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302話 チャンバラごっこ

 結局、彼らはブツブツ文句を言いながらも自分達のバックパックから黒パンを取り出して鍋の内側についたシチューを擦り付けて食べ始めた。

 言うまでもなくリサヴィは何も許可していない。

 彼らが鍋の周囲を陣取ったので、リサヴィは荷物をまとめて置いた場所へ避難した。



 黒パンは固いので温かいシチューなどにつけ柔らかくして食べるのが普通だ。

 しかし、彼らには十分な量のシチューが残っていなかったので黒パンをほとんどそのまま食いちぎって食べていた。

 その歯と顎の強さは評価に値する。


「うめえ!」

「ああっ、このシチューすげえ美味えぜ!」

「ちゃんと食いたかったな!」

「サラは料理も上手いんだな!」

「え……?」


 彼らは料理を作ったのがサラだと何故か思い込み疑いもしない。

 サラは言葉に詰まる。

 シチューを作ったのはリオだったからだ。

 もっと言えば、ウィンドとの旅でサラは料理失格の烙印を押されて以来、料理を作っていない。


「いえ、それは……」


 ヴィヴィがリサヴィにだけ聞こえるように小声で言った。


「ぐふ。サラ、お前の本当の料理で仕留めてやれ。奴らも本望だろう」

「そこまで酷くないわよ!」


 結局、サラは彼らに何も答えなかった。

 勝手に食事している者達の相手をすれば、彼らの行為を許可したと思われかねないからだ。

 そう、決して自分が料理したのではないことを言いたくなかった訳ではない。

 と、サラは心の中で自分に言い聞かせる。



「よし、リッキーキラー、腹ごなしに稽古をつけてやる」


 リーダーは食事が終わると突然上から目線でそんなことを言い出した。

 リーダーが立ち上がって剣を構えるが、リオは全く無反応だった。


「てめえっ、何無視してんだっ!」


 リーダーが顔を真っ赤にして怒りだすと、他のメンバーも立ち上がりリオを非難する。

 無視し続けるリオにサラが声をかける。


「リオ」

「ん?」


 リオがサラの言葉には反応する姿を見て、更に怒りを増大させる冒険者達。

 だが、実のところ、リオが彼らに反応しなかったのは、リッキーキラーという二つ名を自分の事だと思っていないからであった。


「彼があなたと稽古したいそうです」


 その言葉を聞き、リオがリーダーを見た。


「甘えん坊のリッキーキラー!俺がちょっと揉んでやるぜ!」

「……いや、いいかな」


 リオはリーダーをしばらく見た後そう言った。

 リーダーはリオにバカにされた、とは思わず、勝てないと思って逃げたと思った。

 だが、彼、いや、彼らはサラの前で良いところを見せようと考えての行動なのでそこで引き下がったりしない。


「おいおい、お前、Cランク冒険者を叩きのめしたらしいがよ、そいつはCランクの中でも最弱だぞ!Bランクに近い実力を持つ俺を見ただけで勝てないことに気づいたのは誉めてやるがな、そうやって弱い者としか戦わないんじゃいつまで経ってもサラの後ろから出て来れねえぞ」


 リーダーはリオに負けることなど微塵も考えていなかった。

 しかし、リオがリーダーの挑発に乗ることはなく、リーダーの方が痺れを切らした。


「お前情けないと思わないのか!」


 リーダーに反論したのはヴィヴィだった。


「ぐふ。そんなに腹ごなしをしたいなら自分達でやればいいだろう」

「うるせえ!棺桶持ち!テメエには聞いてねえ!」

「お前は黙って荷物だけ運んでればいいんだ!」

「ぐふ」


 サラがため息まじりに言った。


「さっきからあなた方は本当に図々しいですね」

「な、なんだとっ!?」

「私達はあなた方とは無関係です。馴れ馴れしくしないでヴィヴィのいうように腹ごなしをしたければあなた方で勝手にすればいいでしょう。私達を巻き込まないで下さい。迷惑です」

「な、何言ってんだ!これはお前のためでもあるんだぞ!」

「そうだ!お前の真の勇者が誰なのか気づかせるためのな!」

「……聞こえませんでしたか?迷惑だと言ったのですが」


 サラの冷めた声を聞き、彼らは固まった。

 サラが不機嫌な理由は彼らの態度だけではなかった。

 彼らから「お前のため」と言う言葉が飛び出した時に、リオ達の視線を感じたからだ。

 そして「ヴィヴィの言う通りだった」とリオが呟いたのが大きい。

 サラにビビった冒険者達がアリスに目を向ける。


「そ、そうだっ、お前はどうだ?アリエッタ!お前もリッキーキラーが勇者だと思っているようだが……」


 アリスは最後まで聞かずに顔をプイッと背けリオの後に隠れる。


「て、てめえ……」

「本当にいい加減にしなさい」


 サラに重ねて注意され、流石の彼らも今の状況が不利と悟る。


「ま、まあいい。じゃあ、俺達でやろうぜ!サラ!あとアリエッタ!ちゃんと見てろよ!」


 リーダーが「パターンBに変更だ」と呟くのが聞こえた。



 魔術士を除く冒険者達が対戦相手を変えながら剣を交わす。

 が、明らかにヤラセだとわかる。

 対戦相手が変わるとさっきまで一方的に攻撃していた者が防御一辺倒に変わるのだ。

 ジャンケンに例えるとわかりやすいだろう。

 グーのリーダーはチョキの戦士を圧倒し、チョキの戦士はパーの盗賊を圧倒し、そしてパーの盗賊はグーのリーダーを圧倒する。

 サラの前で全員がカッコいいところを見せたいがためにこのようになったのだろうが、これでは誰が強いのかさっぱりわからない。

 しかも練習不足で、所々乱れて、「危ねえだろ!」「そうじゃないだろ!」とかボソボソと聞こえ、全く迫力もない。


「演劇『鉄拳制裁』の方が迫力あったな」というのがリサヴィ全員の感想であった。



 リサヴィの呆れた表情に気づかず、チャンバラごっこ?を終えた冒険者達が息を切らせながら誇らしげな表情をサラに向ける。


「サラ、どうだった!?」

「俺達やるだろ?」

「見直しただろ?」


 そんな冒険者達にサラは冷めた一言を放つ。


「はあ?」

「いやだから俺達の……」


 サラに代わりヴィヴィが感想を述べた。


「ぐふ。下手くそな演技を見せられて不快だ。金返せ。一人金貨一枚だ」

「ざけんな!」

「お前、いい加減にしろよ!ぶっ殺すぞ!」

「おい、サラっお前の感想が聞きたい」

「そうだ聞かせてくれ!誰を勇者にしたい?俺だろ?」

「おいっ、抜け駆けすんな!」


 サラはため息をつく。


「ヴィヴィの言う通り、あんな手抜きを見せられてどうだと言われても困ります」


 自分達の演技がサラにもバレバレだとわかり焦って思わず口を滑らす。


「そりゃ、リッキーキラーが逃げやがったからだ!」

「……それはどう言う意味ですか?リオとなら真剣に戦ったという事ですか?」


 失言した戦士が「うっ」と唸り黙り込む。

 戦士だけではない。

 サラの疑問に他の冒険者達も言葉を失う。

 

「何故、リオとしか真剣に戦わないのですか?」


 サラは繰り返し質問した。


「そ、それはリッキーキラーに勝てばお前はそいつを勇者だと思うだろ!?」

「だな!それならやる気は全然違うぜ!」

「おうっ!」


 今までの冒険者達と同じように勝手なルールを作っては騒いでいる彼らにサラは呆れる。


「私から言えることは一つです」

「な、なんだ?」


 この状況で何故か期待に満ちた目を向ける冒険者達にサラは冷たく言い放つ。

 

「腹ごなしができてよかったですね」

「「「「……」」」」


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