325話 根拠のない自信にかけて
Bランクパーティのリーダーが上から目線で話しかけてくる。
「よしっ、サラ!納得したようだな!」
「するわけないでしょう」
「何だと!?」
「今の話が本当だと言い張るのですか?」
「言い張るも何も本当のことだからな!」
「「「「「「おうっ!」」」」」」
サラは内心ため息をつきながらも彼らに笑顔を向ける。
その笑顔を見て彼らも満面の笑顔を返す。
彼らが勝利?を確信した次の瞬間、地獄へと突き落とされる事になる。
「ではあなた達だけでフラインヘイダイ討伐は余裕ですね」
「「「「「「「おうっ!!……あれ?」」」」」」」
彼らが首を捻る中、サラは笑顔のまま続ける。
「Aランクのハンドレッドアイズを倒せるパーティが二組もいるんですから」
サラの次の言葉が予想でき、止めようする。
「ちょ、ちょ待……」
しかし、その前にサラがキッパリと言い切った。
「私達は必要ありませんね!」
BランクパーティとCランクパーティAが「うっ」と唸る。
「ぐふ。盛り過ぎたな」
ヴィヴィのバカにした言葉にBランクパーティのリーダーがカッとなる。
「だ、黙れ棺桶持ちが!!」
クズ冒険者達は嘘がバレても勧誘をやめない。
しかも未だに上から目線であった。
「お、お前達がリッキー退治なんて下らん依頼ばかりしてるからBランク冒険者として教育してやろうってんだ!」
「おうっ!Bランクの!お前らよりランクが上の俺らがな!」
「Bランクの俺達が誘ってやってんだぞ!感謝して仲間になれ!」
サラが呆れた顔しながら言った。
「BランクBランクと言いますが、このまま放っておけば私達と同じCランクになるのでしょ。大して差はありません」
「だ、黙れ!」
「大体お前らが道草なんか食ってるから約束の期日までもう時間が残ってないんだぞ!」
「おうっ!俺らの時間を無駄にした責任をお前らは取る必要がある!」
「だな!」
「ぐふ。また訳のわからんことを言い出したな」
「なんだとっ!?」
「ですねっ。そんなのわたし達は知りませんっ」
「勝手に私達を待っていて時間がなくなったと言われても自業自得としかいいようがありません」
「「「「ざけんなっー!!」」」」
Bランクパーティが全員見事にハモって怒鳴った。
サラがたまらず頭を振る。
「……いい加減、話してるこちら“も”頭がおかしくなりそうです」
「ぐふっ」
「何がおかしい棺桶持ち!」
ヴィヴィはBランクパーティのリーダーに睨まれてぷい、とそっぽを向いた。
Bランクパーティのリーダーは窮地に追い込まれていた。
CランクパーティAは単独でCランクの依頼をこなすのは不可能ではなく、時間的にも余裕があったためBランクパーティほど焦ってはいなかった。
しかし、Bランクパーティは先程盗賊が言ったようにもう時間がなく、単独でBランクの依頼をこなす実力もない。
今まで冒険者達を従えさせるのに絶大な効果を発揮していた「Bランク」という呪文がリサヴィには全く効かず、得意のハッタリも裏目に出た。
かと言って他に説得する材料もなく、そして知能も絶望的に劣っている。
もし、彼らがリサヴィに固執する事なく、他のパーティを寄生相手に選んでいたら“結末”は変わっていたかもしれない。
だが、リサヴィを利用出来る、という根拠のない自信が邪魔をし、無駄に時間を潰して選択の余地がなくなったのであった。
彼らに残された手はもはや勢いで押し切るのみであった。
なし崩し的にサラをパーティに加えようとする。
「よしっ、サラ!とにかくっ、そういう事だ!ギルドに戻ったらすぐ加入手続きするぞ!」
「よしっ、決まったな!」
「だな!」
「おうっ!」
これには同じくサラを狙っていたCランクパーティAがすかさず抗議するが彼らが唱えた“Bランク”という呪文で沈黙する。
Bランクパーティが「よしっ!サラが仲間になったぞ!」と既成事実のように騒ぎまくる姿を冷めた目で見ていたサラが疑問を口にする。
「あなた達のパーティについてひとつ気になっていることがあるのですが」
「おおっサラ!自分の新しいパーティの事で確認したいことがあるのか!」
「いい心がけだ!なんでも言ってみろ!」
「同じパーティになるんだからな!」
「おうっ!」
Bランクパーティはそう言ってキメ顔をする。
が、勿論サラはスルー。
「もう冗談はいいですから」
「おいおい、誰が冗談なん……」
「何故あなた達のパーティには神官も魔術士もいないのですか?」
Bランクパーティの表情が固まるが、サラは気にせず続ける。
「Bランクともなれば依頼も危険なものが多いはず。攻撃もそうですが特に回復、回復魔法は必須でしょう」
「ぐふ。魔術士と神官がいないから降格したんだろうがな」
「まだ降格してねえって言ってんだろ!」
「そうだぞ!俺らを舐めんな!」
「ぐふ。この状況でよくそのセリフを言えたな」
「て、てめえ!」
「ヴィヴィ、挑発しないで。……それで?」
「「「「……」」」」
リーダーが咳払いをしてどこか遠い目をする。
「もちろん、前は魔術士がいたぜ。だがな、奴にはもう教える事がなくなってな。『これからは自分の道を進め』と言って送り出してやったんだ」
嘘である。
以前、確かに魔術士がいたが、Bランク依頼に失敗した時に死んだのだ。
それも囮にして見殺しにしたのだ。
しかし、その事を全く表情に出さずに嘘を吐き続ける。
「おうっ、俺達のお陰で成長して巣立っていたぜ!」
「だな!」
彼のパーティメンバーはリーダーが即席でついた嘘になんの戸惑いもなくついてくる。
こういうシチュエーションには慣れているのだろう。
リーダーをはじめ、Bランクパーティの面々が誇らしげな顔をする。
しかし、サラ達がそんな嘘に騙されることはなかった。
話し方はとても自然だったが、内容が不自然過ぎたのだ。
「ぐふ。クラスの違うお前達が何を教えるというのだ」
「その話が本当だとしてもそれで自分達が降格とは笑い話ですね」
「なんだと!?」
リーダーがサラとヴィヴィを睨みつける。
いつもならこれで生意気な事を言った者達はランク差もあり、萎縮して謝ってくるところだった。
しかし、サラ達にその者達と同じ対応を期待しても無駄だった。
怯えた様子をまったく見せずサラは続ける。
「まあ、本当にいたとしてもあなた達のクズさに我慢できなくなって出ていったのでしょうけど」
ヴィヴィに挑発するなと言いながらも自分も挑発するサラ。
ただ、サラはずっと頭のおかしい彼らの相手をしてストレスが溜まっていたのでOKなのかもしれない。
「「「「ざけんな!」」」」
Bランクパーティがサラを睨みつける。
(これだけ嫌われればもうパーティに入れとかバカなこと言わなくなるわね)
とサラは思ったが、この程度で諦めるような者達ではなかった。
彼らは先に離脱したCランクパーティBと同じく無能のギルマスがマルコギルドのギルマスのときに冒険者となった、いわゆるG世代の冒険者達である。
しかもメンバー全員がブラックリスト上位に名を連ね、クズスキル?を駆使してBランクにまで上がったクズのエリート集団なのである。
リーダーはこめかみに怒りマークをつけながらも必死に笑顔を作るとサラに言った。
「まあ、これからは一緒のパーティになるんだ。俺達がクズかどうかは冒険しながらその目で確かめればいい」
「「「だな!」」」
他のメンバーも笑顔をサラに向ける。
「なりませんし、もう十分クズだとわかった上で言ってます」
サラの素っ気ない返事でBランクパーティは怒りで顔を真っ赤に染めて喚きまくるのだった。




