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305話 魔術士、常識を取り戻す

 リサヴィが受けた依頼だが、

 

「このまま依頼をお願いするかみんなと相談するので待って欲しい」


 と村長に頭を下げられ明日まで待つことになった。

 今日の滞在費は当然、村側持ちである。

 ストーカーパーティがメチャクチャにした畑だが、村人達は彼らが倒して放置していった魔物の素材を売り払い、損害の穴埋めに使う事にした。

 魔物の死体を集めるのをリサヴィも手伝った。

 その魔物の数を数え終えたヴィヴィが馬鹿にした口調で言った。


「ぐふ。これだけ畑をメチャクチャにして倒した魔物がハイ・リッキー一体にリッキー四体だけか」

「ええっ!?たった五体ですかっ?」

「ぐふ」

「荒らしに来たのがこれだけとは思えませんから他は逃げられたんでしょうね」

「じゃあ、まだ荒らしに来るかもしれないね」

「ええ」

「ぐふぐふ」


 ヴィヴィ達が指摘したように倒したリッキーの数が少なすぎたため、リサヴィは予定通り依頼を受ける事になった。

 ちなみに依頼が中止になった場合だが、リサヴィにはなんの非もないのでリサヴィにキャンセル料が支払われる事になる。



 畑は結構広く、丁度真ん中辺りをファイアボールで焼かれたが、両側は無事だった。

 リサヴィの四人だけですべてを警備するには少し厳しい。

 以前やったように左右それぞれにリオとサラを配置して、ヴィヴィがリムーバルバインダーで畑全体を監視して指示することになるだろう。

 ヴィヴィが前方に見える森を見ながら呟いた。


「ぐふ。いるな」

「そうですね」

「えっ?まさかあのストーカーですかっ?」

「ええ。監視してるのはおそらく盗賊でしょうね。森の中からこちらの様子を探っていました」

「ぐふ。流石にこれだけやらかしといて、また村に入って来るほど図太い神経は持っていなかったか」

「でもよくまだいますよねっ。ほんとどういう神経してるんでしょうっ」

「ぐふ。サラのストーカーだぞ」

「なるほど」

「ですねっ」

「……」


 サラの腕がリオとアリスをロックオンした。

 もはや条件反射に近い。

 しかし、サラはそのゲンコツをどうにか抑えることに成功した。

 また、「リオに触りたいだけ」などと言われたら敵わないからだ。

 だが、いつまでも我慢できる自信はサラにはない。

 サラは努めて冷静に彼らの発言を否定する。


「失礼ですね。私は無関係です」


 しかし、皆スルーし、ヴィヴィが何事もなかったかのように続ける。


「ぐふ。とはいえだ、奴らもそれほど食料があるとは思えん。そのうち帰るだろう」

「なるほど。根比べだね」

「は?」


 リオからリオらしくない言葉が飛び出したので皆の注目がリオに集まる。


「依頼が完了しても彼らがいなくなるまでここに留まろう」

「まあ、この後、急ぎの予定はないですから別に構わないですけど理由を聞いても?」

「ん?彼らがいるとみんなイライラするでしょ」

「ぐふ。以前のように魔物が片付けてくれると楽なのだがな」

「彼らはあの全滅したパーティより強いですよ」

「ぐふ……いっそ始末するか」

「冗談でもそんな事を言うのはやめてください。確かに迷惑な人達ですが、命を奪うほどではないでしょう」

「ぐふ。しかし、奴らはリオを殺そうと考えていただろう」


 ヴィヴィは彼らストーカーパーティがチャンバラごっこをした際にリオとなら真剣にやった、と言ったことからそう考えていた。


「えっ!?」

「そうなんだ」

「あくまでも推測です」

「ぐふ。否定はしないんだな」


 実のところ、サラもヴィヴィと同じ事を考えていた。


「……実行しなければ罪ではありませんし、実行したとしても返り討ちにあったでしょう」

「そ、そうですよねっ!リオさんは強いですからっ!」

「そうなんだ」


 自分の事を話しているのに相変わらずマイペースなリオだった。


「ぐふ。まあ私もここに残るのは反対しない」

「わたしもっリオさんに従いますっ」

「じゃあ、リサヴィとえっと……ストーカー達との勝負だね。この勝負に勝てるようにがんばろう」

「「「……おう」」」


 それなりに長く一緒にいるのに未だリオの考えが読めないサラ達であった。



 村の様子を窺っていた盗賊がパーティの元に戻ってきた。


「どうだ?」


 リーダーに盗賊は首を横に振る。


「あいつら村の中をウロウロしていたぞ。村を出る気配は全然ないな」

「なにやってんだ?依頼なら俺達が終わらせただろうに」

「だよな」

「……」


 彼らは自分達がリッキーを何体倒したのか把握していなかった。

 いや、頭の中では十分倒したと思い込んでいた。

 だから、サラ達が依頼を予定通り受けていることなど全く想像もしていなかったのだ。

 

「村人に難癖つけられているのかもな」


 もしそうなら彼らのせいである事は疑いようがないはずだが、何故か彼らの頭にはその考えが浮かばなかった。


「助けに行くかっ?」

「それもありだな!」

「そうだな。もう少し様子を見て村を出る気配がなければサラ達を助けに行くぞ!」

「「おう!!」」

「……」


 反省どころか、自分達のやらかしを棚に上げて戦士の的外れな意見に賛同する。

 ただ一人、先ほどから会話に参加していない者がいた。

 魔術士だ。

 他の者はまだサラをパーティに加えることを諦めていなかったが、魔術士はただ一人冷静で、彼らのように楽観的にはなれなかった。

 彼だけは自分達の行動はおかしいのでは、と思い始めていたのだった。


「なあ、もう諦めて他に行かないか?サラを仲間にするのは無理だぜ。アリエッタもリッキーキラー、リオだったか、にベタ惚れだしな」


 しかし、魔術士の意見は皆の猛反対を喰らう。


「何弱気になってんだ!まだ挽回できるぜ!」

「まあ、確かにお前は完全にサラに嫌われたけどよ、仲間になったらちゃんと仲直りさせてやるから心配すんなっ」

「おうっ、その通りだぜ!」


 魔術士は仲間の的外れな意見を聞いてため息をつく。

 

「お前ら何言ってんだ?確かに俺は嫌われた。絶望的だ。しかしな、お前らの失敗もサラは許してない。その事を忘れてるぞ」


 魔術士の正論に彼らは納得しない。


「お前なあ、もうさっきの件は終わっただろ。もう僻むのはやめろよ」


 さっきの件とはお互いに責任をなすりつけあったことである。

 魔術士は自分の意見が全く通じていないことに今更ながらに驚いた。

 彼らには自分の意見が捻じ曲がって解釈される。

 

(……ああ、そうか。サラも俺達に“絡まれた時”、こういう気持ちだったんだな)


 魔術士はこのパーティに加入する前は普通の、常識的な考えを持っていた。

 それがメンバーに毒されていつの間にかおかしな考えをするようになっていったのだ。

 しかし、サラに怒られたことがキッカケだったのか、再び常識的な考え方ができるようになっていた。



 彼らの昼食は黒パンと水だ。

 温かい飲み物が欲しかったが、火を起こせばサラ達に自分達がここにいることを知らせることになるので我慢したのだ。

 ……既にバレているので無駄な努力であったが。


 魔術士は手にした黒パンを見て、それを齧る彼らを見て思った。


(……何故、俺は今まで黒パンをそのまま齧ってんだ?)


 魔術士にとって歯や顎がまともでなくては呪文を正しく唱えることができない。

 にも拘らず、彼はいつのまにか彼らと同じように硬いまま齧っていた。

 このまま続けていたら、歯や顎を傷めてまともに呪文を唱えることが出来なくなっていたかもしれない。

 そんな事すら気づかなくなっていた自分に驚いた。

 魔術士は硬い黒パンを力を込めて千切り、水を湿らせて柔らかくして食べる。

 美味くはないが、魔術士でなくなるよりはマシだ。


(……俺はこのパーティにいてはダメになる)


 まだサラを諦めておらず稚拙な作戦を立て始めたメンバーを魔術士は冷めた目で見ていた。

 


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