330話 クズ抹殺疑惑
リサヴィは説明もないままにギルマスの部屋に案内された。
ギルマスはリサヴィに席を勧めるとすぐさま本題に入った。
「実は私共のギルドでもお願いしたい」
「はい?」
ギルマスが何をお願いしたいのかサラにはさっぱりわからない。
それではサラだけではなかった。
「ぐふ。意味がわからんな」
ヴィヴィの言葉にギルマスは頷くと慎重に言葉を選びながら話し始める。
「君達がマルコでやっていたことだ」
またも具体的な言葉が出てこない。
「あの一体何を……」
「最近、私共のギルドでも問題ばかり起こす冒険者が多くて困っているのだ。まあ、その多くは“マルコ”関係者なのだがな」
ギルマスは”マルコ“を強調して言った。
その言葉でサラ達はギルマスが何を期待しているのか悟ってしまった。
「来て早々、マルコ所属のBランクパーティを“処分”したそうではないか」
「あの、何か勘違いしてると思うんですが……」
「ぐふ。私達と行動を共にするクズどもは皆勝手に死ぬのだ」
「そうですっ。わたし達のことを“死神パーティ”とか呼ぶ人達もいるようですけどっ、いい迷惑ですっ。強引にくっついて来て勝手に自滅してるだけなんですっ」
「アリスのいう通りです」
「そうなんだ」
「リオ、あなたは少し黙って下さい」
「……」
「では、彼らは皆、君達と一緒にいるときに運悪く命を落とした、ということか?」
「はい」
ギルマスはため息をついて言った。
「サラ、いや、リサヴィ、ここでの話は秘密だ。絶対に誰にも話さないと約束しよう。だから正直に言ってほしい」
ギルマスはサラ達の話を全く信じていないようだった。
「私達は本当のことしか言っていません」
「マルコギルド、いや、ギルド本部かもしれないが密約をかわしているのではないのか?」
「そんなことしてませんっ!」
「ぐふ。私達の元にはクズが集まってくる。それは認めよう。だが本当に奴らは勝手に死ぬのだ」
ギルマスは真剣な表情で頷き、曲解した。
「なるほど。つまり、ギルドの依頼ではなく、鉄拳制裁の二つ名が示すように正義の心から自ら悪に鉄槌を下した、と言う事か」
「全く違います」
「ではそういうことにしておこう」
そう言ってギルマスはニッコリ笑った。
「いや、だから違うって」
しかし、サラの言葉はギルマスに通じなかった。
ギルマスはサラ達の抗議を聞き流し、”とても困っている“クズ冒険者達の情報を一方的に話し続けるのだった。
CランクパーティBのリーダーはリサヴィが二階のギルマスの部屋から出てくるのに気づき、CランクパーティAのリーダーに問いかける。
「お前らこの後どうすんだ?サラを追いかけるのか?」
「ったりめえだ!諦めるわけねえだろ!アイツらのためにどんだけ時間と金を無駄にしたと思ってんだ!?」
CランクパーティAのリーダーが即答した。
クズスキル?コバンザメは成功の有無に関係なく使用した時点で相手の信頼を完全に失う。
にも拘らず、彼らはまだサラを仲間にできる、リサヴィを利用できると考えていた。
その図太い神経は尊敬に値するかもしれない。
だが、CランクパーティAの盗賊がリーダーに反対した。
「もうやめようぜ」
「おい、お前何言ってるんだ!?」
盗賊が彼らのなかで唯一正常な思考の持ち主だった、
と言うわけでは残念ながら違う。
彼が反対したのは別の理由からだった。
「あいつらパーティの噂、知ってるか?」
「パーティの噂?リッキー退治ばっかやるってやつか?」
「違う違う。あいつらの事を『死神パーティ』って呼ぶ奴らがいるんだ。関わると死ぬかららしい」
「おいおい、それは……!!」
CランクパーティAのリーダーは「言い過ぎ」と言いかけてまさにBランクパーティがリサヴィに関わって全滅した事を思い出す。
「もう一つ、噂があってよ」
「な、なんだよ?さっさと言えよ。あいつら行っちまうぞ!」
盗賊がリーダーだけに聞こえるように小声で話す。
(あいつら、ギルドとグルでクズ冒険者を抹殺してるって噂もあるんだ。冗談だと思ってたけどよ)
(そりゃ嘘だっ。今回、あいつらが死んだのは自業自得だ)
(俺もそう思う。だが、クズパーティが全滅した。それも事実だ)
盗賊の口調から自分達はそのクズパーティではないと思っているようだ。
リーダーも同様だったようで「わはは、俺達もクズだろ?」という言葉は出て来なかった。
(それによ、フラインヘイダイにアリエッタが狙われた時のリッキーキラーの動き、おかしくなかったか?)
(……何が言いてんだ?)
(リッキーキラーの奴、あの盗賊が背後にいるのに気づいてたんじゃないか?“三途の川渡し”をしようとしているのによ……)
(まさか、お前……)
(ああ、俺は奴が、リッキーキラーが“三途の川渡し返し”をやって盗賊を殺したんじゃないかと疑っている……いや、違うな。確信している)
三途の川渡し返し、とはその名の通り三途の川渡しを仕掛けられた者が逆に仕掛けた相手に魔物をぶつけて殺す事をいう。
これはとても難易度の高いクズスキル?で相当場数を踏んだ者にしか出来ないと言われている技だ。
ちなみにこの盗賊はクズの中でもまだマシなほうで、三途の川渡しをやったことはなかった。
(……つまり、お前はリッキーキラーも三途の川渡しが出来る、と言いたいのか?)
(そうだ。な、リーダー。アイツらに関わるのよそうぜ。……俺はクズと間違われて殺されたくない)
(……)
「おいおい何二人でヒソヒソ話してんだ?サラ達、もう行っちまったぞ!」
CランクパーティBのリーダーの声にCランクパーティAのリーダーが振り返る。
「……俺らはやめとくぜ!フラインヘイダイに手も足も出なかったしな!サラは噂倒れだぜ!」
CランクパーティAのリーダーがサラ争奪戦から降りる事を宣言する。
その言葉を聞き、CランクパーティBが歓声を上げる。
「おいおい、お前らマジか!?諦めたのか!?て事は俺達だけか!」
「よっしゃー!ライバル消えたー!」
「おうっ、サラは俺達のもんだぜ!」
そう言ってCランクパーティBはリサヴィの後を追ってギルドから出ていった。
「……死神パーティ、ってのは本当かもな」
盗賊はCランクパーティBの未来が見えた(閉ざされた)気がしてぼそりと呟いた。
CランクパーティAは横一列に並び腕を組む。
「……俺達は死神のカマから逃れられたようだな」
「幸運の女神が俺達に味方したな」
「だな!」
そう言った彼らの顔は困難を乗り越えた、不可能ミッションをやり遂げたかのように晴れ晴れとしていた。




