303話 ストーカーパーティの自慢話
夜も更け、リサヴィはいつも通り交代で見張りを行う準備をする。
サラとヴィヴィ、リオとアリスの組み合わせで最初はサラとヴィヴィが当番だ。
ただ、今回は更に準備が必要だった。
「ここから先は私達のエリアですから入って来ないで下さい」
そう言って、キャンプスペースの地面に木の棒で線を引き、半分に区切った。
一方がリサヴィでもう一方はストーカーパーティである。
しかし、ストーカーパーティは納得しない。
「おいおいサラ、そりゃねえだろう」
「ぐふ。入ってきたら敵対行動と見做し攻撃する」
「ざけんな!棺桶持ちが!」
盗賊が笑顔でサラに話しかけながら今決めたばかりの境界を破って近づいて来た。
「なあ、サラ。同じ見張り番同士仲良くしようぜ。なっ?ちょっとそっちへ……ぐはっ!」
ヴィヴィのリムーバルバインダーが素早く移動し、侵入した盗賊を弾き飛ばした。
「いってえな!いきなり何しやがる!」
「ぐふ。警告はした。次は本気で行くぞ」
「何が本気だっ!」
境界上空を浮遊するリムーバルバインダーを見て魔術士が顔色を変えた。
「ちょっと待て!そいつ、カルハンの魔装士かもしれんっ!」
「それがどうした!?」
吹き飛ばされた盗賊が注意を発した魔術士を怒鳴る。
リーダーが魔術士の慌てように疑問を持つ。
「お前、いつも棺桶持ちをバカにしてただろ?」
「カルハンの魔装士は別だ!ジュアス教団とカルハンとの戦争では魔装士が活躍したって話を知らないのか?俺達が知る荷物運ぶしか能がない奴らとは違うんだ!」
「コイツがそうだと言うのか?」
「た、確かにあの棺桶の動き、素早かったぞ!あんなに早く動かせたのか!?」
ストーカーパーティはやっとヴィヴィがただの荷物持ちではない事に気づいた。
「お、お前、本当にカルハンの魔装士なのか?」
「何故ジュアスの神官と一緒にいるんだ?」
ヴィヴィは彼らの問いには答えず、
「……ぐふ。次入ってきたら……潰す。押し潰す」
とだけ言った。
ヴィヴィの言葉に境界付近にいたストーカー達が慌てて後に下がる。
しかし、まだ彼らは諦めない。
その根性だけは見事であった。
リサヴィにとっては迷惑以外の何者でもなかったが。
彼らはリサヴィ側のスペースへ入ってくることはなかったが、見張りの間、ずっとサラに話しかけてきた。
サラが無視し続けると自慢話を始めた。
見張りがリオとアリスに代わると今度はアリス相手に話し続け、そして夜が明けた。
結局、ストーカーパーティは全員が徹夜した。
四人で夜通し代わる代わる話し続けて皆、声が枯れていたし、ほとんど寝ていなかったのでとても辛そうだったが、リサヴィの知った事ではなかった。
「もうそっち行ってもいいだろ?」
「必要性を感じません」
サラはすげなく断る。
「飯ぐらい一緒に食おうぜ。昨日だって一緒に食っただろ?」
「一緒には食べていません」
サラの言う通り、リサヴィが食べ終わった後に彼らが食事を始めたので、同じ場所で食事をしたものの一緒に食べてはいない。
「じゃあこうしようぜ。俺らの分も作っといてくれ。お前らが食べ終わった後で食べるからよ。それならいいだろ?」
「だな!」
「おうっ」
「これなら文句ないだろ?」
朝から図々しさ全開のストーカーパーティにサラは頭を抱える。
「全然よくありません。自分達で料理しなさい」
「いやいや。俺らは基本、料理しないんだ」
「おうっ、やるとしても狩った獲物を焼いて食うだけだからな!」
自慢げに答えるストーカー達。
「よしっサラっ。やっぱ一緒に飯食おうぜっ」
「だな!お前らが食うの待ってたら時間がもったいないぜ!」
「おうっ!それがお互いウィンウィンの関係だぜ!」
「どこがですかっ、間違いなくウィンルーズですっ」
アリスが堪らず突っ込む。
「……ぐふ。本当にいい加減にしろ」
いつもは「ぐふぐふ」とサラと勧誘する冒険者達のやり取りを眺めて楽しんでいるヴィヴィも今回ばかりは頭に来ていたらしく、リムーバルバインダーを彼らの前に移動させて威嚇する。
「わ、わかったよっ!くそっこのケチ野郎!」
ストーカー達はやっと自分達で朝食の準備を始めた。
とはいえ、彼らの朝飯は黒パンと水のみであった。
またも固い黒パンをそのままかじって食べたのだった。
サラ達は朝食を終え、出発の準備をしているとまたしても彼らが提案を持ちかけてきた。
「なあサラ、相談があるんだが」
サラは嫌そうな顔を隠しもせず振り返る。
彼らはサラの態度を気にする事なく続ける。
「ここでもう少し休んでいかないか?いや、ほんの一時間でいいんだ。ほらっ、俺達、昨日ほとんど寝てねえんだ」
「飯食ったらすげえ眠気が襲ってきてよ。わかるだろ?」
「な、頼むよ」
「……好きなだけ休んだらいいんじゃないですか」
サラが投げやりに答えるとストーカー達は大喜びした。
「そうかっ!悪いな。すぐ回復すると思うからよっ」
リサヴィは準備が整うと彼らに別れを告げることなく旅を再開する。
それに気づき、ストーカー達は荷物をそのままに慌てて追いかけて来てリサヴィの行手を塞ぐ。
「ちょ、ちょ待てよ!」
「なんですか?」
サラが面倒くさそうに尋ねる。
「話が違うぞ!」
「待っててくれるって言っただろ!なんで先に行くんだ!?」
サラはため息をつく。
「そんな事一言も言ってませんし、そもそも何故、私達があなた達と一緒に行動しないといけないのですか?」
「そ、そりゃ、旅は道連れって言うじゃないか。なあ?」
「「「おうっ」」」
彼らは見事にハモって頷く。
「大体だな、俺達が寝不足なのはお前達に話を聞かせてやったからだぞ!」
「頼んでいませんし、うるさくて迷惑していました」
「なんだと!?こっちは眠いのを我慢して話してたんだぞ!」
「頼んでいませんし、うるさくて迷惑していました」
一度では伝わらなかったのでサラは再度繰り返した。
「今頃そんなこというのかっ!?」
「卑怯だぞ!」
「……会話中に何度も『静かにして下さい』と言いましたが聞かなかったのはあなた達です。運よく魔物は襲って来なかったものの夜中にあんな大声で話すのは自殺行為です」
「ぐふ。死にたいなら自分達だけで勝手に死ね」
「てめえ、棺桶も……ひっ」
ヴィヴィのリムーバルバインダーが盗賊の鼻先をかすめた。
「ぐふ。これ以上私達に迷惑をかけるな」
「わ、わかったっ」
「やっとわかってくれましたか」
サラは心底ホッとした。これで彼らと別れることができると。
しかし、
「おいっ、急いで荷物をまとめるぞ!」
「しゃあねえな!」
「まあ、一日寝てねえくらいどって事ねえさ!」
「お前の我儘に付き合ってやるぜサラ!」
彼らはまったくわかっていなかった。
「……ダメだこりゃ」




