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34話 リッキー退治 その2

 サラは静かに立ち上がる。


「ぐふ。用足しなら我慢しろ」

「ちがっ!……違うわよ」


 サラはすぐ我に返り声を抑える。

 ヴィヴィを睨みながら紐を懐から取り出した。


「ぐふ。紐パンか。相変わらずエロい事しか考えていないな」

「……」


 サラは精神を落ち着けるため深呼吸をすると、弾を詰めた袋から数個取り出し、そのうちの一つを紐パン、もといスリングにセットする。

 徐々に回転を速くしながら、見張っていた畑に現れたリッキーに狙いを定める。

 そしてリッキーが動きを止めた瞬間、サラはスリングで弾を放った。

 狙い違わず、リッキーの体に命中し、動かなくなる。


「まず一つ」

「ぐふ」


 サラはスリングを使うのは一匹も倒せない場合の最後の手段として用意していた。流石にゼロは恥ずかしいと思ったからだ。

 ただ、一匹も倒せていない場合でも状況によっては使用しないつもりだった。

 しかし、ヴィヴィの想定外の活躍により、自分だけこのまま何もしないのはまずいと思い作戦を変更したのだ。


(私のスリングではヴィヴィの盾ほど遠くまで飛ばせないからどうしようかと思ったけど、こっちの畑にも来てくれて助かったわ)


 サラは石をセットして次の獲物に狙いをつけ、放った。



「六匹ですか。目標の十匹には至りませんでしたね」


 目標は村長が希望した数であるが、依頼達成条件というわけではない。

 六匹の内訳はヴィヴィとリオのコンビで四匹、サラが二匹だ。

 残りのリッキーは逃げていった。

 六匹でもサラの想定以上である。最悪ゼロも覚悟していたのだから。


「まだ日はあるから大丈夫じゃないの?」


 リオが唾を飲み込みような動きをした。サラはまだ緊張しているためと思い、大して気に留めなかった。


「ぐふ。あれだけ倒されてもすぐに畑を荒そう思うならな」

「ヴィヴィの言う通りです」

「そうなんだ。でもリッキーって倒すの難しいんだね。足は速いし、すばしっこいし。ヴィヴィが手伝ってくれなかったらきっと一匹も倒せなかったよ」

「やっとわかってくれましたか?」

「そうだ……」


 リオが再び唾を飲み込む仕草を見て流石にサラは違和感を覚えた。

 

「どうしました?」


 サラが尋ねた直後にリオが血を吐いた。


「ちょっとリオっ!それ!さっき蹴られたとき内臓を痛めたんじゃないんですかっ?!」

「……そうみたいだね」


 口を拭いながら平然と答えるリオ。

 さっきからリオは唾ではなく込み上げてくる血を飲み込んでいたのだ。

 サラは慌ててリオの容体をみる。

 少なくとも肋が二、三本折れている。普通なら苦痛で声を上げるし動くのも厳しいはずだ。そもそも血を吐く我慢などしない。

 サラはヒールを発動し、リオの怪我を治療した。

 リオは体を動かしおかしなところがないか確かめる。


「どうですか?」

「うん、ちゃんと動くよ。血も出なくなった」

「これからはちゃんと言ってください。あのまま放っておいたら手遅れになっていたかもしれないんですよ」

「うん。ありがとう、サラ」

「まったく……」

「それにしても話に聞いていたのと違ったね。リッキー結構攻撃的だったね」

「私も意外でした。追い詰められているならともかく、向こうから攻撃してくるなんて聞いたこともありませんでしたから」

「でもサラが、えーと……」

「ぐふ。紐パン」

「そう紐パン。サラが紐パン使えるな……」


 リオの頭が不意に下を向いた。

 サラに殴られたと気づく。


「僕、なん……」

「スリング、です。間違えないように」

「そうなんだ。ダメじゃないかヴィヴィ」

「ぐふ」

「それでスリング使えるなら僕にも使い方教えてほしかったな。そうすればもっと倒せてたかもしれない」

「え?教えて欲しかったのですか?」

「うん」


 サラはちょっと驚いた。

 リオはパーティのリーダー、べルフィの言うことしか聞かないと思っていたので、他の武器を使いたいなんて言うとは思わなかったのだ。


「わかりました。今度教えましょう」

「ありがとう」

「では、仕留めたリッキーを集めて処理した後で一休みしましょう」


 魔物のほどんどは食用に向かないがリッキーは食用になる。味は見た目通りうさぎに近い。美味しく食べるためには他の動物と同様に血抜きや内臓の摘出をできるだけ早く行う必要があった。


「わかった」

「ぐふ」


 サラ達は村長が用意してくれた空家に着くと、空家の前で早速リッキーの処理を始める。

 道具類も一通り村長が用意してくれており、依頼料とは別に後で買い取ってくれる事になっていた。

 サラはナナルとの特訓で魔物を倒したときに解体の仕方も教わっていたので神官らしからぬ腕前であったが、リオも今までこのような雑用をメインに行なっていただけあってそつなくこなす。

 ヴィヴィはリッキーの解体をすることはなかったが、ダガーを突き刺し的確にプリミティブを抜き取った。



 解体が全て終わるとサラはリフレッシュを発動した。

 解体で汚れた装備などの汚れがすうーっと消える。

 リオが自分の匂いを嗅ぐ。


「……臭い消えたね」

「そうですね」


 サラも臭いが消えている事を確認した。汚れが消えたのは間違いないが、それでもお風呂で直接体を洗いたいという欲求は消えなかった。

 その欲求と必死に戦いながら呑気な、何も考えていないように見えるリオがとても羨ましく、ムカついた。


「ん?」

「なんでもないです。少し休みましょう」

「うん、わかった」



 サラ達が朝食を食べていると村長がやってきた。


「おはようございます……おや、これはすごい!こんなに仕留めて頂けたとは!」


 解体後のリッキーの数に驚き感嘆の声をあげる。


「おはようございます。すみません。倒せたのは六匹です。後は逃げられました」


 サラが代表して答える。


「いえいえ、まさか一晩でこんなに狩って頂けるとは正直思っていませんでした」

「はい、私達もです」


 サラは村長とリッキーの買取と今後のことについて相談する。

 リッキーについては全て村で買い取る事で話がまとまると、一緒に来た村長の息子が六匹まとめて担いで出ていった。

 サラと村長の話し合いの結果、今晩も引き続き見張りを行う事になった。

 今晩、リッキーが現れないようであれば当分やってこないだろうと判断して任務達成とする、という事で話はついた。


 サラとヴィヴィの予想通り、その夜、リッキーが現れることはなく依頼は完了となった。


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