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297話 茶番劇「追放された男」

 リオ達がその街のギルドに入るとそれまで談笑していたあるパーティがサラの姿を見た途端、目を大きくして驚いた表情をする。

 そしてすぐそのパーティから一人の男がすっと立ち上がったかと思うと大きな声で叫んだ。

 

「なんで俺が追放なんだ!?」


 その男は悲愴感を漂わせながら、チラリとサラに視線を向けた。


(あ、いやな予感)


「リオ、依頼を見るのは宿屋を確保してからにしましょう」

「わかった」


 サラの言葉にリオは考える素振りも見せずに答えて出口に引き返す。

 それに従うリサヴィの面々。


「ちょ、ちょ待てよ!」

 

 ギルドを出る瞬間、そんな声が背後から聞こえたが誰も振り返る事はなかった。

 その日、リサヴィが再びギルドを訪れる事はなかった。



 んで、次の日。

 リサヴィがギルドにやって来ると昨日のパーティが昨夜と同じテーブルに座っており、サラにすわった目を向ける。

 目にクマが出来ているところから見て徹夜したようだ。

 恐らく、リサヴィが宿屋を確保した後に戻って来ると思ってそのまま待っていたに違いない。

 サラは最初から昨夜は戻ってくるつもりはなかった。

 意図的に戻ってくるような含みのある言い方をしたのだ。


(まさか、徹夜してまで待っているとは思っていなかったわ……その執念をもっと別の事に使えばいいのに)



 昨日のフライングで学習したのか、リサヴィがテーブルにつくのを確認してから昨日「追放」と叫んでいた男が立ち上がる。

 そして昨日のことはなかったかのように同じセリフを叫んだ。

 

「なんで俺が追放なんだ!?」


 そのパーティは誰が見ても芝居だとわかる、ど素人の芝居を大声で始めた。


「……ぐふ。いつからギルドは茶番劇をする場所になったのだ?」

「さあ」


 サラ達は“鉄拳制裁”という本物の演劇を観た事がある。

 ストーリーはともかく、その演技は素晴らしく真に迫っていた。

 サラとヴィヴィは自分達がモデルで、しかもふざけた(としか本人には思えない)設定だったため話に集中出来なかったが、アリスをはじめ一般客は役者の演技に魅入られ、大ヒットするほどだった。

 あの演技を観た後では彼らの演技は見るに堪えない、酷い演技であったが、本人達はイケてると思っているようでノリノリであった。

 ちなみに他の冒険者達がどうしていたかといえば、幸いにも一般常識を持つ者ばかりだったようで、茶番劇を堂々と恥ずかしがることもなく演じ続ける彼らと関わりあうのは危険と察し、我関せずの態度をとっていた。


「依頼見てくる」

「あっ、わたしもっ」


 茶番劇が続く中、マイペースなリオが依頼掲示板に向かい、それにアリスが続いた。

 

 

 パーティを追放された男がふらふらしながらサラとヴィヴィが座るテーブルにやって来た。

 下手くそな演技継続中である。

 

「くそっ!なんで俺が追放なんだ!?あれだけ貢献したのに!」


 追放された男がサラ達の座るテーブルをどんっ!と叩く。


「くそっ!ぜったい見返してやるぞ!」


 追放された男は自分の演技に酔っていた。

 彼らの演技をずっと無視していたサラとヴィヴィであったが、自分達の目の前で茶番劇を無理矢理見せられてこちらは悪酔いしそうだった。

 追放された男がサラに顔を向ける。

 直前で動きを察したサラは依頼掲示板を見に行ったリオ達に目を向けて気付かぬフリをする。

 すると追放された男が回り込んで来てサラの視界に無理矢理入って来た。


「邪魔です」


 サラが冷たく言い放つが、サラ達に関わろうとする者達の図々しさが尋常ではないことは周知の通りである。

 追放された男はサラの言葉を無視して話し始める。


「なあ、あんた、どこの誰かは知らないが酷いとは思わないか?」


 そういう設定なのか、追放された男は話しかけた相手がサラである事をわかってて知らぬフリをして演技を続ける。


「思いません。邪魔です」


 サラがそっけなく答えるが、追放された男はサラの声が聞こえていなかったようで勝手に話を進める。

 

「俺は奴らを見返したい!腕には自信があるんだ!でもよ、どんなに優れてても一人じゃ流石に限度がある」


 追放された男は自画自賛でサラにアピールを始める。

 嫌そうな顔を隠しもしないサラにお構いなしにだ。


「ちょうどあんたのパーティは戦士が不足しているようだな!いきなりだが俺をパーティに加えてくれねえか?絶対役に立つぜ!俺が保証する!」


 ついさっきパーティを追放されたばかりの男が自身の腕を保証して誰が信用するのだろうか?

 追放された男は自分の発言に微塵も疑問を持っていないようだった。

 さっきまでの悲愴感もどこへ行ったやら、それを感じさせぬ満面の笑みを浮かべた後、キメ顔をした。

 サラは追放された男の言葉に納得し、たはずもなく、素っ気ない態度で即拒否する。


「“見ていた”と思いますが私達のパーティに戦士は二人います。他を当たって下さい」

「何を……あ」


 追放された男は演技に夢中でサラが戦士の姿をしている事に気づいていなかった。

 サラの言葉でやっとその事に気づき、ほけーっ、とアホ面を晒す。

 パーティに加わった後に彼女がサラだと気づく、偶然を装ってサラのパーティに加わる計画だったようだが、最初から破綻していたのだ。

 サラの事を知っている以上、普段サラが戦士の姿をしていることも当然知っているはずであり、昨日も直接見たはずである。

 その時にでも気づいていればまだ茶番劇を修正出来たはずであるがもう遅い。(修正したところで結果は変わらないが)

 追放された男は我に返ると焦って最悪の対応を選んだ。

 

「あ、いや、その、お前、実は神官じゃないのか?」


 「ないわー」、「そりゃ無理あり過ぎだろ」と成り行きを静観していた冒険者達が思わず突っ込んでしまうほどのバカな発言だった。

 サラが追放された男に冷めた声で疑問を口にする。


「……この姿を見て何故神官だと?」

「な、なんとなくだ!そうなんだろサラ!」

「……」


 追放された男はパニクってついサラの名を呼んでしまった。

 言った後で「しまった!」というような表情をする。

 茶番劇終了、と思われたが「まだ終わらんよ」とでも言うように追放された男に助け船を出す者が現れた。


「なるほどな。サラと共に行くか」


 それは追放された男の元パーティのリーダーだった。

 リーダーをはじめメンバー全員が腕を組み、偉そうに追放された男の後ろに立っていた。


「お前ら!」


 彼らは自分を追放した憎き相手のはずなのに追放された男は彼らの姿を見てホッとした表情を見せる。

 もはや話は滅茶苦茶であったが、そんな事を気にする彼らではなかった。

 元パーティのリーダーが強引に話を引き戻し、いや、戻すどころの話ではなかった。

 彼は追放された男がリサヴィに加わることが確定した世界線からやって来たようだった。


「決心は変わらないのだな?」

「おうっ!俺はサラのパーティに入って俺が役立たずじゃないって事を証明してやるぜ!」


 追放された男もいつの間にかリサヴィに加わる事が確定した世界線からやって来ていたようで、リーダーの言葉に何の疑問も持たず胸を張って答えた。

 サラ達だけでなく、この茶番劇を見ていた他の冒険者達も彼らの話についていけなかったが、そんな事などお構いなしに茶番劇は続く。


「よかろう!なら見事証明してサラと共に戻ってこい!」

「おうっ!」


 この言葉から彼らの計画は追放された男がリサヴィに入り、大活躍してサラの勇者と認められてサラと共に元のパーティ戻ってくる、というものだった事がわかる。

 以前にも似たような作戦を立てた者達がいたが、皆、自分の力に絶対の自信を持っているようでリサヴィに入りさえすれば作成は成功だと思っている節がある。



 追放された男と元パーティが涙を流して別れの挨拶を交わす。

 感動的な場面らしいが、残念な事に彼ら自身以外感動した者は一人もいなかった。

 それどころか、


「仲良いじゃねえか」

「そんなに悲しいなら追放取り消してやれよ」


 と観客?から突っ込みが入る。

 しかし、彼らには聞こえなかったようだ。

 茶番劇は再会の約束を交わしたところでやっと終了した。


「という事でこれからよろしくなっ!」


 追放された男がサラにキメ顔をする。

 返事をしたのはサラではなかった。


「ぐふ。寝言は寝て言え」

「なっ……なんだと棺桶持ち!」


 追放された男が顔を真っ赤にしてヴィヴィを睨むがヴィヴィは男を見ていなかった。


「ぐふ。本当にいい加減にしろ」


 ヴィヴィが”サラ“に文句をいう。

 顔は仮面で見えないが口調から怒っているのは明白だった。

 サラも不機嫌さを隠さず反論する。

 

「私の方こそ被害者です」

「ぐふ。加害者が被害者ぶるな。クズコレクターが」

「なんですって!?」

「ぐふ。今回はどう楽しませてくれるのかと思えばクソつまらん茶番劇を見せやがって」

「楽しむな!大体、今のクソつまらない茶番劇だって私がやらせたんじゃないでしょ!」

「おい、こらっ、何が茶番劇だ!って、こっち見ろ!話を聞け!早く俺をパーティ登録しろっー!!」


 しかし、追放された男を無視して二人は言い争いを始めるのだった。


 

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