32話 新たな依頼
次の日、三人は新たな依頼を受けるためにギルドへ向かった。
途中で以前、サラに絡んできたパーティとすれ違った。
そのパーティはリオのことは覚えていたようだが、フードを深く被っていた事もあるが、服装を変えたサラには気づかなかった。
それよりも魔装士のヴィヴィを興味深げに見ていたが声をかける事はなかった。
サラはほっと小さく息をはいた。
「どうやらこの格好にしたかいがあったようですね」
「ん?」
「ほら、今すれ違ったパーティは前にギルドでもめた人達です」
「そうなんだ」
「……やっぱり覚えてないんですね」
「うん」
リオはギルドに着くなり真っ直ぐ依頼掲示板へ向かう。
その後をサラとヴィヴィがついていく。
冒険者達が物珍しそうな視線をヴィヴィに向ける。
そのおかげでサラは注目を集める事はなかった。
(……もしかして私、着替える必要なかった?……いえ、そんなことないわ。ヴィヴィとじゃ注目を浴びる理由が違うのだから)
「どうですか、リオ。何か手頃なものはありますか?」
サラはまったく期待せず尋ねる。
「うん、これなんかどうかな?」
そう言って手にした依頼書をサラとヴィヴィに見せる。
前に依頼を受けようとしていたリッキー退治だった。
「……あなた、それ好きですね。そんなにその依頼を受けたいのですか?」
「うん」
「……まあ、あなたがそこまでやりたいなら止めませんけど、リッキーはすばしっこいですよ。リオは弓を使えるんですか?」
「ローズが才能ないって。以前も使った事なかったと思う」
「ぐふ?以前も、思う?」
「あ、僕、昔の記憶がないんだ」
「ぐふ?」
「こんなとこで話すことようなことではないですよ。それよりリオ、遠距離攻撃がないと厳しいですよ」
「そうなんだ?」
「リッキーは今まで相手してきた魔物と違って向こうから襲って来る事はほとんどありません」
「ぐふ。人間の姿を見ると逃げ出すからな」
「そうなんだ」
「この依頼は畑を荒らすリッキーの駆除ですが、ヴィヴィの言う通り人間の姿を見るとすぐ逃げ出します。動きが速いので近づくのも難しいんです。ですからリッキー退治は物陰に隠れて遠距離から弓などで仕留めるのがセオリーなんですよ」
「そうなんだ」
「遠距離攻撃の手段を持たない私達では失敗する可能性が高いですよ」
「サラも弓使えないの?」
「私には向いていませんでした」
「そうなんだ」
「それでも受けたいですか?」
「うん」
リオは全く悩む様子を見せず頷いた。
サラは本当に言ったことが理解できたのかと深いため息をつく。
「……わかりました。で、あなたはどうしますか?」
「ぐふ。付き合おう」
ということでリオ達はリッキー退治をすることにした。
三人は受付へ向かう。
サラはあの問題ありの受付嬢がカウンターにいないこと、いやギルド内に姿が見えないのを確認し、ほっとする。
「これお願いします」
「はい……あら?神官さん、でしたよね。その姿は……」
「はい、ちょっと気分転換に」
「……ああ、なるほど。その姿よくお似合いですよ」
「ありがとうございます」
(そう、その言葉が聞きたかったのよ!)
「……ぐふ。受付嬢も大変だな。冒険者のご機嫌とりまでしなければならないとは」
「何かいいました?」
「……」
「今回は三名なのですね。魔装士とは珍しいですね」
「勝手に付いてきたんです」
パーティを組んでいても必ずしも仲がいいとは限らない。全員仲良しの方が珍しい。
受付嬢は余計な事を言わず淡々と事務処理を行う事を決意した。
「では依頼書を拝見します。……リッキー退治ですね。冒険者カードの提示をお願いします」
三人が冒険者カードを受付嬢に渡す。
ヴィヴィの冒険者カードを見た瞬間、好奇心旺盛な受付嬢はさっきの決意をあっさり捨て去った。
「あら?ヴィヴィさんはユダスの冒険者ギルドで入会されたのですね」
「……」
「ユダス?」
リオの疑問にサラが答える。
「ユダスはここから南東にある街です」
「有名なの?」
「そうですね。まあ、ユダスが、というよりも更に東にある“魔の森”が有名ですね。その森には強力な魔物が棲んでいて、それらを狩るために冒険者が集まってくるんです。強力な魔物ほどプリミティブの価値も高いですから」
「はい、その通りです。そのため常に冒険者不足に悩まされているんですよ」
「冒険者不足?」
「多くの冒険者が魔物との戦いで命を落としているという事です」
「そうなんだ」
(ユダスは冒険者不足を解消するためにギルド会員になる条件が緩和されていたわね。確か紹介なしでも入会試験を受けられる代わりにEランクに上がるまではユダスでしか依頼や会員特典を受けられない、でしたか。ヴィヴィがカルハン出身だとしたら場所があまりにも離れすぎてる。正体を隠すためというならそもそもカルハンタイプの魔装具を使うはずないし……本当に何を考えているのかしら)
「……お待たせいたしました。依頼受領処理完了致しましたのでカードをお返し致します」
「ありがとうございます」
こうしてリオ達は新たな依頼を受けたのだった。
 




