30話 幽霊屋敷 その3
その後もスレイブデイスが現れたが、サラのターンアンデッドで消滅させた。
二階の調査が終わり、地下に降りた時だった。
「マスターデイス!」
(今までに出会ったスレイブデイスの部位が顔に揃ってるからこれが屋敷のボスで間違いないわね。ーーさてどうしようかしら)
サラはマスターデイスを強敵と言ったが、あくまでもリオにとって、と言う意味だ。
ナナルに鍛えられたサラの敵ではない。倒そうと思えば一瞬で片がつく。
すぐにそうしなかったのはリオに経験を積ませるか考えていたからだ。
マスターデイスもこちらの様子を見ているようだ。
スレイブデイスより知能は高いが話し合いが通じる相手ではない。
(私が前衛で、リオには後ろから聖水がなくなるまで攻撃させましょう)
サラが指示をする前にリオが動いた。
リオは小瓶の蓋を開け、聖水を剣の刃にかけるとマスターデイスに向かって走り出した。
「リオ!?」
リオはマスターデイスに迫り、剣を一閃する。
物理攻撃の効かないはずのマスターデイスがリオの攻撃を受けて悲鳴を上げた。
悲鳴イコール気力低下攻撃であるがリオ達に何の影響もなかった。
「いける」
リオは自然とそう口にしていた。
リオの戦法は間違ってはいない。
ベテラン冒険者でもやる戦法で、聖水をかけることで普通の武器でもアンデッドにダメージを与える事が出来るようになる。武器に魔法を付加させるようなものだ。
だが、これには問題があった。
聖水を刃に満遍なくかける事はまず不可能で効く場所と効かない場所ができる。また大半は地面に流れ落ちてしまう。
さらに聖水は空気に触れるとその効果が薄れていくのだ。
だからこれはあくまでも神官がいない場合の戦法だった。
今回はサラが即席で作った聖水だったため劣化速度が通常より早く、リオの三度目は攻撃はマスターデイスに命中したもののその体を素通りする。
「あれ?」
「下がってリオ!」
サラはこれ以上のリオの暴走は危険と判断し、マスターデイスを倒すことを決意する。
マスターデイスはそれを察したのか、目を光らせ、口からは奇声を発する。
二つの同時攻撃にリオの動きが止まる。
マスターデイスが右腕がリオに触れる、次の瞬間、リオは壁に叩きつけれ、ベルトにつけていた小瓶が割れる。
それがマスターデイスの追撃を防いだ。小瓶から流れ出た聖水がリオの体を濡らし、防御の役目を果たしたのだ。
マスターデイスの攻撃はそこまでだった。
サラはマスターデイスの同時攻撃をレジストしており、すぐにターンアンデッドを発動する。
マスターデイスがあっけなく消滅した。
リオの頭が不自然にに下を向いた。
サラに殴られたと気づく。
「痛いよ」
「本当に痛かったですか?」
「たぶん」
(本当に困った子ね。言っても反省しないし、叩いても痛みを感じないからやっぱり反省しない。どうやって反省させればいいのかしら?)
「何故叩かれたかわかりますか?」
「殴りたかったから?」
「……今の話はもちろん冗談ですよね?」
「……」
「……本気で言ったのですか?」
「ヴィヴィがサラは暴力神官でいつも殴る機会を伺ってるって……」
「……」
(……ダメだ。この子は)
サラはそう思いながらももう一発ゲンコツをお見舞いするのだった。
「私が殴ったのは、私の指示なく勝手に攻撃したからです」
「ああ、ごめん。聖水の瓶、何個か割れちゃった」
「聖水より怪我です。血が出ているじゃないですか」
「……ああ、ホントだ。怪我してるみたいだ」
「みたい、って……まったく……無理はしないように、って言ったでしょ」
「無理だと思わなかったんだ」
「まだまだ状況判断が甘いという事です」
「そうなんだ」
サラは一つため息をつき、リオにヒールをかける。
しかし、リオの傷は治らなかった。
「効かない!?そんなことって!」
サラは再びリオにヒールをかけるが結果は変わらなかった。
(魔法が効かないなんて……いえ、ちょっと待って……何かおかしいわ。今かける瞬間に……まさか)
「リオ、あなた……」
「ん?うまくいった?」
サラは信じられないという表情でリオに確認する。
「……ヒールをレジストしたのですか?」
「あ、うまくできて……」
リオの頭が不自然に下を向いた。
サラに殴られたのだと気づく。
「バカなことするんじゃありません!どこにヒールをレジストする人がいるんです!?」
「ごめん」
「次やったら二度とあなたの治療はしませんよ!」
「わかった」
リオは済まなそうな表情をしたが、どこか作りめいて本当に悪いと思っているのか判断がつかなかった。
(信じられないわ。ヒールをレジストするなんて……そもそもヒールをレジストできるなんて今まで聞いたことないわ。それをこうも簡単にやってしまうなんて……)
サラはリオに三度目のヒールをかける。
今度は成功した。
マスターデイスを倒した後、一通り見回ったがアンデッドは現れなかった。
それでも念のため、今夜はこの屋敷に泊まって取り逃がしたデイスがいないか様子を見ることにした。
一旦、宿屋に戻りその事をヴィヴィに告げる。
ヴィヴィは盾こそ装備していなかったが、仮面とコートを身につけていつでも出かけられる姿をしていた。
万が一の時のため助けに行く準備をしていたのかしら、とサラは密かに思う。
話を聞いたヴィヴィはリオに注意をする。
「ぐふ。襲われないように気をつけろ」
「大丈夫だよ」
「あくまでも念のためです」
心外とでも言うようにサラが言った。
「ぐふ。誰も悪霊にとは言ってない」
ヴィヴィはサラに向かって言った。
その意味をサラはすぐに理解し、ムッとする。
「どういう意味ですか?」
「ぐふ。そのままの意味だ」
二人がじっと睨み合う中、リオはマイペースだった。
「サラ、ご飯食べて早く戻ろうよ」
「……そうですね」
サラはヴィヴィから視線を外す。
「ヴィヴィはどうする?やっぱり携帯食?」
「ぐふ」
「わかった。じゃ、行こうサラ」
「はい」
二人は宿屋の一階で夕食を済ませると幽霊屋敷へ向かった。
新たな悪霊が出現することなく朝を迎えた。




