326話 フラインヘイダイ強襲!
リーダーがこめかみに青筋をたてながらわざとらしく首を横に振る。
「……しゃーないな。サラ、お前は後回しだ」
リーダーがそう言うと彼らの目がアリスに向けられる。
「待たせたなアリエッタ」
「え?」
アリスはリーダーにいきなり名を呼ばれ(間違っているが)、驚いた表情をする。
「俺達がサラばっかり相手にしてて自分は呼ばれないんじゃないかと不安になってたろ?」
「おうっ、悪かったな!実はな、俺はサラよりお前の方が気に入ってんだ」
「俺もだ。やっぱ、素直じゃないとな!」
「だな!」
Bランクパーティの面々はそう言うとタイミングバッチリでアリスにキメ顔をする。
「いいっ!?リオさーん!」
アリスは自分が標的になったとわかりリオの背中に隠れる。
Bランクパーティはアリスのその行動を都合よく解釈する。
「まあ、不安な気持ちはわかるぜ」
「おうっ。サラと比較したら誰だって力不足を感じるだろう」
「だが、お前もなかなものものだぞ。戦闘力はともかく、回復魔法はサラと互角だ!俺達が認めてやろう!」
「それにな、俺達はみんないい奴だぜ。安心しろ!な?」
相変わらず上から目線でものを言う者達であった。
そして彼らは言いたいことを言い終えると再びアリスにキメ顔を向ける。
が、全く効果はない。
彼らの言葉を聞いても当然ながらアリスはまったく安心できなかった。
頭のおかしい冒険者達に頭を悩ましていたのはサラとアリスだけではない。
ヴィヴィもだ。
いつもサラが困る姿を見て楽しんでいるヴィヴィであるが、その段階はとうに過ぎて彼らのやり取りを見るのが苦痛になっていた。
ヴィヴィも彼らの話をこれ以上聞いていると気が狂いそうだったので“いつものように”リムーバルバインダーでバカどもをぶっ飛ばそうと考えていた時だった。
ヴィヴィのリムーバルバインダーの目が飛翔するものをとらえた。
「……ぐふ、注意しろ。空から何か来る」
その声に皆が反応し空を見上げる。
ヴィヴィの言う通り空からこちらへやって来るものがあった。
フラインヘイダイだった。
アリスが驚いた声を上げる。
「あれっフラインヘイダイっ!?目撃した場所ってこの辺じゃないですよねっ?」
「ぐふ。いつまでも同じ所に留まっているとは限らんだろう」
「バカ達の大声を聞きつけたのかも知れませんね」
「「「「誰がバカだ!?」」」」
「ぐふ。わかってるではないか」
フラインヘイダイはアリスが言っていたように人の姿をしていた。
青いワンピースのような服を着ており、その背に蝶のような白い羽を生やしていた。
それだけ聞くと妖精を思い浮かべるかもしれない。
しかし、そう思うことがない大きな違いがあった。
一つはその腕だ。
肘から先が武器になっていた。
右腕がレイピア、左腕は刀である。
そしてもう一つは顔だ。
顔はのっぺらぼうで目も口も鼻もない。
耳だけが長い金髪の間から見え隠れてしていた。
Bランクパーティのリーダーはフラインヘイダイの出現に驚いたものの、これはチャンスだと判断した。
「よしっ!サラ!いや、リサヴィ!フラインヘイダイ討伐隊の指揮官である俺が命令する!フラインヘイダイを撃滅せよ!!」
Bランクパーティのリーダーはこのときのために用意していた決めゼリフを叫びポーズを決めてフラインヘイダイを指差した。
リーダーは「決まったぜ!」と内心で自画自賛する。
しかし、リーダーがそのポーズをしたまましばらく待ったがサラどころかリサヴィの誰からも返事はなく、行動を起こす気配すらない。
「おい!お前ら何ボケっとしてる!?指揮官の命令は絶対だぞ!!」
命令を無視され、一人ポーズを取り続けていたリーダーは顔を真っ赤にして怒りを露わにリサヴィを怒鳴りつける。
それに呼応してフラインヘイダイ討伐隊が次々とリサヴィに戦うように命令してくるが、彼ら自身は戦う準備すらする気配はなかった。
リサヴィを代表してサラが面倒臭そうに言った。
「私達は討伐隊のメンバーではありませんので勝手にどうぞ」
「「「「「「「ざけんなっー!!」」」」」」」
サラ達にしてみればふざけているのは彼らの方であるが、当然の事ながら頭のおかしい彼らは理解できない。
そうこうするうちにフラインヘイダイが迫っていた。
そこでBランクパーティのリーダーはある作戦を実行することを決意し、彼のパーティに声をかける。
「よしっ、お前ら!“あの”作戦をやるぞ!」
「「「おうっ!」」」
サラ達はBランクパーティが自らフラインヘイダイと戦う気になった、とは思わなかった。
彼らの本領は姑息な手段をもってのみ発揮されるのであって、自ら前面に立って戦う者達ではないと気付いていたからだ。
実際、その通りであった。
リーダーのいう“あの”作戦とはどさくさに紛れてリオを暗殺、いや、事故死させることだった。
つまり、クズスキル?三途の川渡しをリオに行うことだったのである。
計画はとても単純で、盗賊がスキル、インシャドウでリオの背後に回り、フラインヘイダイが近づいてきたタイミングを計ってリオの背中を押したりするなりして体勢を崩させる、それでフラインヘイダイと接触させるのがベストであるが、そうでなくてもフラインヘイダイの注意を引かせ、リオを邪魔者だと認識させて殺させる、というものだ。
リオが強いとはいえ、隙をつけばその程度のことは可能だと実行する盗賊をはじめ、Bランクパーティは思っており、作戦の成功を疑っていなかった。
これは何度も成功した実績があったことがその自信の裏付けにあった。
つまり、彼らは今までも“三途の川渡し”を使って気に入らない冒険者を何人も始末していたのだ。
そして彼らは勇者候補のリオが死ねばサラとアリスが自分達になびくと何故かまったく疑っていなかったのである。
フラインヘイダイが顔を動かしてリサヴィ及びフラインヘイダイ討伐隊を見回す。
目があるように見えないので本当に見ているのかはわからない。
「ひっ!?」
アリスがフラインヘイダイと目が合った気がして思わず悲鳴を上げた。
実際にはフラインヘイダイに目はないのでアリスの気のせいだったのだが、その声にフラインヘイダイが反応した。
フラインヘイダイがのっぺらぼうの顔をアリスに向けた。
「うっ……!?」
アリスが再び悲鳴を上げそうになったのでリオがアリスの背後から口を塞いで止めるが、既に遅く、フラインヘイダイはアリスを完全にロックオンしたようだった。
両腕を折り曲げると肘の辺りから三本指の手が現れた。
アリスを裸にひん剥いてぱんつを奪うために手を出したのであろう。
フラインヘイダイの指が卑猥な動きをしながらアリスに迫る。
しかし、二人?が接触する直前でリオがアリスを抱えてその場を離れ、フラインヘイダイの卑猥攻撃を回避した。
そのほんの少し前。
リオの背後にインシャドウで忍び寄った盗賊が行動を起こすチャンスを窺っていた。
フラインヘイダイは都合よくリオのそばにいるアリスを標的に選んだ。
盗賊がフラインヘイダイの突撃のタイミングを計り、今まさにリオの背中を押すところだった。
一緒にアリスもフラインヘイダイにぶつかるかもしれないが気にしなかった。
今までフラインヘイダイが標的にした女性をぱんつを奪うために殺したという話は聞いたことはないし、最悪サラさえ手に入ればいいと思っていたからだ。
(スキル!三途の川渡し!)
盗賊が心の中でそう叫ぶ。
だが、スキル?発動中にリオがその場から移動してしまった。
盗賊の体はもう動き出して止められない。
結果、両手を前に突き出した、不自然な格好をした盗賊とアリスの服を剥がそうと迫り手を伸ばしたフラインヘイダイがお見合いする形になった。
更にフラインヘイダイの手の平と盗賊の手の平の位置が偶然一致してピタッと触れ合う。
そこに種族違い?の恋が芽生え……るわけはなかった。
「ちょ、ちょ待てよ!」
状況を理解できない盗賊がパニックになり、触れ合っていた両手を慌てて離してそう叫んだ瞬間、フラインヘイダイは両腕を三本指の手から武器に戻した。
そして右腕のレイピアで動揺する盗賊を容赦なく突きまくる。
その動きは雑でぱんつを剥くのを邪魔されて怒り狂っているようだった。
「があ!ぁぁぁ……」
今まで“三途の川渡し”で殺してきた冒険者達の最期が盗賊の脳裏を過った。
それを嬉しそうに眺める自分の姿も。
そして今、死を迎える自分を嬉しそうに眺めている彼らの姿が浮かんだ。
それが盗賊の最期の記憶だった。
盗賊はフラインヘイダイの八つ当たり?で体中を蜂の巣にされて倒れた。
言うまでもなく、即死である。




