342話 迷探偵、大いに喚く
その日の夜、リオ達の部屋にギルド職員がやって来た。
「リサヴィの皆さん。申し訳ありませんが明日の朝、ギルドに来てください」
「それは命令ですか?」
「はい」
「それはやはり今日の決闘の事ですか?」
「すみませんが、内容につきましては明日、担当の者に直接お聞きください」
「そうですか。リオ、いいですね?」
「わかった」
翌日の朝。
リオ達が応接室に入ると昨日決闘を行った狂ったバーサーカーとそのパーティの姿があった。
狂ったバーサーカーはリオの姿を見るなり立ち上がり、右腕を上げ、ようとして苦悶の表情をして左腕を上げてリオを指差した。
「この野郎だ!」
「ちょっと落ち着けって」
興奮する狂ったバーサーカーを彼のパーティの盗賊がどうどう、と座らせる。
リオに対応する気がないのでリサヴィを代表してサラがギルド職員に質問する。
「それでどういった御用でしょうか?」
「昨日の決闘騒ぎの件です」
「それについては決着したはずですが。そもそもそこの方がリオに言いがかりをつけて決闘を挑んできたのでしょう。証人なら探せばいくらでも出てくると思いますが」
「ざけんな!俺様は被害者だ!そこのリッキーキラーがいきなり俺様にケンカを売って来やがったんだ!」
「お静かに。今回は決闘そのものの事ではありません」
「ではなんですか?」
「実は彼の盾があの決闘騒ぎのどさくさで盗まれたそうで」
「はあ。それが私達となんの関係があるのですか?」
「ざけんな!」
狂ったバーサーカーが盗賊の制止も聞かず再び立ち上がるとリオを指差して叫んだ。
「犯人はお前だ!リッキーキラー!お前が盗んだ犯人だ!!」
狂ったバーサーカーに盗人扱いされたリオは首を傾げる。
サラがリオの代わりに狂ったバーサーカーに尋ねる。
「ちょっと何言っているのかわからないのですが。何故リオが盗んだと?」
「何とぼけたこと言ってやがる!こっちには証拠があるんだぞ!」
「証拠ですか?」
サラはリオをはじめメンバーに顔を向けるが皆首を傾げるのみであった。
「あくまでもしらを切るつもりだな!」
「それでその証拠とは?」
「いいだろう。慌てふためいて謝って来ても遅いからな!」
「ぐふ。さっさとその証拠とやらを出せ」
「黙れ!棺桶持ちが!」
そこで狂ったバーサーカーは一呼吸おいて声を大にして叫んだ。
「あの盾が!あの盾が魔道具だと知ってるのは実際に戦ったリッキーキラーだけだからだ!」
「「「「「「「……」」」」」」」
応接室を深い沈黙が訪れた。
「……またか?」
狂ったバーサーカーのパーティの面々が盗賊を見る。
「待て待て!俺のせいにすんじゃねえ!俺だって今初めて聞いたんだ!こいつが確実な証拠があるって自信満々に言ったんだ!」
「それはいつものことだろう」
狂ったバーサーカーのパーティで内輪揉めが始まる。
サラはその様子を見て、少しホッとした。
(いつもはパーティ全員が馬鹿だけど、今回は決闘相手以外はマトモそうね)
「静かにしてください!」
ギルド職員の声に狂ったバーサーカーのパーティは争いを中断する。
ギルド職員は狂ったバーサーカーを冷めた目で見ながら言った。
「それは全く証拠になりません」
「何故だ!?完璧な証拠だろ!さてはお前もグルだな!」
「お静かに!」
「頼むからちょっと黙ってろ!」
「……」
「では、説明を続けます。あなたの盾が魔道具である事は広場にいた大勢の者が知っています」
「嘘つけ!」
「嘘ではありません。何故なら盾が魔法の効果を発したところをその場にいた大勢の人達が見ていますし、何よりあなたご自身がそう公言したからです」
「俺様は言ってねえ!」
「「「「「「「「……」」」」」」」」」
狂ったバーサーカーが即座に否定すると狂ったバーサーカーのパーティが揃って頭を抱える。
狂ったバーサーカーは周囲を気にする事なく尊大な態度で言った。
「だが、盗んだ事を不問にしてやってもいいかもしれんぞ」
皆が彼にバカを見る目を注ぐが、彼は気づかず続ける。
「リッキーキラー!もう一度決闘だ!前回と同じ条件で今度こそ邪魔が入らないようにな!それで俺様に勝ったら俺様の盾を盗んだ事は不問にしてやってもいいかもしれん!」
またも断言しない、優柔不断な言葉を偉そうに言った。
彼のバカさ加減にサラは頭を抱えながら当事者であるはずのリオを見ると、まるで他人事のような表情をしていたので一瞬、殺意が湧いた。
頭を抱えたのはサラだけではなく、向こうのパーティも同様だった。
サラはなんとか冷静さを取り戻し、無駄と思いながらも狂ったバーサーカーとの会話を試みる。
「い、一応確認ですが、聞けばあなたは盾以外の装備も魔道具だったそうですね?」
「ああ!その通りだ!」
狂ったバーサーカーは堂々と胸を張って頷く。
「……対してリオは剣すら持っていなかったそうですが、そんな不公平な条件でもう一度決闘しろと?」
「そう聞こえなかったか?」
「バ……正気ですか?」
「当然だ!」
そこで更に狂ったバーサーカーは愚行を犯す。
「もちろん、決闘で俺様が勝てば、サラ、お前は俺達のパーティに入ってもらうぞ!」
狂ったバーサーカーはそう言ってサラ、ではなくアリスにキメ顔をする。
しかし、リオに負わされた怪我が完治しておらずぎこちない。
「えっ!?またっ!?」
アリスが何か言う前にヴィヴィが手で制止した。
「ぐふ。前の条件と言ったが、お前は既に盾を無くしているではないか。同じ条件は無理ではないのか?」
狂ったバーサーカーが見下した目をヴィヴィに向ける。
「ああ、その通りだ棺桶持ち。だからまず俺様の盾を返せ。決闘はそれからだ」
狂ったバーサーカーはキッパリ躊躇せず言いきった。
「「「「「「「「……」」」」」」」」」
もはや、応接室にいる誰もがこのバカとの会話をしたくなかった。
一緒の部屋にいるのも苦痛だった。
狂ったバーサーカーは沈黙を何と勘違いしたのかわからないが、機嫌を良くして更に続ける。
「ああ、そうだ。決闘の前に俺様のこの右腕を治してもらうぞ。あとこの顔もな!リッキーキラーの卑怯な不意打ちでやられてから調子が悪くてな。俺様んとこの魔術士はこの程度の傷もちゃんと治せんのだ。困ったもんだ!がはははは!」
魔術士はバカにされてムッとした表情になるが、当然、狂ったバーサーカーは全く気づいていない。
「どうせ俺様達の仲間になるんだ。構わんだろう。なっサラ」
狂ったバーサーカーがアリスに痛恨の一撃、もとい、キメ顔を向ける。
「ひっ」
アリスは小さな悲鳴を上げてリオに抱きつく。
サラはもうこの茶番に付き合うのは限界だった。
当事者であるリオが相変わらず全く行動する気がないので、仕方ないという表情で(と言ってもフードで顔は見えないが)ギルド職員に話しかける。
「私達はもう行っていいですか?これ以上は我慢出来る自信がありません」
「あ、はい。もう結構です。ご苦労様でした」
ギルド職員の許可を得て、リサヴィは応接室を出て行く。
その行動に狂ったバーサーカーだけが慌てる。
「ちょ、ちょ待てよ!まだ決闘の期日を決めてないぞ!盾もさっさと返せ!」
リサヴィに代わってギルド職員が口を開く。
「さて、あなた方はBランク冒険者として、いえ、冒険者としても問題行動が多すぎますので冒険者適正検査を受けて頂くことになるかと思います」
「なっ!?」
「なんでこいつだけじゃなく俺達まで!?」
巻き添いを食うとは思っていなかった狂ったバーサーカーのパーティメンバーが慌てる。
「お、俺様は問題行動なぞ……むぐぐっ」
狂ったバーサーカーがこれ以上余計な事を言わないように彼のパーティが口を塞ぎ、暴れる体をみんなで押さえ込む。
「なあ、ちょっと待ってくれよ!」
「俺達もこいつの被害者なんだ!」
「彼の愚行に全く加担していない、と言い切れますか?」
「そ、それは……」
「むごっ!」
「先のマルコギルドでの不祥事を調査した際に、不正してランクアップした冒険者がいる事がわかりました。そして他のギルドでも同様の事が行われていたことが明らかになりました」
「俺達がそうだと言いたいのか!?」
「そうは言いません。私どものギルド所属の方々にそんな方はいないと信じております」
「大体、その検査ってのはどこでやるんだ!?俺達にわざわざヴェインまで行けというのか!?」
「いえ、まずは当ギルドのギルドマスターが面接を行います。それで不合格となった場合にヴェインにて適正検査を受けて頂くことになるでしょう」
「「「……」」」
「むごっ!」
後日談。
ギルドマスターによる面接で狂ったバーサーカーだけは冒険者として非常に難ありと判断され、セユウ所属を解約した上でヴェイン本部で冒険者適正検査を受けることになった。
狂ったバーサーカーはギルド本部での冒険者適性検査でも見事に不合格となり、Cランクへ降格処分となっただけでなく、その行動に改善が認められないようなら除名処分にすると警告を受けた。
リーダーである狂ったバーサーカーがセユウ所属を解約されたのを受けてこのパーティは解散することになった。
と言っても狂ったバーサーカーを除いて再結成したのだが。
こうして、またもリサヴィに関わった者達に不幸が訪れたのだった。
……今回も自業自得ではあったが。




