344話 いけすかない受付嬢
その日、リオ達が訪れた村には珍しく冒険者ギルドがあった。
途中に大きな街がないための特別措置である。
ギルド職員はその村出身の者は少なく他の街から派遣されて来た者がほとんどであった。
「依頼を見に行こう」
「ぐふ」
「はいっ」
「リッキー退治以外にしませんか」
「そうだね」
受付嬢はギルドに入って来たリオ達を見て駆け出し冒険者だと思った。
その理由はリオを見てである。
やはりどこへ行ってもリオは駆け出し冒険者に見られるのであった。
その受付嬢は数少ないこの村の出身で、畑仕事が嫌で必死に勉強して現地採用されたギルド職員だった。
彼女はやがてはエリートが集まるというヴェインギルド本部に栄転して、稼ぎのいい同僚か、冒険者と結婚して楽して暮らすのが夢であった。
彼女は自分の容姿と能力に絶対の自信を持っており、必ず実現させる気でいた。
彼女は確かに持っていた。
プライドの高いヴェインギルド職員特有のランクで冒険者の対応を変える傲慢さを。
リオ達がその受付嬢が立つカウンターにやって来た。
「どうかしましたか?」
上から目線の口調の受付嬢にもリオは特に不満を見せない。
「リッキー退治はないの?」
「リオ!リッキー退治以外にしましょうと言ったでしょ!聞いてなかったのですか?」
「そうだった」
受付嬢は今の会話でこのパーティの事を理解した、
と思った。
リッキー退治は依頼ランクが低い割に失敗率の高い依頼だ。
(フードで顔を隠した胡散臭い女戦士?は前回、依頼に失敗したからやりたくないのね。情けない人達!それにしてもっ)
受付嬢は自分の村にリッキー退治などというつまらない依頼があると思われている事に腹が立った。
「すみません、そういうランクの低い依頼は扱っていません」
今は偶々ないだけなのだが、プライドの高い受付嬢はそんな事を微塵も感じさせずに上から目線で言った。
「そうなんだ」
「はい」
先程からの受付嬢の失礼な態度にサラが内心腹を立てていると、リオが珍しくサラが不機嫌である事に気づき、無謀にもアドバイスを送る。
「サラ、こういう場合はこう言うんだよ。……チェンジで」
そう言ったリオの表情はほとんど変化しなかったが、サラはドヤ顔しているように見えた。
「……何言ってるんです?」
サラが冷めた目で問う。
「相手が気に入らない場合そう言えって」
「……またナックですか?」
「うん」
「ギルドはそういう店ではありません」
「そうなんだ」
二人のやり取りを最初見下した表情をして聞いていた受付嬢だが、サラの名を耳にしてその表情に脅えが現れる。
この受付嬢は栄転するために日々努力しており、有名どころのパーティや冒険者名を覚えていた。
当然、サラの名も知っていた。
「あの、あなたはサラさんと言うのですか?もしかして神官の……」
「はい、そうですが」
「あ、あのっ、まさかっ鉄拳制裁の……」
「違います」
受付嬢はサラの否定の言葉を聞くや否や勝ち気な表情に戻り、
「びっくりさせないで下さい。その名は紛らわしいので改名をお勧めします」
などと言う始末であった。
しかし、
「ぐふ。何故嘘をつく」
ヴィヴィの一言で再び受付嬢の顔が強張る。
忙しい受付嬢であった。
「何度も言ってるでしょう。私はその二つ名を認め……」
「すみませんっ、サラさんっ!カードを、冒険者カードをご提示願いますかっ!?」
「はあ」
受付嬢はサラから受け取った冒険者カードにさっと目に通す。
(名前はサラ、パーティ名は……リサヴィ!!)
受付嬢の顔が見る見る青くなる。
「ああっ、やっぱり鉄拳制裁のサラさんではないですか!」
「その呼び方はやめて下さい」
「数々の失礼な言動をお詫びします鉄拳制裁のサラさん!」
「本当にそう思っているのでしたら、まずその失礼な二つ名で呼ぶのをやめて下さい」
「ぐふ。ショタコンのサラだ」
「なっ、ちょっとヴィヴィ!」
「こ、これは失礼しました!ショタコンのサラさ……ひっ」
「私を二つ名で呼ぶのはやめてください!」
「し、ししししっ失礼しましたっ!」
受付嬢は“あの”サラにとんでもない態度をとってしまったと、自分の大失態にパニックを起こす。
それに気づいたギルド職員が駆けつけると彼女を奥へ連れて行った。
その後、リオ達は代わった受付嬢の勧めでEランクのウォルー退治を引き受ける事になった。
ちなみに代わった受付嬢はリサヴィを見下してEランクの依頼を紹介したわけではない。
リサヴィはみんなが嫌がる依頼を受けてくれる、という噂を信じてダメもとで紹介しただけである。
ギルドを出てヴィヴィが楽しそうに言った。
「ぐふぐふ。お前達は本当に参考になるな」
「ん?何が?」
「ぐふ。どうやったら人をからかう事が出来るかだ」
その言葉にサラは即反論する。
「あなたには必要ないでしょう!もう十分師範の域に達しているわ!」
「ぐふぐふ。私などお前と比べたらまだまだ、だ」
「またまたご謙遜を」
「ぐふ。私は人をからかうために日々努力しているが、お前達はそんな私を嘲笑うかのように何の努力もせずにやってのけるではないか」
「いえいえ。あなたもですよ。努力など全く必要ないですから」
「ぐふぐふ」
「「……」」
「そうなんだ」
二人が睨み合う中、タイミングが遅れてリオの感情のこもっていない相槌が聞こえた。




