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35話 命の洗濯(テコ入れ)

 リオ達は二日ぶりにフィルの街へ戻ってきた。

 その足で冒険者ギルドに向かい村長から受け取った完了報告書を受付嬢に渡す。

 特に問題はなく依頼達成となった。

 リッキー退治の依頼ポイントは二十ポイントで三では割り切れなかったが、ヴィヴィが少なくていいと言ったのでリオとサラが七ポイント、ヴィヴィが六ポイントとなった。報酬の銀貨二十枚はリッキーを売った銀貨一枚を加え、均等に七枚ずつ分け合うことになった。

 リッキーから手に入れたプリミティブだが、ヴィヴィが銀貨二枚で買い取りたいと言った。

 これは相場と変わらないので反対する理由はなく、ヴィヴィに売る事にした。

 結局、今回の依頼でリオとサラは銀貨八枚を得る事になった。

 ちなみに悪霊退治の完了確認はまだ出来ないとの事だった。


 宿屋“歌う橋”で借りっぱなしだった部屋の鍵はおかみさんに預けていたので鍵を受け取って二階へ上がる。

 部屋に入るとリオはそのままベッドに潜り込み、ヴィヴィは何も言わずに部屋を出ていった。

 サラはそっとリオの様子を見る。疲れて眠ってしまったようだった。


「……これはチャンスね」


 サラはリオを起こさないように静かに部屋を出るとおかみさんに湯の準備をしてもらうようにお願いする。

 この宿屋、歌う橋に風呂はなかったが、有料で部屋に湯船を用意してくれるサービスがあるのだ。


「ギルドのチケットからは出ないから自腹だよ。いいかい?」

「はい。あと、出来るだけ静かに準備をお願いします。仲間が寝てますので」

「……ああ、わかったよ。すぐ用意するよ」


 おかみさんがニヤリと含みのある笑みを浮かべる。

 サラはおかみさんが何か勘違いしているようだと思ったが何も言わなかった。

 説明すれば必ず納得するわけでもないからだ。


 サラがそわそわする中、部屋に一メートル程の長さの湯船が従業員によって運び込まれ、ベッドの間にギリギリ収まる。

 その後、何度も桶で湯が運び込まれ、湯船が湯で一杯になった。

 サラは待つ間にリオが起きないかとヒヤヒヤしたが、当のリオはピクリとも動かなかった。


「じゃあ、終わったら連絡ください」

「はい、ありがとうございます」


 従業員が出ていった後、鍵を締める。

 サラの顔が自然と緩む。


「ふふ。お風呂、久しぶりのお風呂!っと、しっ……」


 湯船に手を入れると丁度いい湯加減だった。


(ヴィヴィが帰ってきたら悪いけどしばらく外で時間を潰してもらうわ)


 サラは窓のカーテンを閉めると、ちょっと乱暴に服を脱ぎ、湯船に浸かる。


「……ああ、これよ、これが欲しかったのよ」


 サラは目をつぶり湯を堪能する。


「さて、体も洗おうかな……あ、しまった」


 湯に夢中になり、タオルとかの準備を忘れていた。

 荷物を引き寄せようと湯船から立ち上がった時だった。ドアノブが回る音がした。


『ぐふ?』

「ヴィヴィ!?」

『ぐふ。開けろ』

「ちょっと待って。今、お風呂入ってるの。しばらく外で時間潰してくれない?」

『……』


 外で何かブツブツ聞こえたかと思うとカチャッ、と鍵が開く音がした。


「アンロック?!ヴィヴィ、あなた魔法を?!って、ちょ、ちょっと待っ……!!」


 しかし、サラの制止を無視してドアは開けられた。

 部屋に入ったヴィヴィは微かに仮面を左右に動かした。


「……」

「……ドア早く閉めてよ」


 サラに睨まれたからかどうかは知らないがヴィヴィはドアを閉め、ついでに鍵も閉めた。


「ぐふ。無事だったか」

「どういう意味よ?!」

「うん、ヴィヴィ、どういう意味?」

「ほら、リオも……え?」


 サラはリオが寝ているはずのベッドに顔を向ける。

 リオは半身を起こしてサラを見ていた。


(なんで勇者になる人がこんなに存在感がないのよ!)


「い、いつの間に起きたのよっ!?」


 八つ当たり気味にリオを怒鳴る。

 サラはリオの視線を秘部に感じ、自分が全裸である事を思い出した。

 手で胸と秘部を隠す。


「ふむ。前にお前が下着姿の私に言ったのは中途半端な露出はやめろという意味だったのだな」

「違うわよ!」

「……やっぱりサラは女なんだね」

「やっぱり、ってなんですか!?前にも裸を見たでしょ!?まだ男かもって思ってたのですか!」

「そんなことはそんなには思ってないよ」

「そんなには?……つまりまだ疑っているのですね?」

「うん……いや、そんな事ないよ。たぶん」

「……まあだ、そんな事を言うんですね」


 リオのなんとも歯切れの悪い言いようにサラの怒りが羞恥心を上回った。

 サラは体を隠すのをやめ、湯船を出ると濡れた手でリオのこめかみをグリグリする。


「サラ、痛いよ」

「本当に痛いのですか?」

「たぶん」

「多分なら気のせいです。今日という今日は痛いという感覚を思い出させて……」

「ぐふ。ついに実力行使に出るか」

「!?」


 ヴィヴィの冷めた声でサラは一気に冷静さを取り戻した。


(またやってしまったわ!)


 サラはすっかり冷めた体を湯船に沈めて身を隠し、深呼吸する。


「……リオ、私の荷物を取ってください」

「ん?わかった」


 リオは何事もなかったように、実際リオは何も起きたとは思っていなかったが、サラの荷物を湯船のそばに置く。


「ありがとうございます。あと、悪いですけど、私がいいと言うまで窓の外を見ててください。あ、カーテンは開けないでください」

「それだと外見えないよ」

「問題ないです」

「そうなんだ」


 リオは素直に従い窓からカーテン越しに外を眺める。

 当然外はよく見えない。

 その間にサラは荷物からタオルを取り出し、体を拭く。


「ぐふ。私は見ててもいいのか?」

「あなたは何言っても聞かないでしょ」

「ぐふ」


 サラは替えの服に着替えた。

 次からは横着せず、きちんと説明して全員部屋から叩き出してから風呂に入ろうと決心するサラだった。


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