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295話 暫定Cランクのストーカー

 サラを追っていたカリス達はレリティア王国の王都セユウに到着した。

 すでにサラ達を追い越していることにまだ気づいていない。

 冒険者ギルドにカリスと戦士を残し、盗賊が情報収集に出掛けた。

 盗賊というクラスから情報収集が得意とはいえ、本来なら全員で情報を集めるのが普通であったが、普通ではない者がいたため断念したのだ。

 いうまでもなくその者とはカリスの事である。

 彼は街に入るなり、

 

「さらぁ!!むかえにきたぞぉ!!」


 と大声でショタマネ?をして街中で騒ぎ始めたのだ。

 これではカリスをストーカー登録しているサラに「逃げてくれ」と言っているようなものである。

 それにカリスと一緒にいる盗賊と戦士は恥ずかしい。

 そういうわけでカリスの監視に戦士を残し(非常に嫌そうな顔をしていたが)、盗賊一人で情報収集に向かったのであった。

 

 

 しばらくして盗賊が戻って来た。

 カリスの期待に満ちた瞳に向かって盗賊は首を横に振った。

 

「サラ達はまだセユウに来ていないみたいだ」


 盗賊の言葉を聞き、途端にカリスの表情が不機嫌になる。

 

「やっぱ俺が探しに行くべきだったか」


 戦士と盗賊は呆れる。


「サラはお前の声を聞いただけで街から逃げ出すわ!」と心の中で叫ぶ。


 戦士と盗賊は既にサラとパーティを組むのを諦めている。

 それでもカリスと一緒に行動するのはカリスに同情して、などという事は全くなく、貸した金の回収、ただそれだけだ。


「金が心許ない。なんか依頼を受けようぜ」

「そうだな」


 戦士の提案に盗賊が頷く。

 彼らはカリスのために自分達の金をこれ以上出したくない。

 二人は依頼を受けてその報酬で少しずつでもカリスに金を返してもらおうと考えていたのだ。

 しかし、すっからかんのカリスが反対する。


「そんな暇はない!もう一度行って来い!安心しろ。今度は俺も行ってやる!」

「「……」」


 カリスはデカい態度で言った。

 まったく自分の立場をわかっていないカリスに二人は一瞬、殺意が湧いた。

 しかし、カリスはその事に全く気づかない。


「なんだその顔は?お前らもっと真剣になれ!」


 カリスのこの言葉に戦士はカチンと来た。


「……じゃあ、今まで貸した金を今返せ。そうすれば従ってやる」

「んだとてめえ……」


 戦士の言葉に盗賊が同意する。


「カリス、俺も同意見だ。そもそも金がないのはお前が贅沢するからだ。ーーそれも他人の金でな」

「俺は贅沢などしていない。今まで通りだ」

「そりゃウィンドのときのことだろう」

「そうだ。だが、安心しろ!お前らの腕はベルフィやローズに引けを取らねえぜ!」


 会話が成立しない事にため息をつく二人。

 

「カリス、誰も腕の話なんかしてねえだろ。サラを追うのを優先して全く依頼を受けていないから金がない、と言ってんだ。ウィンドにいたとき、こんなに依頼を受けていないときがあったか?」

「あったぜ」


 カリスはなんの迷いもなく、即答した。


「「……」」

「わかったなら……」

「俺が悪かったな」

「そうだな。カリスに聞いたら自分に都合のいい答えしか返さないからな」

「なんだと!?」


 貸した金を少しでも回収したいために我慢してカリスと行動を共にしていた二人だったが、それももう限界だった。

 二人は魔術士と一緒に抜けなかった事を心底後悔していた。


「……ともかくだ。依頼を受けて金を稼ぐ。反対ならお前だけでも先に行ってくれ。後から追いかける」

「そうだな。俺も後から追いかけるぜ」


 これでカリスが一人追いかけて行ったら彼らは貸した金を諦め、この無意味な旅を終えるつもりであった。

 しかし、


「ちっ、しゃーねーな。一つだけだぞ」


 カリスは舌打ちしながら依頼を受ける事に同意した。


「ああ」

「納得してくれて良かったぜ」


 二人は心の中で舌打ちした。



 カリスは依頼掲示板に向かうとBランクの依頼を剥がした。

 それを見て二人は慌てる。

 

「おいっ、待てよ!」

「何考えてんだ!?」

「なんだ?」


 カリスは二人が何を驚いているのか理解出来ず首を傾げる。


「『なんだ』じゃねえ。回復はどうすんだ?俺達には魔術士がいないんだぞ」

「Cランクの依頼とかもっと確実なものを選ぼうぜ」


 彼らの言葉を聞いてカリスは鼻で笑った。


「情けねえな。安心しろ。怪我してもすぐにサラに治させるぜ!」


 カリスがどこか自慢げに言ったが、二人から反応はなかった。

 ポカン、としていたからだ。

 盗賊より先に立ち直った戦士が念の為尋ねる。


「どこにいんだよ、サラは?」

「バカか。探してる最中だろう」


 二人が再びポカン、としているうちにカリスがカウンターに向かう。

 二人は我に返り慌てて後を追う。

 しかし、ひと足遅くカリスは依頼書を受付嬢に渡した後だった。

 二人は処理を止めようとしたが、その前にカリスの冒険者カードを見ていた受付嬢の表情が変わった。


「……少々お待ちください」


 受付嬢はそう言うと奥へと引っ込み、しばらくして彼女の上司らしいギルド職員がやってきた。

 戦士と盗賊が何事かと様子を見ているとそのギルド職員から驚愕の事実が語られた。


「カリスさん、申し訳ありませんがあなたはヴェイン本部からの出頭命令を無視し続けたためCランクに降格しております」

「なんだと!?」


 怒りの形相を向けるカリスにギルド職員は淡々と事実を述べる。


「制限付きのためBランクの依頼は受けることはできません。また、このまま出頭拒否を続けますとDランクに降格し、さらに無視し続けると退会処分となりますの至急ヴェイン本部へ出頭して謝罪と冒険者適性検査を受けてください」


 戦士と盗賊が唖然としている中でカリスが怒鳴り散らす。


「ざけんな!そんな話聞いてねえぞ!」

「そんなはずはありません。既に通達済みと記録が残っておりますし、冒険者カードを見ればすぐに気づくことです」


 カリスが慌ててギルド職員からカードを奪い取りランクの項目に目をやるとギルド職員が言った通り、冒険者ランクはCとなっていた。


「おいっ、カリス!?」

「捏造だ!」

「……その抗議はヴェインでお願いします。私どもではどうしようもありません」


 そう言うとギルド職員は奥へと戻っていった。

 

 

 戦士がため息をついて言った。


「Cランクの依頼を受けようぜ」

「考えようによっちゃ予定通りだ」

「そうだな」


 しかし、ランク落ちしてもプライドだけはBランクを維持するカリスが納得しない。


「ふざけんな!俺がCランクの依頼なんか受けられるか!」

「「……」」


 二人は過去に戻ってカリスの言葉を信じてパーティを組もうと思った自分を殴ってやりたかった。



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