ、そういうわけで様子見していた方達が一緒に護衛を行うパーティがリサヴィと知って、なら依頼を受けようと決心したわけです」
「買い被りです」
「ご謙遜を。あなた方の武勇は有名ですよ」
「ぐふ。主に鉄拳制裁がな」
「ヴィヴィ!!」
「いえいえ、そんな事はないですよ。確かに以前は鉄……サラさんだけが目立っていましたが、今はメンバー全員が注目されています。Cランクでありながら実質B、いえAランクに匹敵する力を持っていると」
「はあ」
アリスがギルド職員の説明に首を傾げる。
「あれっ?でもっ、Aグループの人達はっ、そのっ……」
「ぐふ。皆クズだったな」
「ああ、それはク……真面目に護衛をやる気がなさそうな方達をAグループに集中させましたので」
「おいっ」
「申し訳ありません。そうすればAグループはすぐに終わると思いましたので」
「はあ」
「私達の予想ではAグループはリサヴィの不戦勝で終わると思っていたのですが、ちょっと考えが甘かったです」
「サラさんにいいカッコ見せようと無駄に試合してましたもんねっ」
「ぐふ。お前達はまだまだクズ対応レベルが低いという事だな」
ヴィヴィの言葉にギルド職員は困った顔をする。
「はあ。まあ、あまりそんなレベル上げたくないのですが……!!」
そこでギルド職員ははっ、とした表情をした。
何事か思い出したようで真面目な顔でリサヴィの面々を見た。
「リサヴィの皆さん、誤解のないように言っておきますが、以前のフットベルダにはあのようなク……問題冒険者は多くなかったのです!ク……彼らが集まり出したのはつい最近の事なのです!」
「はあ」
そこからギルド職員の愚痴が始まる。
彼の話では、事の始まりはマルコ所属、あるいは元マルコ所属がフットベルダにやって来てからだそうだ。
クズ冒険者達は事後依頼、彼らの言うコバンザメが禁止されていないギルドへと移動しており、事後依頼を禁止していないフットベルダも狙われたとの事だった。
「ぐふ。俗に言う、クズ冒険者大移動、だな」
「ヴィヴィさんっ、そんな言葉はないですっ」
ヴィヴィに素早く突っ込むアリス。
更に彼らはクズスキル?を素質のありそうな冒険者達(クズ予備軍)に伝授したため、急激にクズが増加したというのだ。
サラがギルド職員に疑問を口にする。
「あの、事後依頼を禁止にするギルドってそんなに増えているのですか?」
「ええ。マルコを中心に広がっています。ったく、自分達のギルドで生み出したク……冒険者達を他のギルドに押し付けるとは本当に碌でもないギルドですよ!マルコは!」
ギルド職員はマルコの名を吐き捨てるように言ったあと、はっとした顔をしてサラ達に頭を下げる。
「す、すみません、つい」
「えっとっ、何を謝ってるのですかっ?わたし達はっマルコとなんの関係もないですよっ」
アリスの言葉にギルド職員が首を傾げる。
「あの、リサヴィの皆さんはマルコを懇意にしているのでは?」
「していません」
サラが即答した。
「その、マルコとの密約で各地に散ったマルコ所属のク……葬っ、ではなくて……」
「そんな事はしていません」
再びサラは即答した。
サラの冷めた表情を見てギルド職員は悟った。
クズ冒険者を葬っているのはマルコではなく、ギルド本部の密命なのだと。
「し、失礼しましたっ」
「「「……」」」
「ま、まあ、そんなわけでフットベルダは決してク……の集まりではなかったことをくれぐれも誤解のないようにお願いします!」
「はあ」
この後、ギルド職員からフットベルダ所属にならないかと熱心に誘われたがいつものように丁寧に断った。
リサヴィがギルド職員とそんな雑談している間にBグループのトーナメントが開始された。
冒険者達の中にリトルフラワーの正体?に感づいた者がいた。
「なあ、あいつらよ、もしかしてサキュバスなんじゃないのか?」
「言われてみればみんな美人だし、メンバー構成も似てるな」
「おいおい、何言ってんだ。サキュバスがパーティ名を変更したなんて話聞いた事ないぞ」
「確かにな。そんな事があったらあっという間に噂が広がるだろう」
「だな!」
結局、二つ名であるサキュバスがパーティ名だと思い込んでいる彼らは気のせいにしたのだった。
ギルド職員の説明通り、Aグループとは打って変わってBグループの冒険者達は真剣に戦っていた。
中にはサラとアリスにキメ顔をしたりしてアピールする、「お前ら何しに出てきたんだ?」と思わせる者もいたが、彼らはAグループに入り切らなかったクズだろう。
リトルフラワーの面々は試合毎にメンバーを代えた。
戦ったのはリリス、マウ、ジェージェーの三人のみで新加入?の女魔術士は怪我の治療をするだけだった。
戦いは順調に進み、危なげなくリトルフラワーが優勝した。
こうして護衛を受けるパーティはリサヴィとリトルフラワーに決定したのだった。
その結果を見てウーミは心底安心したという表情を見せた。
その日の夜。
リサヴィとリトルフラワーは祝勝会を高級な店の個室で行っていた。
この場所を選んだのはまだ試合結果に納得しないクズ冒険者達がウーミにではなく、リサヴィに直談判して来たからだ。
そこで彼らを追い払う意味もあって高級な店に逃げ込んだのだった。
流石の彼らもここまでは追って来なかった(来れなかった)。
リトルフラワーは新加入?の女魔術士のことをリサヴィは知っていると思っているらしく紹介しなかったのでヴィヴィが尋ねた。
「ぐふ。お前は確かレズパーティの魔術士だったな?」
「……ああ」
サラはヴィヴィの言葉でその女魔術士の事を思い出した。
「オ、オテク、です。よ、よろしくお願いします。それで、わ、私はノーマルですのでっ」
魔術士のオテクがビクビクしながら自己紹介した。
「ぐふ。あいつらはどうした?お前を残して全滅したのか?」
「い、いえ。彼女達はその、『自分を鍛え直す』と言って、その、ヨシラワンに向かいました……」
「「「……」」」
「あたいが上には上がいるとしっかり体に教え込んでやったからな!」
そう言ったマウの顔はとても自慢げだった。
「……何を鍛えに行ったのやら」
サラが呆れ声で呟く。
「は、はい。私はそういう事はしませんし、魔術士ギルドへの借金返済と家族への仕送りがあるので、ちょうど魔術士を必要としていましたリトルフラワーの皆さんと行動を共にすることにしたのです」
「オテクの腕はなかなかですわ」
「うん、なかなかだね」
「そうだな。Cランクにしてはなかなかだぜ」
「あ、ありがとうございます」
オテクは“両刀使い”のマウには苦手意識があるようで、ビクビクしながら頭を下げる。
「はははっ。あたいは無理矢理はヤラないって言ってんだろ。いい加減信じろって」
「は、はい」
オテクは怯えた表情で頷いた。
返事とは裏腹に全く信用していないようであった。
マウは自分の挙動にいちいちビクビクするオテクを見てため息をついたあと、何か閃いたらしくニヤリと男前の笑みを浮かべた。
「よしっ!じゃあ、お前は今夜、リサヴィの部屋に泊めてもらえ!」
「え?」
「マウ、あなたは何を言って……」
「そん代わりリオ、お前があたいらの部屋に来い!」
「ん?」
「それはいいですわね!」
「そうだね!そうしようよリオ!色々したい、じゃなくて、話したい事あるしさっ」
「そうなんだ」
「だ、ダメですっー!!」
アリスはそう叫ぶとリオに抱きついた。
「あっ、てめえ、アリス!何どさくさ紛れに抱きついてやがんだ!?」
「正当防衛ですっ!」
「意味不明な事言ってもダメですわ!さあ、リオから離れなさい!」
「嫌ですっ!」
「よしっ、わかった!それじゃあ今夜はアリス!お前があたいらの部屋に来い!」
アリスはマウが舌なめずりするのを見て勝ち誇った顔が恐怖に歪む。
「ぜ、絶対嫌ですっ!助けて下さいっリオさーんっ!」
「ん?」
この騒ぎは店主に注意されるまで続いた。
マウがグッとエールを飲んでからしみじみと言った。
「しかしよ、ほんとお前らの所にはクズが集まって来るな」
「そうですわね」
「確かにねっ。あの数にはビックリだよ!」
リリス、ジェージェーもマウに同意する。
サラが口を開くより、ヴィヴィが早かった。
「ぐふ。クズコレクターが二人に増えたからな」
「そんな能力はありません」
すかさずサラが否定する。
続いてアリスが真面目な顔で言った。
サラを見ながら。
「サラさんっ、そろそろわたしは解放してくださいっ」
サラはアリスに「私は何もしてないわよ」と言葉ではなく、拳で返事した。
「痛いですっ」
サラはリトルフラワーにあのクズ達は自分達がフットベルダに来る前からいたこと、そしてギルド職員が話したクズ冒険者が事後依頼を禁止していないギルドへ移動している事を説明した。
サラの必死さを見てジェージェーが優しい顔をしてサラの肩をぽんぽん、と叩いた。
「な、なんですかその顔は!?本当にそんな能力はないですからね!!」




