316話 あるBランクパーティの憂鬱 その1
話はリサヴィがマルコを旅だった頃に遡る。
マルコギルドに依頼を終えたCランクパーティが入ってきた。
そのすぐその後を態度の大きいBランクパーティが続く。
カウンターへやって来たCランクパーティをモモが笑顔で迎える。
「お疲れ様です。依頼完了ですか?」
「ああ」
Cランクパーティのリーダーが背後を気にしながら依頼完了書と冒険者カードを差し出す。
続いて彼のパーティメンバーが冒険者カードを差し出す。
更にその後にBランクパーティも冒険者カードを差し出した。
モモは首を傾げながら依頼書完了書に目を通し、BランクパーティがCランクパーティの依頼と無関係である事を確認する。
モモはBランクパーティに営業スマイルをしながら言った。
「申し訳ありません。すぐこの方達の処理を致しますので少し離れてお待ちください」
モモはBランクパーティのカードをまとめて隅に寄せて、Cランクパーティの依頼完了処理をしようとしたが、Bランクパーティのリーダーが抗議の声を上げる。
「おいおい、無関係じゃねえぜ!俺達もこの依頼を手伝ってやってんだ」
そう言ったBランクパーティのリーダーをはじめ、そのメンバーの顔は誇らしげだった。
その言葉を聞き、モモはCランクパーティの顔を見る。
彼らはBランクパーティのリーダーの言葉に納得しているようには全く見えないが反論しない。
Bランクパーティのリーダーが勝ち誇った顔でCランクパーティの依頼を手伝う事になった経緯を語り始める。
言い淀む事なく、考える素振りもなくスラスラと語る姿はまるで定型文でも読むかのようだった。
それだけ彼らはこのような状況に慣れているということだろう。
リーダーはモモに一通り説明を終えると偉そうに言った。
「ほれ、コバンザ……じゃねえ、事後依頼処理頼むぜ」
「俺たちのほうが活躍したが報酬は均等で構わねえぜ」
「だな!」
「おうっ」
その後、何故か彼らは「がははっ」と笑い出す。
モモはBランクパーティの説明に納得して報酬をBランクパーティにも分け……たりはしなかった。
モモは先ほど隅に避けたBランクパーティの冒険者カードを再び確認した後で三人組のCランクパーティに目を向けた。
「報酬はどうされますか?“三人”均等でよろしいですか?」
モモの言葉を聞き、「がははっ」とまだ笑っていたBランクパーティが笑いをやめ、Cランクパーティを押し除けるとモモを怒鳴りつける。
「おいこらっ!俺らも依頼をこなしたと言ってんだろうが!」
「そうだぞ!俺らの活躍を無視する気か!」
「何もしてねえだろ」とCランクパーティの誰かが呟くのが聞こえた。
「ああ!?誰だ!今言ったやつは!?」
「「「……」」」
リーダーを始めたとしたBランクパーティ全員がモモを睨みつける。
「ほらっ、さっさと俺らをコバンザメ、じゃねえっ、事後依頼処理して報酬を入れろ!」
「こりゃ、手間かけさせた分、こいつらより多めに貰わねえとなぁ」
BランクパーティのリーダーがCランクパーティを見てニヤリと笑った。
モモはため息をついて言った。
「申し訳ありませんが、マルコギルドでは事後依頼は禁止となりました」
「「「「へ?」」」」
モモの言葉にBランクパーティはぽかん、とあほ面を晒す。
「ざっ、ざけんなっ!!」
リーダーがそう叫んだ瞬間、隣のカウンターからも「ざけんな!」という叫び声が聞こえた。
隣でも二組のパーティがおり、その一方が叫んだのだった。
モモは怒鳴られても至って平然として対応する。
「ふざけてはいません。それどころか、これは“ふざけた者達”対策です」
「な、なんだと!?」
「冒険者の中にこの事後依頼制度を悪用する者達がおります」
モモの視線を受け、Bランクパーティは一斉に視線を背けると丁度隣のカウンターで先ほど「ざけんな!」と叫んだ者達と目が合った。
彼らも同じタイミングで顔を背けたようだった。
モモは気にせずそのまま続ける。
「その者達はその行為を“コバンザメ”、と呼ぶようです。そういえばあなたも先ほどコバンザメと言っていましたね?」
「い、言ってねえ!」
Bランクパーティのリーダーはモモと目を合わせず否定した。
「そうですか。ともかくですね、依頼を受けた者達について行っただけで依頼を手伝ったなどと言って報酬を奪う者達が後を絶たないため、マルコギルドでは禁止となりましたのでご了承下さい」
「「「「ざけんな!」」」」
Bランクパーティ全員が叫ぶと、測ったかのように隣のカウンターからも「「「ざけんな!」」」の叫び声が聞こえた。
どうやら隣でも同様の事が起こっているようだった。
「おいっ!お前ら!なんとか言え!」
Bランクパーティのリーダーが上から目線でCランクパーティに援護させようとする。
もちろん、彼らが助けるわけがない。
「そうは言ってもな、規則だからな」
Cランクパーティのリーダーが満面の笑みで言った。
「てめえ!俺達はBランクだぞ!」
「お前らより上だぞ!」
そう、彼らBランクパーティはCランクパーティよりランクが上であることを利用し、真面目に依頼を受けたCランクパーティを脅してクズスキル?コバンザメで報酬を奪おうとしていたのだ。
「ランクは関係ありません」
「てめえには言ってねえ!」
モモを怒鳴りつけるBランクパーティのリーダー。
「それは失礼しました。それで三人均等でよろしいですか?」
「ちょ、ちょ待て……」
「「「よろしくっ」」」
「承知しました」
「「「「ざけんな!」」」」
結局、Bランクパーティの抗議が受け入れられることはなかった。
ちなみに隣のカウンターからもほぼ同時に「「「ざけんな!」」」という叫び声が聞こえた。
Bランクパーティが乱暴に自分達の冒険者カードを回収し、カウンターを離れようとするのをモモが引き止めた。
「お待ちください、あなた方には重要なお話があります」
「ああっ!?」
コバンザメ失敗で機嫌が悪いBランクパーティの憎しみのこもった視線を受けてもモモは平然として話を続ける。
「先ほど確認しましたところ、あなた方はBランクになってから一度もBランクの依頼を達成していませんね」
その言葉を聞き、彼らの表情に動揺が広がる。
「ご存知の通り、Bランク冒険者は年に最低一回はBランクの依頼を達成する、受けるではなく、達成する必要があります。これはギルド規約に明記されています。それを行っていない場合はギルドから警告を発し、一ヶ月以内に達成できない場合は資格不十分として降格することになります」
「へ、へえ……」
「そ、そうだったか?」
「お、おっかしいなぁ……」
「へ、へへっ……」
Bランクパーティの面々の表情が卑屈な、媚びた笑みに変わる。
言うまでもなく、それがモモの好感度をアップさせることはなく、更に追求する。
「ただ、不思議なことにあなた方にはギルドから警告が出ていないのですのよ。……クズンに賄賂でも贈りましたか?」
「ク、クズンだと!?し、知らねえなあ!」
「お、おうっ!俺達の知ったこっちゃねえ!」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねえ!」
「てめえらのミスだろ!」
モモは彼らの言い分に素直に頷く。
「そうですね。失礼いたしました」
「わかりゃそれでい……」
「では今ここで警告いたします」
「なっ……」
「ちょ、ちょ待て……」
「本日から一ヶ月以内にBランクの依頼を最低一件達成してください。未達の場合は本部へ降格申請を行うことになります」
「「「「ざけんな!」」」」
隣のカウンターからも「「「ざけんな!」」」の怒鳴り声が聞こえた。
どうやら隣も降格の警告を受けているようだった。
Bランクパーティは今までの経験を活かし、屁理屈をこねて、時には媚びて結果を覆そうと努力するが、ギルドの規定に明記されている事であり、それを覆す正当な理由も出てこなかったのでその努力は無駄に終わった。
「……以上となります。早急にBランクの依頼の達成をして下さいね」
モモが笑顔でBランクパーティに言った。




