301話 追跡者達
リサヴィはある街で依頼を受け、依頼先の村へ向かう途中であった。
前方にキャンプスペースが見えてきたので休憩を取る事にした。
キャンプスペースに到着するとヴィヴィがバックパックから薬草、ケトル、発熱する魔道具であるホット、そして人数分のカップを取り出す。
ヴィヴィも喉が乾いたらしく、自分のマイカップも取り出していた。
サラが魔法で水を生成し、ケトルに注ぐと、ホットの上にケトルを乗せて湯を沸かす。
「ぐふ」
ヴィヴィの呟きにサラが反応する。
「やはり私達をつけて来ているようですね」
「ぐふ」
「えっ?誰かつけて来てるんですかっ?」
「ええ。私達が休憩したので向こうも足を止めて休憩しているようです」
アリスが辺りを見回そうとするのをヴィヴィが止める。
「ぐふ。向こうは私達が気づいていないと思っているのだ。こちらから教えてやる必要はない」
「す、すみませんっ」
「どうしますかリオ?」
「なんで尾けてるんだろう」
「ぐふ。サラのストーカーだろう」
「ストーカーって事はカリスって人ですかっ?」
「ぐふ。違うな。奴だったらこんな面倒な事はしない。サラのクズコレクター能力が発動して新たなストーカーを生み出したのだろう」
「なるほど」
リオは不意に下を向いた。
サラにどつかれたと気づく。
「僕、なんで……」
「失礼なことを言ったからです」
「言ったのはヴィヴィだよ」
「ぐふ。サラは何かと理由をつけてお前に触れたいのだ」
「そうなんだ」
「ち、違います!」
「流石ですっサラさんっ!ストレス解消かと思ってましたがっそんな深い意味があったなんてっ!」
「違います!ってストレス解消でもありません!」
「「「……」」」
「な、なんで沈黙するんですか!本当です!本当ですよ!リオ!私はあなたの事を思って……」
「ぐふ!そう言う奴に限って実は自分のためなのだ」
「失礼ね!」
「まだまだわたしはサラさんのずる賢さに敵わないですっ」
「あなたも大概失礼ね!」
「ぐふぐふ」
ヴィヴィは仮面をズラして薬草茶を飲む。そしてまた仮面を戻すという動作を繰り返す。
「仮面を外したらどうですか?そんなに素顔を見られるのが嫌ですか」
「ぐふ。ただでさえ、お前達は目立つのだぞ。それ以上である私まで素顔を晒せば街道が渋滞になるだろう」
「はいはい」
「ぐふ。納得してくれたようで何よりだ」
「……」
サラはどっと疲れが出た。
アリスが茶のお代わりをリオのカップに注ぎながら疑問を口にする。
「あのっ、サラさんのストーカーである可能性が一番高いのは確かですけどっ、盗賊って可能性はないのですかっ?」
「ぐふ。それはないな。奴らは冒険者だ」
「えっ?そうなんですかっ?」
「ええ。ヴィヴィの言う通り彼らは冒険者です。ギルドからついて来てますからね」
「そうなんですねっ。でもこそこそ跡をつける理由はなんですかねっ?」
「ぐふ。これまでのパターンから想像するに私達が魔物に遭遇した時に偶然を装って助けに入ろうとでも考えてるのではないか」
「なるほどっ」
「ぐふ。まあ、だとしても私達が苦戦する相手に奴らが敵うとは思わないがな」
「そうですねっ」
リサヴィが移動を再開するとストーカー達?も再び動き出した。
付かず離れず一定の距離を保っている。
その夜、ストーカー達?の動きに変化が起きた。
リサヴィがキャンプスペースで食事をしているところへストーカー達?が偶然を装ってやって来たのだ。
「おっ?まさかサラか?」
「何っ?本当にサラじゃないか!」
「いやあ、奇遇だなぁ。こんなところで会うなんてな!」
「なんか運命を……って何笑ってんだ!棺桶持ち!」
身を震わせていたヴィヴィを冒険者達が睨みつける。
「ぐ、ぐふ……気にするな。私にかわまず、続けるがいい」
尾行がバレていないと思っての彼らの言動は滑稽であることこの上ない。
サラとアリスも笑いを堪えるのに必死だった。
ちなみにリオはいつもと同じく全く何も考えていないようだった。
リサヴィの間から漂う雰囲気にそのパーティの面々は尾行がバレていた可能性に思い当たるが、ここまで来た以上止めるわけにはいかない。
リーダーが何事もないように振る舞って話を進める。
「お、お前ら飯食ってんだな」
「そういや俺らもまだだったな」
「せっかくだ。ご馳走になるか」
「そうだな。そこまで言うならな」
「「「「……」」」」
サラ達が何も言ってないのに彼らの中ではいつの間にか一緒に飯を食う事になっていた。
しかもリサヴィの奢りで。
彼ら本来の計画では、「ご馳走になるか」のセリフに至る間にいくつか会話を挟み、サラ達の方から「よかったら一緒に食事をしませんか?」という言葉を引き出してから言うはずだった。
しかし、尾行がバレていたかもしれないという不安から焦って手順をスキップしてしまったのだ。
その結果、彼らはとても図々しい者達、という印象を与えた。
……まあ、ストーカー行為をしていた時点で彼らの印象は最悪だったので更に悪印象が加わったところで何も変わらない。
そもそも手順通りしたとしてもサラ達が彼らを食事に誘う事はなかったのだ。
彼らは手順をスキップした事に誰も気づかず、そのまま話を続ける。
「なあサラ、俺らの皿は?」
あまりの図々しさに唖然とするサラ。
「サラは食い終わったんだな。なら俺はサラの使った皿でもいいぜ!」
「あっ!ズルいぞ!」
サラは手を伸ばしてきた冒険者達の手を叩く。
「痛えっ!」
「何するんだ!?」
サラはため息をつく。
「それはこっちのセリフです。食事以前に何勝手に私達のキャンプに入って来てるんですか。スペースならまだ空いているでしょう」
「まあ、そう言うなって。こうやって出会ったのも何かの縁だ」
縁、という言葉に「ぐふっ」とヴィヴィが小声で笑ったが、そのパーティは気づかなかった。
彼らは皿を借りることは諦めたが、食事は諦めていなかった。
「しゃあねえ、皿は俺らの出すか……って、なんだシチューもうないじゃないか!」
今頃になってシチューが空であることに気づくストーカー達。
「えっ?俺達の分ないのかよっ」
「おいおい勘弁してくれよ!」
「……何故あると思ったんです?」
彼らの底の見えない図々しさにサラは更に頭痛が増してきた。
しかし、この冒険者達はサラのクズコレクター能力によって引き寄せられた?者達である。
精神構造が普通であるはずがなかった。
自分達の図々しさを棚に上げて説教を始める始末である。
「普通はな、明日の朝の分も作っておくもんだぜ」
「あなた方の常識は知りません」
「おまえなぁ。人が親切に言ってやってんのに……」
「まあまあ、落ち着けって」
リーダーが戦士を宥める。
「鍋の周りにパンをつければまだいけるぜ!おいっ、パンはまだあるんだろ?」
パンを要求し出す冒険者達に我慢の限界を超えたサラが文句を言おうとするが、ヴィヴィの方が一足早かった。
「ぐふ。一個金貨一枚だ」
ヴィヴィが提示した悪徳商人もびっくりのぼったくり価格にそのパーティの面々が怒りを露わにする。
「ざけんなよっ!この棺桶持ちが!」
「パーティの寄生虫が出しゃばるんじゃねえ!」
彼らの知る魔装士はフェラン製の荷物運搬に特化した魔装士だったので、ヴィヴィを見下していた。
中でも魔術士は魔装士の事を魔術士になれなかった出来損ないとの思いが強く、特に見下す傾向が強かった。
「おいっサラ!こいつになんとか言ってやってくれよ!」
サラは魔術士の言葉に応じてヴィヴィに言った。
「四個買うなら多少まけてあげてもいいのでは?」
「ぐふ。そうだな。では四個で金貨三枚の出血大サービスだ。持ってけ泥棒」
「「「「泥棒はテメエだ!!」」」」
冒険者達の叫びは見事にハモった。
その叫びを聞いて「流石、パーティ組んでるだけはあるな」とリオがぼそりと呟いたが誰も聞いていなかった。




