299話 ストーカー、サラと再会す?
ざっざっざっざっ。
サラを探して今日もカリスが進む。
その後ろをカリスと別れる機会を窺う盗賊と戦士が続く。
カリス達がやって来たのはリサヴィが滞在しているとの情報があった村である。
「おいカリス、無茶はするなよ」
盗賊が興奮気味のカリスを落ち着かせようとする。
「わかっている!だがそれはリッキーキラー次第だ!」
カリスは酒場に入ると開口一番叫んだ。
「サラ!いるか!俺がっ!お前の勇者が助けに来たぞ!」
客が何事かとカリス達に視線を向ける。
居心地を悪そうにするカリス以外のメンバー。
「サラ!リッキーキラー!どこだ!リサヴィ!」
「あの、もう少しお静かに願います」
宿屋の主人がやって来てカリスを注意する。
酒場とはいえ、カリスの大声は皆の迷惑以外のなにものでもなかった。
「すまねえな。俺達はリサヴィがこの村にいると聞いてやって来たんだが、どこにいるか知ってるか?」
「リサヴィの皆さんならそこに」
盗賊の問いに宿屋の主人が一組のパーティを指差す。
そのパーティは以前、サラ達が出会った偽リサヴィであった。
性懲りも無くまたもリサヴィを騙ってタダ飯を食っていたのだった。
カリスの顔が真っ赤に染まる。
「……コイツらがリサヴィだと!?ではサラはどいつだ!?」
偽リサヴィの魔装士が危険を察し、「おいっよせっ」と止めるのも聞かず、酔って気分が良くなっていた偽サラ役の大男が立ち上がる。
「我が鉄拳制裁のサラで……ぐヘっ!?」
偽サラはカリスの怒りを込めた鉄拳を顔面に食らい吹っ飛ばされる。
「ざけんな!ぶち殺すぞ!」
カリスの怒りの形相に自称リッキーキラーの酔いは一気に冷め、しゅたっ、と席から立ち上がり腰を九十度に曲げて謝罪する。
「す、すんませんっ!嘘ついてましたっ!」
「ああ、やっぱり」とあちこちで声が聞こえる。
村人達も明らかに怪しいとわかっていたが、本人に会ったことがなかったのと、自称リッキーキラーは口が上手く丸め込まれていたのだった。
カリスが自称リッキーキラーの胸ぐらを掴む。
「本物はどこだ!?」
「さ、さあ……」
「ふざけんなっ!!お前らのせいでどんだけ無駄足踏んだと思ってんだ!!」
「ひ……、ちょ、ちょ待て……ぐへっ!」
カリスは自称リッキーキラーをこれまたぶっ飛ばす。
「おいっ!そこの棺桶持ち!顔を見せろ!」
危険を真っ先に察して仮面を被っていた魔装士だったが、カリスに命じられてビクビクしながら仮面を外した。
現れた中年男の顔を見てカリスは舌打ちをする。
「本物はどこだ!?」
魔装士がブンブンと首を横に振る。
「お前ら……ぶっ殺す」
カリスが大剣に手をかけた。
「待てカリス!おいっお前ら!今度こんな真似したら命の保証はないからな!」
盗賊がカリスを宥めつつ偽リサヴィに警告する。
「ひっ、わ、わかった!」
自称リッキーキラーと偽サラはKOされて返事が出来ないので、魔装士が代表して返事をする。
魔装士が気絶した二人を引きずりながら酒場を出て行くと、その後を店員が「お客さん!お金払って!」と追いかけていった。
「くそっ!余計な手間かけさせやがって……」
「まさかリサヴィの偽物がいるとはな。あいつら何が目的だったんだ?」
「知るかっ!それより行くぞ!」
「ちょっと待てよ。俺は疲れてるから今日はここに泊まるぞ」
戦士の言葉にカリスが怒りの目を向ける。
「ざけんなっ!サラは今も俺の助けを待っているんだぞ!あの卑怯者のリッキーキラーと棺桶持ちにどんな目に遭わされているかわからんのだぞ!」
カリスの中では実際の目で見た事よりも妄想が現実となっていた。
その妄想の中でサラはリッキーキラーことリオと棺桶持ちことヴィヴィにより無理矢理連れて行かれた事になっているのだ。
「おい、落ち着けって。ギルドでサラに会った時は全然そんな感じなかっただろ。もしそうならあの時、俺達に助けを……」
「何言ってんだ!お前らはまだサラと会った事ねえだろ!」
「「……は?」」
もはや、カリスの中ではサラとギルドで再会した事は妄想と矛盾するため削除されていた。
盗賊と戦士は唖然とする。
カリスは「行くぞ!」と二人に声をかけて歩き出す。
仕方なさそうに盗賊がその後に続くが、戦士はその場を動かなかった。
「さっきも言ったが俺は体力の限界だ。だからここで一泊する。すぐ追いつくから先行ってくれ」
「なっ……」
盗賊は戦士がここでパーティ(まだ結成してはいないが)を抜けると言っているのだと気づく。
しかし、カリスはその言葉をそのまま受け取った。
「お前、それでもBランク冒険者か?情けねえ。勝手にしろ。だが、すぐに追いついてこいよ。じゃないとサラが仲間になった時、お前の治療はさせんからな」
「おう、わかったぜ」
カリスの歪な笑顔に戦士は笑って答えた。
内心で「サラがお前の仲間になることはないから関係ないぜ」と付け加える。
そして盗賊にだけ聞こえるように「お前も早く見切りをつけたほうがいいぞ」と囁いた。
これで盗賊は戦士の離脱を確信し、自分もここで抜けようかと思ったが、そうするとカリスは文句を言いつつも二人にくっついて来る事が容易に想像できた。
それではいつまで経っても別れられない。
(……まあ、俺一人ならいつでも姿を消せるからいいか)
盗賊の彼は自分のスキルに絶対の自信を持っていた。
そして、今のカリスなら本気になって姿を消した自分を見つけられない自信があった。
だが、
(それでも俺だけこのバカに付き合うは割が合わねえ)
そう思い、盗賊はカリスに気づかれないように戦士に手切れ金を要求した。
戦士は盗賊が少なくとも徒歩で三日以上の距離を離れてからカリスと別れる事を条件に了承した。
こうして、カリサラ(仮)結成前に戦士が離脱した。
残りはカリス、盗賊の二人……。




