350話 茶番トーナメント開幕!
今回行われる事になった依頼争奪トーナメントはパーティ内から一名選出して戦う事になる。
一人で全試合出てもいいし、一戦毎に選手を変えてもいい。
試合中に怪我をした場合はパーティメンバーであっても手助けする事は出来ず、自身でなんとかするしかない。
ただし、試合後であればパーティメンバーからのみ治療を受けることができる。
突出した者がいない限り、パーティの総合力が高いほどトーナメントを勝ち抜ける可能性が高いというわけである。
言うまでもなく、ソロ冒険者には不利な条件であるが、そもそもパーティ募集の依頼なので仕方がないことだと言える。
それでもリサヴィと一緒の依頼を受けたいソロ冒険者は臨時パーティを組んで挑むことにした。
トーナメントはA、B のグループに分けられた。
それぞれで優勝したパーティが護衛依頼を受ける事になるのだ。
Aグループにリサヴィが、Bグループにリトルフラワーの名があった。
それを見た途端、Aグループのパーティが悲鳴を上げた。
Aグループ、リサヴィと同じグループに決まった時点で彼らの野望が絶たれたからだ。
リサヴィに負けたら当然依頼は受けられないし、万が一、いや、億が一にもリサヴィに勝ったとしてもリサヴィが依頼を受けられなくなる。
どちらにしても彼らがリサヴィと同じ依頼を受ける事はできないのだ。
Aグループになった者達がいちゃもんを言い出す。
「おいっ、あのリトルフラワーとやらがリサヴィと違うグループってのは怪しいぞ!仕組んだんじゃないのか!?」
言い掛かりとしか思えなかった彼の言葉をギルド職員はあっさりと認めた。
「はい。リサヴィとリトルフラワーは違うグループにしました」
ギルド職員が認めたことでAグループになった冒険者達が騒ぎ出す。
「てめえ!」
「卑怯だぞ!」
「そんなズルをしていいと思ってんのか!?」
「こりゃグループ作り直しだな!」
「よしっ、俺が作ってやるぜ!」
「ざけんな!お前もズルする気だろう!」
「なんだと!?」
「お静かに!」
ギルド職員が理由を説明する。
「リサヴィとリトフラワーのグループを分けたのは依頼主の要望です」
「ざけんな!」
「依頼主なら何やってもいいと思ってんのか!?あん!?」
「もちろんです」
「「「「なっ……」」」」
「依頼主なのだから当然でしょう」
サラが冷静に指摘するが冒険者達は納得しない。
「「「「ざけんな!!」」」」
ギルド職員は彼らの抗議を聞き流して淡々と説明を続ける。
「そもそも依頼主により依頼を受けるパーティは決まっていたのです。それをあなた方が文句を言うので仕方なくこうして特別処置を取ったのです。気に入らなければ棄権して頂いて構いません。依頼主は一刻も早くベルダへ出発したがっているのですから」
ギルド職員にそう言われても彼らは納得しなかった。
喚きまくる彼らに疲れたギルド職員が最終宣告をする。
「これ以上、騒ぐようでしたらトーナメントは中止して当初の予定通りリサヴィとリトルフラワーに依頼を受けて頂きます」
「「「「ざけんな!」」」」
Aグループの冒険者達は尚も反抗しようとしたが、それをBグループになった者達が止めに入る。
しばらく揉めたが、ギルド職員が警備員を呼んだのでAグループのパーティは渋々引き下がったのだった。
トーナメントはギルドの実技試験が行われる訓練場でAグループ、Bグループの順で行われる。
最初、Aグループになったパーティは皆棄権する気だった。
しかし、サラが試合観戦することに気づき、「これはサラにアピールするチャンスだ!」と思いついた者がいた。
ここで活躍すれば自分達のパーティにサラが入る可能性がある。
そうでなくても有能だと判断されればリサヴィに誘われるかもしれない。
そう思うと俄然やる気が出た。
ちなみにリサヴィに誘われたら元のパーティはどうするのか?
考えるまでもなくサヨナラする、である。
これはクズ冒険者だからではなく、多くの冒険者がその選択をするだろう。
冒険者は死と隣り合わせの職業なのだ。
情ではなく、生存率を高める選択をするのは当然のことだった。
クズ冒険者の思考は皆似通っているとでもいうのだろうか、それから大した時間もかからずに他の冒険者達もその考えに至った。
その結果、
彼らは皆、測ったかのように次のような行動を取った。
リサヴィと当たるまでは真剣に戦い、勝者がサラに決めポーズなどをしてアピールする。
リサヴィとの対戦となったとき、対戦相手であるリオではなく、サラに向けて決めポーズをとりながら不戦敗を宣言するのだ。
「リッキーキラーに勝ってもよ、リサヴィが依頼を受けないんじゃ意味がねえだろ?」
と。
誰もが大体同じようなセリフを吐いて戦いの開始前に去って行った。
サラは呆れ顔をするだけだったが、依頼主のウーミはイライラした表情を隠しもせずにぶつぶつと呟く。
「こんな茶番で時間をつぶしてる場合じゃないんだけどな」
再びリサヴィ、リオの対戦がやって来た。
リオはトーナメントに勝ち残っている者達に向かって無表情のまま言った。
「時間がもったいないから残り全員上がって来なよ。それで勝った者が優勝にしよう」
「リオさん!?ああ、僕達に時間がないのを知って時短をしようとしてるんですね!……嬉しいです!」
ウーミが瞳に涙を浮かべる。
「あの、とても言い難いですが、あれは単に移動の往復が面倒になっただけです」
「ですねっ」
しかし、感動しているウーミにサラ達の声は届かなかった。
審判が依頼主のウーミにリオの提案について確認する。
ウーミのOKが出てリオの提案が採用された。
Aグループは次の戦いが決勝戦となった。
リオの発言を聞き、次の対戦相手だった冒険者が怒りを露わにする。
「あの野郎、ちょっと調子乗りすぎじゃねーか?」
「はんっ、奴の希望通りバトルロワイヤルやってやろうぜ!」
「だな!」
「よし行くぞお前ら!」
「「おう!」」
リオの本来の対戦相手の冒険者が堂々とした態度でリオと対峙する。
それを見てリオはどこかつまらなそうに言った。
「一人だけなんだ」
その冒険者が鼻で笑った。
「はっ、何馬鹿なこと言ってやがる!なあ?……あれ?」
その冒険者が後ろ振り返ると誰もいなかった。
待機場所を睨むとニヤニヤ笑う冒険者達がいた。
「だ、騙された!」
「では準備はいいですね」
「ちょ、ちょ待てよ!」
しかし、無情にも審判が開始の合図をする。
「では開始します。始め」
開始三秒で決着がついた。
言うまでもなく、リオの勝ちだ。
こうしてAグループはリオが優勝した。




