348話 護衛募集
リサヴィがフットベルダのギルドに入るとギルド職員の叫ぶ声が聞こえた。
「ベルダ行きの商隊の護衛を募集しています!至急とのことで報酬も通常より高く設定しております!Bランク以上の方!是非ご検討下さい!Cランクの方でも腕に自信のある方は申し出て下さい!」
ギルド職員が冒険者達に声をかけていくが冒険者達の反応は悪く、ヤジを飛ばす者もいた。
「ざけんな!マナッド・レインが降ったばっかだろ!」
「命がいくらあってもたんねえぜ!」
「紹介するならもっと楽できるやつを紹介しろ!」
「大変そうだね」
リオは他人事のように言った。
その様子からリオは護衛の依頼に全く興味がない事がわかる。
サラも護衛任務が自分達に苦手な部類だと自覚していたので受ける気はなかった。
それはアリスもヴィヴィも同様だった。
結局、ギルド職員の声に応える冒険者は一人もいなかった。
リサヴィが依頼完了処理を行っているとギルドのドアが開かれた。
入ってきた者はリオ達の姿を見つけると大声で叫んだ。
「リサヴィの皆さん!?」
サラ達が振り返ると声の主が嬉しそうな顔でサラ達に駆け寄って来た。
それは以前、護衛をしたイルミ商会のウーミだった。
「こんなところで皆さんに会えるなんて!」
「お久しぶりですね」
サラがリサヴィを代表して挨拶する。
「突然ですが護衛の依頼をお願いできませんか!?」
「護衛、先ほどギルド職員が募集していたものですか?」
「はい、たぶんそうです!実は僕達はベルダの街へ商品を運ぶところなんですが、マナッド・ドレインが降ったばかりということで思うように護衛を雇えなくて困っていたのです」
イルミ商会には護衛部門があり、今回、ウーミはその護衛達と共にここフットベルダまでやって来た。
彼ら護衛の強さは冒険者でいうところのCランク相当だった。
普段ならそれで問題は無いのだが、マナッド・ドレインが降った後の強力になった魔物を相手にするとなれば話は別だ。
商品の納期も迫っており、期日通りに納められなければ相手に違約金を支払わなければならないだけでなく、イルシ商会の信用にも傷がつく。
そのため、ウーミはフットベルダでBランク以上の冒険者を雇おうとしたのだが思うように集まらずに困っていたのだった。
「皆さん、また僕達の護衛を引き受けて頂けませんか?」
「私達はCランクですよ」
「リサヴィの皆さんなら全然問題ありません!その実力はこの目で見て知っていますから!」
「はあ」
サラはリオに確認する。
「どうしますか?」
「ん?」
「リオさん!お願いします!また僕達を助けてください!」
リオはウーミの顔を見て首を傾げる。
「また?……どっかで見たことある気がするけど、誰だっけ?」
ウーミはリオに顔を覚えられていないと知り、ガックリした表情を見せたがすぐに気を取り直す。
「イルミ商会のウーミです!以前に護衛でお世話になりました、マルコギルドのモモの幼馴染のウーミです!」
「そうなんだ」
リオはどうでもいいように呟いた。
「リオさん、リサヴィの皆さん!是非護衛を引き受けて頂けませんか!?強力な魔物との遭遇が予想されて今の戦力では心細いのですっ!」
「……強力か、いいよ」
「本当に困って……え?」
リオがあっさりOKしたのでウーミは拍子抜けする。
「ぐふ。いいのか?護衛は苦手だろう?」
ヴィヴィの問いにリオはなんでもないように言った。
「うん。だから護衛はヴィヴィ達に任せた。僕は魔物退治に専念する」
「ぐふ……」
「わかりましたっ、リオさんっ!いざとなったらっまたわたしが商隊ごとエリアシールドで囲んじゃいますっ!」
「リオがそれでいいなら私も異存はありません」
「あ、ありがとうございます!」
ウーミが満面の笑みで喜びを表現する。
「ぐふ、とはいえだ。依頼内容を聞いていないからな。内容によっては再考させてもらうぞ」
「はい!では……」
その話を聞いていたギルド職員が声をかけて来た。
「それでは応接室をお使い下さい」
「ありがとうございます。ではリサヴィの皆さん、行きましょう」
リサヴィとウーミがギルド職員の後をついて行こうとした時だった。
「「「ちょっと待ったっー!!」」」
何組かのパーティが立ち上がりウーミ達に待ったをかけた。
彼らは互いを牽制しながら我先にと護衛の依頼に立候補し始めた。
「俺らも護衛を受けてやるぜ!」
「いやっ俺達が受けてやるぜ!」
「俺らだ俺ら!」
彼らはリサヴィが護衛に参加すると知って勇気百倍、ではなく、楽して儲けられると思い、態度をコロリと百八十度変えたのだった。
彼らのなかには先ほどギルド職員に暴言を吐いていた者も含まれていた。
それで終わらなかった。
さっきまでのことが幻だったかのように、次々と冒険者達が立候補に声を上げ、ギルド内は収拾がつかなくなる。
冒険者同士で言い合いする様子を見たリオがボソリと言った。
「こんなに人気がある依頼なら僕らはやめようか」
「えっ!?そんなリオさん!やめるなんて言わないで下さいよ!」
ウーミの叫びがギルド中に響き、冒険者達が騒ぐのを止め、その視線がリオに集中する。
空気が読めない事には定評があるリオが、その力を遺憾なく発揮する。
「ほら、なんか僕らって死神パーティとか言われてるんでしょ。参加したら他の人が嫌がると思うんだ」
リオは嫌味ではなく、本気でそう思っていたのだが、冒険者達はそうは思わなかった。
冒険者達の非難の声がリオに集中する。
「ざけんな!お前らが参加するから依頼を受けてやるんだ!」
「おうっ!誰が好き好んでこんな危険な依頼受けるかよ!」
更にある冒険者が堂々と偉そうに情けない事を大声で叫ぶ。
「いいか!はっきり言ってやる!バカなお前の頭でもわかるようにな!俺らはな!お前らリサヴィがこの依頼を受けるから受けてやるんだ!お前らがやらねえなら俺らもやらねえ!わかったか!この馬鹿野郎!」
その言葉に他のパーティからバカにした声が飛ぶ、
事はなく、それどころか次々と彼への賛同の声が上がる。
サラは彼らのクズさ加減に頭が痛くなった。
その時であった。
ギルドの入口付近から彼らをバカにする声が聞こえた。
「何情けねえ事言ってやがんだ!このクズ冒険者共!」
「なんだと!?」
クズ冒険者達の憎しみのこもった視線が入口に立つ冒険者達に集中する。
それらを一身に受けた彼女達は平然として言い放つ。
「その依頼!リサヴィが受けようが受けまいが私達が受けますわ!」
そう叫んだのはサキュバス、もとい、リトルフラワーのリリスであった。




