321話 俺たちゃフラインヘイダイ討伐隊! その2
しばらくしてフラインヘイダイ討伐隊がなんか喚きながら追いかけてきた。
サラ達は仕方なく立ち止まり、やって来たフラインヘイダイ討伐隊のリーダーにため息をつきながら尋ねる。
「……何故ついて来るのですか?」
「相談してな。しゃーないからお前らの依頼を手伝ってやることにした」
「その代わりフラインヘイダイの討伐手伝えよ!」
「リッキー退治の報酬が少ないのはわかってるが俺達にもよこせよ!」
フラインヘイダイ討伐隊の好き勝手な言いようにサラは頭痛で頭を押さえる。
気づけばヴィヴィ、そしてアリスも同様に頭を押さえていた。
リオだけはいつもと変わらなかったが。
「私達に助けは必要ありませんし、フラインヘイダイ討伐もしません。さあ、これだけわかりやすく、はっきり言えばあなた達“でも”理解できるでしょう」
しかし、彼らは理解できなかった。
サラの言葉にBランクパーティのリーダーがキメ顔でいった。
「実は隠していた事があるんだサラ」
「なんですか?」
「驚かないで欲しいんだが、いいか?」
「さっさと言って下さい」
「俺達はな……Cランク降格の危機なんだ!」
情けない事を口にしたBランクパーティのリーダーは何故か誇らしげだった。
更に彼のパーティも同じく誇らしげだった。
「……デジャヴ?」
「いえっ、前もありましたっ」
サラの呟きにアリスが答える。
Bランクリーダーのバカな発言にCランクパーティAのリーダーが反応した。
てっきりバカにするものと思われたが、
「アンタらもかっ!?実は俺達もなんだ!」
「何!?」
更にもう一組のCランクパーティBのリーダーも声を上げる。
「おおっ!お前ら同士だったのか!?」
「何!?」
「じゃあ、お前らも?」
「「「おうっ!」」」
そのCランクパーティBのメンバーが同時に叫び、腕を振り上げる。
その顔も何故か誇らしげだった。
いや、彼らだけでなく、フラインヘイダイ討伐隊全員が誇らしげな顔をしていた。
今までお互いを牽制し、隙あらば蹴落とそうとしてギスギスしていた彼らであったが同じ境遇だと知り、一気に打ち解けたようだった。
この感動的な場面をリサヴィの面々だけが冷めた目で見ていた。
「……なんですっこれっ?」
アリスが呆れた声で言うとヴィヴィが何を今更という顔で言った。
その顔は仮面で隠れて誰にも見えなかったが。
「ぐふ。サラのクズコレクター能力を甘く見るなと言ってるだろう」
「はっ!?そうでしたっ!ごめんなさいっヴィヴィさんっ」
「ぐふぐふ」
「アリス!謝る相手が違うでしょう!」
「サラさんっ、もう少し能力をコントロールする努力を……って、痛いですっ」
サラのゲンコツをくらい、アリスが頭を押さえる。
「いい加減にしなさい!」
サラが不機嫌な表情をフラインヘイダイ討伐隊に向ける。
「盛り上がってるところすみませんが!」
サラの言葉がフラインヘイダイ討伐隊の感動的な場面を強引に引き裂く。
ムッとしながらもBランクパーティのリーダーがサラを見た。
「なんだ?」
「『なんだ』じゃありません。降格するのはわかりましたがそれがどうしたのですか?」
「まだ決まってねえ!」
「そうだぞ!」、「ざけんな!」とサラにヤジが飛ぶがもちろん気にしない。
「そ、れ、で!?」
サラの迫力に押され、Bランクパーティのリーダーが説明を再開する。
「お、おうっ。降格を避けるにはだな、Bランクの依頼を達成しなきゃならねえんだ」
フラインヘイダイ討伐はBランクの依頼だが、懸賞金がかかった魔物や盗賊の討伐と同じで自己責任だがどのランクでも挑むことができるし、その特性上、事後依頼になる事も珍しくない。
そのため、クズパーティにとってコバンザメをしやすい依頼だった。
Bランクパーティのリーダーに続いてCランクパーティのリーダーも理由を話し始める。
「俺らはCランクの依頼でいいんだが、Bランクの依頼を達成した方が俺らの実力を見せつけられるだろ!」
「俺達もだ!俺らをバカにしたギルド職員を見返してやらねえとな!」
「「「「「「「「「おうっ!」」」」」」」」」
フラインヘイダイ討伐隊の面々が見事にハモった。
他人の力で、リサヴィの力で依頼達成することで実力を見せつけることができるのか甚だ疑問であるが当人達は全く疑問に思わなかったようだ。
サラが疲れた顔で確認する。
「……それでフラインヘイダイ討伐ですか」
「おうっ」
「がんばってください」
「おうっ、頼むぞ!」
サラの投げやりの言葉にBランクパーティのリーダーが応じ、サラの肩を叩こうとしたが直前でサラはすっと避けた。
「おいおい」
「意味がわかりません。今の話で何故、私達が頑張るのですか?」
「あのなあ、俺達だけでももちろんできるが、折角だからお前らリサヴィの力を借りてやろうと言ってんだ。わかれよ」
Bランクパーティのリーダーの物分かりが悪い相手に話をしているような口振りにリサヴィの面々は腹が立った。(リオは除く)
「ここまではっきり言わねえとわからんのか?」
「噂倒れかよ?」
フラインヘイダイ討伐隊の面々は自分達の方が助けを求めているはずなのに上から目線で語る事をやめず、言いたい放題であった。
その後もサラは努力したが、その甲斐も虚しく、彼らにサラの言葉が通じる事はなかった。
仕方がないので彼らの事は無視することにしたのだった。
リサヴィの四名、フラインヘイダイ討伐隊十名の総勢十四名がリッキー退治を行う村に到着した。
その数の多さにビックリする村人達。
迎えに来た村長も驚いた表情をしながら尋ねる。
「あの、私どもが依頼したのはリッキー退治なのですが、その、何か勘違いされていませんか?」
「安心して下さい。依頼を受けたのは私達四人だけです。後ろの彼らは無関係です。宿泊するようならきっちりお金をとってください」
「は、はあ」
その言葉を聞いてフラインヘイダイ討伐隊が文句を言い出す。
「おいおいサラ。そりゃねえだろう?」
「おうっ、せめて宿代と飯代は出してもらえないとなっ!」
「バカな事言ってるとあなた達の行いをギルドに報告します」
サラが冷たく言い放つとフラインヘイダイ討伐隊は沈黙した。
一般常識が通じない彼らであったが、これ以上ギルドに悪い印象を与えてはまずい、とわかる程度の知能はあったようだ。
「詳しい話を聞かせてもらえますか?」
「あ、はい。どうぞこちらへ」
村長の後をリサヴィがついていく。
何故かその後についてくるフラインヘイダイ討伐隊。
サラがため息をついて立ち止まると振り返った。
「なんでついてくるのですか?」
「何言ってんだ。依頼内容確認なら俺達も聞かないとダメだろう!」
「安心しろ!報酬を引き上げてやるぜ!」
その言葉を聞いて村長がビクッとした。
サラは村長に「そんな事しませんよ」と言って安心させた後、彼らに顔を向ける。
「あなた達は依頼と無関係といったはずです」
サラが言葉を続けるよりヴィヴィが早かった。
「ぐふ。本当にいい加減にしろ」
「なんだと棺桶持ち野郎!」
「おうっ、お前さっきからうるせえぞ!ぶっ飛ばされたいか!あんっ!?」
CランクパーティBのリーダーがヴィヴィを睨みつけたあと、サラにキメ顔をした。
それに気づいた他の男達も負けずとサラにキメ顔を向ける。
サラは彼らの行動が理解できず頭を振る。
「何度も言わせないで下さい。これ以上、つきまとうなら一旦ギルドに戻り、あなた達が依頼の邪魔をした事を報告します」
その言葉を聞いた途端、彼らのキメ顔が情けない顔に変わる。
「ちょ、ちょ待てよ!」
「待ちません。次はないですーー村長、行きましょう」
「は、はい」
フラインヘイダイ討伐隊は去っていくリサヴィの後ろ姿をしばらく見つめていた。




