328話 コバンザメ発動! その1
リサヴィとCランクパーティAが王都セユウに帰ってきた。
ギルドに入るとCランクパーティBがいた。
彼らはサラ達がフラインヘイダイを倒していたら討伐報酬を分けてもらおうと図々しくも考えて待ち構えていたのだ。
彼らの目がリサヴィとCランクパーティAの持ち物に注がれるが、すぐに失望したものに変わる。
しかし、諦めの悪いCランクパーティBがリサヴィに近づいて来る。
「なあなあ。フラインヘイダイは倒さなかったのか?」
リサヴィはCランクパーティBの質問に答えず受付に向かう。
CランクパーティBは今度はCランクパーティAのリーダーに話しかける。
「な、実は倒したんだろ?」
「頼むぜ。一口乗せてくれよ。同じフラインヘイダイ討伐隊だろ」
「あっ、もしかして棺桶持ちの野郎が持ってんのか!?」
CランクパーティAのリーダーが素っ気なく言った。
「遭遇はしたが倒してねえよ」
「何!?サラがいてそれかよ!?」
「サラは噂ほどじゃなかったってことか!?」
彼らも他力本願全開であった。
CランクパーティBのリーダーがふと思い出したかのように尋ねた。
「そういや、あのBランクパーティはどうした?」
「ああ。奴らはもう帰ってこないぞ」
リーダーがそう言ってポケットから真っ黒なカードを取り出して意味ありげな表情をする。
「おい、それって……」
「おうっ、あいつらの冒険者カードだ」
冒険者カードは本人が触れた場合のみ情報が表示され、通常は真っ黒なのだ。
ただ、依頼手続きなどで本人の手を離れることがあるため、本人の手を離れても一定時間は情報を表示する機能はある。
「奴らは全員フラインヘイダイに殺されたぜ」
「な……」
「お前ら見捨てたのか?」
「酷え事言うなよ」
CランクパーティBのリーダーの問いにCランクパーティAのリーダーが鼻で笑う。
彼のパーティメンバーが続く。
「自業自得だ」
「それによ、あいつらBランクかもしれねえが、腕はからっきしだ」
「だな。ありゃ、俺達より弱いぜ」
「実力はCランク、それも贔屓目に見て中ってところだったな」
「なんであれでBランクに昇格できたのか不思議なくらい雑魚だったぜっ」
彼らはリオ達を真似てじっとしていただけなのに言いたい放題であった。
「おっ、いけねっ、俺らの報酬が無くなっちまうぜ」
「だな」
リサヴィがリッキー退治の完了処理を行っている受付にCランクパーティA、Bが慌てて向かう。
「おいおい、サラ、俺達の事忘れんなよ」
CランクパーティAが冒険者カードをテーブルに置いた。
「そうだぜ」
続けてCランクパーティBが冒険者カードをテーブルに置いた。
「「「「……」」」」
サラ達の冷めた目を平然と受け止めるクズ冒険者達。
「俺達も協力してやっただろ」
「姉ちゃん、コバン……じゃなくて事後依頼処理を頼むぜ」
「俺達もリサヴィに協力したんだ。ちゃんと報酬くれよっ」
「「「「……」」」」
セユウギルドはマルコギルドと違い事後依頼は禁止されていなかった。
他人が受けた依頼にさも自分達も貢献したかのように見せて報酬を奪うスキル?コバンザメ発動である。
彼らは慣れたもので言い淀む事なく、考える素振りもなくそれらしい言葉がスラスラと出てくる。
しかし、受付嬢はCランクパーティBに不審な目を向ける。
「あなた方はずっとギルドの椅子を温めていただけのようでしたが?」
「「「なっ!?」」」
そう、CランクパーティBはコバンザメ発動に必要な条件、そのパーティと一緒に行動するという条件を満たしていなかったことに今更ながらに気づいた。
サラ達がいつ帰ってくるかわからないのと宿屋に泊まる金がないのでギルドに居続けたのが裏目に出たのだった。
これでは流石に「リサヴィと一緒に行動していたぜ!」という嘘はつけない。
「そ、それは……なあ?」
どういう神経をしているのかCランクパーティBのリーダーがサラに助けを求める。
当然、サラは無視。
受付嬢の表情が厳しくなる。
CランクパーティBのリーダーが受付嬢に卑屈な笑みを浮かべながら言った。
「た、確かに先に戻ってきたけどよっ、ちょっとは手伝ったんだぜ!」
「邪魔をした、の間違いです」
サラがCランクパーティBの言い訳を即訂正する。
「て、てめえ……」
「そんな事言っていいのか?いいのか?あの事言うぞ?いいのか?」
CランクパーティBはリオにボコられた事を脅しに使った。
彼らクズ冒険者はこのような状況には慣れており、どんなに自分達に非があろうともサラ達を言い負かす自信があったのだ。
サラがため息をついて言った。
「わかりました」
「「「おうっ!」」」
CランクパーティBはサラが争うのをよしとせず妥協したのだと思い、勝利を確信した。
しかし、そうではないことをすぐに知る事になる。
「彼らが私達の依頼の邪魔をしたので叩きのめしました。それを逆恨みしているようです」
「な……」
彼らはサラが真っ向勝負を挑んできたことに一瞬驚いたものの即反撃に移る。
「ざけんな!こっちが被害者だ馬鹿野郎!」
「おうっ!リッキーキラーの野郎がいきなり俺達をボコりやがったんだ!」
CランクパーティBが受付嬢にリオの非道さを三百パーセント増しで告げるが、彼女の反応は薄い。
「あの……」
「俺らが被害者だってわかっただろ!?」
「おうっ!」
「だな!」
受付嬢は首を横に振り、冷めた目をしたまま彼らに尋ねる。
「初歩的な質問ですが、あなた方は何故、リサヴィの皆さんの依頼先へ行ったのですか?」
「リッキー退治を手伝ってやるためだ!」
「「おうっ!」」
そう言ったCランクパーティBの顔は誇らしげだった。
「私達は頼んでません」
サラが補足した後で受付嬢が言った。
「つまり、あなた方は依頼を受けたわけでもなく、リサヴィの皆さんに頼まれたわけでもないのに勝手について行って依頼を邪魔してボコられた、というわけですね」
「おうっ!……って、ちょ、ちょ待てよ!」
頭のおかしい彼らも流石に話がまずい方向に進んでいると気づいた。
「なんでそうなる!?」
「なんでも何もないです。状況から考えてもリサヴィの皆さんのお話が正しいと判断しました。それでもいわれのない暴力を受けたと言い張りますか?」
「て、てめえ!なんだその言い方は!?」
「俺らの方が嘘を言ってると思ってんのか!?あんっ!?」
「はい」
「……へ?」
受付嬢が即答したのを見て呆然とするCランクパーティB。
「ざ、ざけん……」
「もういいです」
サラがまだ反論しようとするCランクパーティBの言葉を遮ると、懐から一枚の紙を取り出してテーブルに置いた。
「サラさん、これは?」
「今回の件ですが村長さんにも証人としてサインをいただいて来ました」
「「「な……」」」
CランクパーティBが固まる。
「彼らがここまでバカな事をしなければ出すつもりはなかったのですが、彼らの行動はあまりにも常軌を逸していますので」
「ちょ、ちょ待てよ!」
もちろん、サラが待つことはなくそのまま続ける。
「この事をギルド本部へ報告して下さい。彼らの冒険者適検査を求めます」
「わかりました。では、こちらはお預かりしま……!?」
受付嬢が手に取るより早くCランクパーティBのリーダーがその紙を掻っ攫った。
「何をするんですか?」
「お、おいおいサラ!冗談だぜ冗談!今のは冗談だって!なっ!?」
そう言ってリーダーは紙をビリビリに破くと無造作にポケットに突っ込む。
「……」
サラはこれ以上、彼らと関わりたくないのでこれで終わらせてもよかったが、受付嬢は違ったようで彼らがテーブルに置いた冒険者カードに手を伸ばす。
しかし、彼らが先に回収した。
「ま、まあ、今回は俺達の勘違いってことでいいぜ!」
「「だな!」」
彼らは無造作に冒険者カードをポケットに突っ込むと媚びた笑みを浮かべながら逃げていった。




