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300話 冒険者ルピル

 リサヴィがある街の宿屋の一階の酒場で食事をしながら談笑している時だった。


「よっ、死神パーティっ」


 そう声をかけて来たのは皮肉った表情をした男だった。

 姿は二十代後半といったところでなかなかの美形である。

 しかし、声をかけられたリサヴィはといえば誰も反応せず、会話を続ける。


「おいおい無視かよ。冷えなぁ!」


 男はリオ達が注文した骨つき肉をひとつ、許可なく掴むとかぶりついた。


「……何か用ですか?」


 仕方ない、という態度を隠しもせずにサラがその男に話しかける。

 男がニヤリと笑った。


「それだよっそれっ!最初からそう聞いてくれよ。俺は小心者でさあ。無視されるのが一番堪えんだよ」

「そうですか。ではもっと無視すべきでしたね」

「言うねえ!」

「ぐふ。お前がさっき口にした死神パーティとは私達の事か?」

「そう!それな!聞いた事ないか?」

「初耳ですね」

「ははっ、そうか。最近そんな噂が広まってんだぜ。あんたら、リサヴィに関わった奴らはみんな不幸になるってな!」

「不幸ですか」

「おう。覚えがあるだろ?魔の領域とか、他の冒険者と一緒に受けた依頼とかでみんな酷い目に遭ってるだろ」


 男はフードを深く被ったサラに笑顔を向ける。

 サラは不機嫌な気持ちを隠しもせず反論する。


「心外ですね。魔の領域での事は無能のギルマスのせいですし、他だって無理矢理勝手についてきて自滅してるだけです。こちらが迷惑しているのです」

「そうなんだ」

「おいおい、お前も他人事じゃないだろ、リオ」


 サラは男がリオのことを二つ名の“リッキーキラー”ではなく、本名で呼んだことに内心驚いていた。

 “リッキーキラー”という二つ名が有名になったせいか、リオの本名を知る、というか覚えている者は少ない。

 それに加えて最近では演劇「鉄拳制裁」のせいでリオの名前を“ショータ”だと思ってる冒険者もいるのだ。

 名前を呼ばれたリオがその男の顔を見る。

 男がリオに向かって嬉しそうに言った。


「お前と決闘したせいでそのパーティは潰れたんだぞ」

「そうなんだ」

「いやいやっ!そこは『そうなんだ』じゃないだろっ!お前の事言ってんだぞ!」


 余裕をかましていた男だったがリオの態度に思わず素で突っ込んだ後、

 はっ、とした表情になる。


「……っと、悪い。今のは俺らしくなかったな」

「いえ、そもそもあなたの事は知りませんので」

「あれ!?俺の事知らない?」

「ええ」


 男はまたも素で驚く。

 男は頭をポリポリとかきながら骨つき肉をまたひとつ掴む。

 ガブっと食らいつき、


「俺の名はルピルだ。これでもBランク冒険者だぜっ」


 と自己紹介する。


「ぐふ。クラスはなんだ?」

「お?聞いちゃう?ヴィヴィ聞いちゃう?この姿見てわからんか?」


 見た目通りなら軽装の戦士か盗賊といったところだろう。

 しかし、ヴィヴィの答えはそのどちらでもなかった。


「ぐふ。魔術士」

「へ?」

「そうですね。魔術士でしょう」

「魔術士かな」

「あ、あのっ、わたしも、そのっ、魔術士だと思いますっ、えへへっ」


 アリスの答えはみんなの真似をしたのがバレバレであった。

 ルピルががっかりした表情をする。


「残念ながら当たりだっ!くそっ」


 とルピルは文句を言いながら、フライドポテトを一個つまみ、パクッと口に入れる。


「あなた、さっきから何勝手に食べてるんですか?お金払ってもらいますよ」

「ケチ臭いこと言うなよ。依頼受けまくって儲かってるんだろ」

「リッキー退治が儲かるとでも?」

「……」

「何か言ったらどうですか?」

「まあ……それはそれ!これはこれだ!」


 そう言ってルピルは満面の笑みを浮かべて誤魔化そうと話を変える。


「ところでリオはなんで俺が魔術士だとわかった?神官のサラや魔装士のヴィヴィはなんとなく気づいたかもしれんが、リオはどうしてわかった?実はお前も魔術士、とか?」


 ルピルは好奇心に満ちた目をリオに向ける。

 問われたリオの答えは、ルピルを失望させるものだった。


「ヴィヴィとサラがそう言ったから」


 その答えを聞いてアリスが心底安心した顔をするが誰も気にしていなかった。


「そんな理由かよっ」


 ルピルのがっかり顔に同情したのかは知らないがリオが更に付け加えた。


「あと、なんとなくナックに似てるからかな」


 ルピルはどこか不機嫌そうな表情になる。

 

「……ナックって言うのはウィンドのナックか?」

「ナックを知ってるのですか?」

「そりゃ、……同じBランク魔術士だしな。あとヨシラワ……いや、ある場所で似てるって言われた事がある」


 サラの問いにルピルはどこか不機嫌そうに答えた。

 サラが「ああ」と、そしてヴィヴィが「ぐふ」と頷く。

 ルピルはその様子に納得いかないという顔をしながらリオに確認する。


「つまりだ、リオ。お前は俺の性格がナックに似てるから魔術士だと思ったのか?」

「どうだろう」


 リオはどこか曖昧な返事をする。


「はっきりしない奴だな。お前は本当に勇者なのか?」

「違うよ」

「は……?」


 ルピルはリオが即否定した事に呆気にとられる。

 ルピルがサラとアリスを見た。

 サラは首を横に振ったが、アリスが立ち上がり、声高に叫ぶ。


「リオさんはわたしの勇者ですっ!」


 一瞬、酒場が静まり返った後、


「そうなんだ」


 とリオが感銘を受けた様子もなく呟いた。

 アリスは顔を真っ赤にして席に着く。

 酒場に喧騒が戻った。



 サラが小さく咳払いをして会話を再開する。


「それでルピルでしたか。あなたは私達に何か用があるのですか?あるなら早く用件を言って出て行ってください」

「ぐふ。食べた分の料金を払ってな」

「おいおい連れねえなあ。そんなのは一つしかないだろ?俺をリサヴィに入れてくれないか?」

「あなたはフリーなのですか?」

「今はな。ちょっとドジってな、って、俺がじゃないぜ!でだ、俺以外全滅したんだ。それ以来、パーティに入ってねえ」

「ぐふ。では今まではどうしていたのだ?」

「依頼のことか?その都度、他のパーティにくっついて受けてたんだ。魔術士は貴重だからな。参加させてくれ、って言えば大抵歓迎される。俺はBランクで腕利きだしな!」

「ぐふ。自分で言うか」

「はははっ、事実だからな」

「でしたら他のパーティから誘われたでしょう?」

「ああ。もちろん、誘われたさ。だが気が乗らなかった」

「ぐふ。私達は死神パーティなのだろう。お前は自殺願望者か」

「ははは。そんなわけあるか。今までリサヴィに絡んで来た奴らは単純に力不足だっただけだぜ。奴らはお前達を冒険者ランクだけで判断してやがった。サラなんてその実績を見れば明らかにBランクを超えた強さだってわかるだろ。なのによ、CランクやDランク程度の冒険者が上から目線で誘うとか、それだけで自分が無能だって言ってるようなもんだ」

「ぐふ。お前は容赦ないな」

「それ程でも」

「褒めてないと思いますっ」


 ルピルが誇らしげな顔をしたので思わずアリスが突っ込む。

 サラがため息をついてからリオを見る。


「どうしますリオ?」

「ん?」


 リオが料理から顔を上げ、

 

「必要ないよ」


 とルピルの願いをあっさり断った。

 しかし、今までリサヴィに絡んできた者に聞き分けのいい者はいなかった。

 当然ながらルピルも納得しない。


「リオ、理由を教えてくれないか?あ、俺の方がランクが上だからってリーダー代われとか言わねえし、威張ったりもしねえぜ」

「僕の出番がなくなる」

「……は?」


 リオの想定外の答えにルピルは思わずぽかん、となった。


「僕の出番がなくなる」

「いや、聞こえてた」

「そうなんだ」

「おいおいリオ!お前、器が小さ過ぎだろ!そんな奴じゃないと思ってたんだがな」

「何を言うんですかっ!リオさんはすごい人ですっ!器の大きいひとですっ!」


 アリスがむっとした表情をルピルに向けて根拠を示さず断言する。

 しかし、当のリオは全く気にしていなかった。

 それどころか、


「早く気づいてよかったね」


 という始末である。

 その様子を見てルピルがため息をつく。


「ちぇっ、挑発も乗ってこねえか」

「えっ?今の挑発だったんですかっ?」

「ああ。乗ってきたのがアリエッタじゃしょうがない」

「なっ!?」


 アリスが名前を間違えられてぷっと顔を膨らます。


「ま、フラれてしまったんで大人しく去るぜ。……今回のところはな」


 ルピルは最後に気になる一言を付け加えると残り最後のポテトを掴み、パクッと口に放り込んで酒場を出て行った。

 そこでアリスはある事に気づいて叫んだ。


「あっ!!あの人っ、結局、お金払いませんでしたよっ!Bランク冒険者のくせにせこいですっ!」

「ぐふ。そっちがメインだったのかもな」

「そうなんだ」


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