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29話 幽霊屋敷 その2

 サラがマナランプを照らしながら二階へ向かい階段を上る。

 リオは右手に剣、左手にベルトから小瓶をひとつ手にして後に続く。

 階段を上がった先にドアがあった。

 通路は左に続きその左右に四つドアがあり、突き当たりにもう一つあった。

 

 突然、周囲の温度が下がった。


「リオ、気をつけて。近くにいます」

「ん?」


 その表情からどうやらリオは周囲の温度が下がった事に気づいていないとわかる。


(リオは火傷や凍傷になっても気づかないのでは?)


 そんな事が頭を過った時である。

 右側の手前から二つ目のドアから何かが出てきた。ソレはドアを開けてではなく、ドアをすり抜けて現れたのだ。

 ソレは人の姿をしていたが、その顔に本来あるべき目や鼻がない。

 ただ口だけがぽっかりと空洞のように開いていた。

 サラはソレが何なのか知っていた。思わずその名を口にする。


「スレイブデイスです!」


 スレイブデイスが声を上げる。


「きいいいいいぁぁぁぁあ!」


 スレイブデイスの声には魔法の効果があり、まともに受けると気力を一気に失う事がある。

 例え一瞬でも気を抜けば命を落とすような場面であっても手にした武器を下ろしてしまう。魔法を唱えるのをやめてしまう。その後のことは言うまでもない。

 サラはその能力のことを知っており、神官としての高い魔法耐性もあるためレジストに成功した。


「リオ!」


 振り変えることなく声をかけてリオの安否を確認する。


「うん、わかった」

「は?」


 何がわかったのか、と聞く前にリオは左手に持った小瓶をスレイブデイスに投げつけた。

 狙い違わずスレイブデイスの体に命中する。

 小瓶が割れ、中の聖水を浴びたスレイブデイスが悲鳴を上げる。

 この悲鳴にも魔法の効果があったがサラはまたもレジストに成功する。


「聖水効いてるね」


 普段と変わらない様子をみるとリオもレジストに成功したようだ。

 サラは苦しむスレイブデイスにショートソードの切っ先を向けると神聖魔法”ターンアンデッド“を発動させる。

 ショートソードの切っ先から発せられた聖なる魔法を受け、スレイブデイスは消滅した。

 ころん、とその場にプリミティブが落ちた。


「倒したんだね?」

「はい」

「これで依頼完了かな?」


 リオが落ちたプリミティブを拾い、リュックへ入れる。


「いえ、まだです。それよりさっきの『わかった』は何がわかったのですか?」

「ん?」

「私があなたを呼んだ時、『わかった』って言ったでしょ」

「ああ。僕を呼んだのは聖水を投げろって意味だと思ったんだ」


 サラはため息をついた。

 サラが声をかけたのは安全確認のためだったが、リオはそれを攻撃の合図と受け取ってしまった。

 まだまだ連携には程遠いことを改めて思い知らされた。


(いえ、そんな事は最初からわかっていたことよ。今回の依頼を受けた目的の一つはリオとの連携確認もあるんだから計算通りって事よっ!)


 サラは自分を鼓舞する。


「すみません。私の言葉足らずでした。安全確認したかったのです」

「そうなんだ。確かにあんな強力な魔法を持ってるんだから聖水必要なかったね」

「いえ、役に立ちましたよ。お陰で簡単に倒せました」

「それならよかった」

「でも次からはちゃんと指示出しますからそれまで行動は控えてください」

「わかった」

「それにしてもよく二度もレジスト出来ましたね」


 リオは首をひねる。


「……まさか無意識にレジストしたのですか?」

「サラの言ってることがよくわからないんだけど」

「そうでしたね。ちゃんと説明していませんでした。さっきのはアンデッドで名前はスレイブデイスと言います。その声には人の気力を奪ったりする力があるんです」

「そうなんだ。全然気づかなかったよ」

「……そうですか」


(スレイブデイスの声の効果は必ず成功するわけじゃないわ。でも二回連続というのは考えにくい。少なくとも私は二回ともレジストした感覚が残ってる。……リオは生まれつき魔法耐性が高いのかしら?)


「リオ、一旦一階へ戻りましょう」

「わかった」


 リオは理由を聞く事もなくサラに従う。



 サラは一階に降りた後、陽の光が差し込む明るい窓際に移動する。リオが来るのを待って話し始めた。


「リオ、あなたはデイスの事を知っていますか?」

「さっきの魔物の事?初めて見たよ」

「そうですか。では先程のデイズについてもう少し説明しますね」

「いいよ、別に……」


 リオは不意に下を向いた。

 サラに殴られたと気づく。


「聞きなさい」

「わかった」

「デイスは三種類存在します。まず、ただのデイス。先ほどの遭遇したスレイブデイス。そしてマスターデイスです」


 リオがぶつぶつと三つの名前を口にする。


「覚えましたか?」

「うん」

「その違いですが、デイスが複数存在する場合、主従関係が出来上がるのです。マスターデイスが主人で、スレイブデイスが従者です。今の状況が理解できましたか?」

「うん、つまりここにはマスターデイスがいるんだね」

「そうです。良くできました」


 サラは気づくとリオの頭を撫でていた。

 リオがいつもの作り笑顔が消え、困ったような表情をする。


(これが素の表情?)


「ねえ、サラ。今の何?」

「な、何って褒めてあげたのです。されたことあるでしょ?」

「んー、覚えがないよ」


(覚えがないって、リオは親に虐待されていたのかしら?でも、前に聞いた話では父親に庇ってもらったって言ってたわよね)


「サラ?」

「何でもありません。話を続けますね」

「うん」

「マスターデイスとスレイブデイスの見分け方は簡単です。スレイブデイスの顔は部位が欠けていましたね」

「うん」

「それはマスターデイスに奪われたからです。ですからマスターデイスは逆に顔の部位が多いのです。いうまでもないことですが、マスターデイスの方が強敵です」

「そうなんだ」

「あと攻撃方法ですが、口があれば叫び声による気力低下、目があれば睨みによる金縛りの攻撃があります。それぞれ、耳を塞ぐ、目を合わせない事で防ぐことができますが、戦闘中ではそんな行動を取る余裕はないと思いますから、」

「レジストするんだね?」

「そうせざる得なくなります。私は神官ですから魔法耐性は高いので今まで通り私が戦います。リオは、私の指示を“しっかり”聞いて行動してください」


 サラはしっかりの部分を強調した。


「わかった」

「本当にわかりましたか?」

「うん」

「……」


 その返事が軽過ぎて今一信用できないが確かめるすべはない。


「では行きましょう」

「うん」

 


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