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28話 幽霊屋敷 その1

 明日の準備のためサラ達は雑貨屋に寄ってから宿屋に戻ることにした。

 さっき貰った割引券が使える店を探す。

 その店はすぐに見つかった。

 客はこの街の住人ばかりで冒険者はサラ達だけのようだった。

 彼らの視線を感じるが気づかぬふりをして目当てのものを探す。


「何を買うの?」

「小瓶です」

「小瓶?」

「私のことよりあなたは買うものはないのですか?」

「んー、何が必要かな?」


 サラはため息をついた。


「……なければいいです。手持ちも少ないのですよね?」

「うん」

「いつ何が必要になるかわかりませんからどんな物があるか一通り見て回ってはいかがですか?」

「わかったよ」


 本当に理解したのか疑問だが、サラは自分の探し物に戻る。

 サラは小瓶を二十個とベルトを購入して店を出た。



 宿屋に着き、部屋に戻る前に夕食をとることにした。

 二人は食事を済まして二階上がる。

 リオがドアを開けようとすると鍵がかかっていた。


「ヴィヴィ、戻ったよ」


 中で物音がしてガチャっとドアの鍵が開く音がした。

 ヴィヴィは長さ十センチメートル程度の細長い茶色のスティックをくわえていた。

 ぽりぽりと食べる。


「それがヴィヴィのご飯?」


 ヴィヴィが頷く。

 サラはその食べ物を見た事がなかった。


(魔術士用の食事かしら?それともカルハンの携帯食?)


「意地汚い女だな」

「な……、違います。珍しいから見てただけです!」


 二人が険悪になる中、相変わらず空気を読まないリオが会話に割って入る。


「そうだ、ヴィヴィ、僕達依頼を受けてきたんだ」

「うむ?依頼だと?」

「うん、悪霊退治なんだ」

「あなたも参加しますか?依頼を受けているのは私達だけですからどうしても、と言うなら考えてあげてもいいですよ?」

「うむ、遠慮しておこう。悪霊の類はお前の得意分野だ。お前のドヤ顔など見たくない」

「ドヤ顔?」

「そんな顔しません!」

「うむ、それはどうかな」

「あなたとは一度じっくり話し合う必要がありますね」

「うむ、私はその必要性を感じない」

「……」

「じゃあ、ヴィヴィ、明日留守番お願いね」

「うむ。いつ頃出発するのだ?」

「朝から出かけるよ。魔物は夜の方が強いから、ってサラが言ってた」

「うむ」



 サラは今晩のうちに悪霊退治のための準備をする事にした。

 先程雑貨屋で購入した小瓶と魔法で生み出した水を注いで満タンになった水筒を用意する。

 

「ーーとりあえず十個もあればいいかしら」

「サラ、何をしてるの?」

「聖水を作っているのです」

「聖水?」

「はい。上級アンデッドなどは通常の武器ではダメージすら与えられない事は知っていますね?」

「うん」

「そのような魔物にダメージを与える事ができるのが聖水です」

「へえ、サラは聖水を作れるんだ」


 リオは興味を持ったらしくサラの作業をじっと見ていた。

 リオだけではなく、ヴィヴィの視線も感じる。


 聖水の作り方は秘密でもなんでもない。

 サラは水筒を手にとると小瓶に水を注く。

 蓋をしっかりと閉める。目を閉じて両手で小瓶を握りしめながら祈りを捧げる。

 祈りをやめ、小瓶の中を確認すると水が無色透明から薄い青色に変化していた。


「へえ、聖水ってそうやって作るんだ」

「はい」


 もちろん、誰もが祈りを捧げれば聖水ができるわけではない。聖水を作れるのは神官のみである。本来はアンデット避けの効果がある薬草も混ぜるのだが、手持ちがないので省略だ。

 その様子を見ていたヴィヴィが口を開く。


「ふむ。お前は手が早いだけの神官ではなかったようだな」


 サラはヴィヴィを無視して次の小瓶を手に取る。


「ねえ、サラ。聖水売ればお金儲けできるんじゃないの?」

「そうですね。でも教団は自分で使用する分以外の作成を禁じています。もちろん理由があれば別ですが」

「そうなんだ」

「仮に売るにしてもこの聖水は使えません」

「どうして?」

「今作っているこの聖水は材料が足りていません。それに聖水には使用期限があるのです。時間が経てば効果が弱くなり、やがてただの水に戻ります。これは明日いっぱい保てばいいので祈りを短くしています。ですので売られている聖水より使用期限が短いし効果も弱いのです」

「そうなんだ」


 サラが予定通り十個の聖水を作り終えた時にはすでに二人は寝ていた。

 サラは忘れ物がないかもう一度確認してベッドに入った。



 翌朝、

 サラはベッドから落ちて目覚めた。

 慌てて周りを見回すとヴィヴィが冷めた目で見ていた。


「ふむ。それは楽しいのか?」


 サラは無言で起き上がると、リオの様子を見た。

 リオは昨夜見た寝姿と全く同じ格好で寝ていた。

 サラは起きるには少し早かったが二度寝する気にもならなかった。自分の迂闊さがゆるせなかったのだ。


(あんな正体不明な女の前で熟睡してしまうなんてなんて情けない!……私はまだまだね!)



「十個しかありませんので無駄使いはしないでくださいね」

「ん?これ僕に?」

「はい。リオはアンデッドにダメージを与える武器は持っていないでしょう?」


 リオの持つ剣はごく普通の剣である。アンデッドでも物理的な肉体を持つ相手なら動きを止めることくらいはできるだろうが、今回の相手は物理的な肉体を持っていない可能性が高かった。


「うん、ありがとう」


 リオは小瓶と一緒に渡されたベルトを肩からかけ、そのベルトに小瓶を五つ取り付けると残りの聖水をリュックにしまった。


「聖水はあくまでも護身用です。戦闘は私がしますからリオは自分の身を守る事だけ考えてください」

「わかったよ」

「ふむ。……まあ頑張れ」

「うん、ありがとう。じゃあ行ってくるよ」



 リオとサラの二人は悪霊が住むという屋敷の前にいた。

 屋敷は街の外れにあった。

 悪霊が現れたからであろう、庭の手入れは途中で中断された状態だった。

 その外観はとても怪しく、見るからに何か出そうな雰囲気すらあった。


「……よくこんな屋敷を購入しようと思いましたね」

「そうだね」


 リオの返事は軽かった。本当にそう思っているのか怪しい。

 サラは適当に相槌を打っただけだと思ったが確認はしない。


 この屋敷は十年以上空家だった。

 前の持ち主の夫が浮気をし、それに腹を立てた妻が浮気現場に突撃し、二人を殺害、そのまま自害したらしい。

 夫婦には子供がおらず屋敷は空き家となった。

 この屋敷を引き継いだ親族は気味悪がってすぐに売りに出した。

 だが、怖いもの見たさで見学する者は何人もいたが購入する者はいなかった。

 年々価格が下がり続けていき、ついにあの受付嬢の目に留まったのだ。

 そして受付嬢は彼氏が止めるのも聞かず購入してしまったという事だ。


(……この家、除霊が成功したとしてもその後、本当に恋人と暮らすのかしら?)


「サラ?」

「何でもありません。ここからでは何も感じませんねーー入ってみましょう」

「うん」


 リオがあらかじめ預かっていた鍵で門を開ける。

 見た目は取り替えたばかりの新品に見える門が、ギギギとまるで何年も放置されていたかのような鈍い音を立てて開く。


 サラが先頭で慎重に進む。リオがその後に続く。

 屋敷の窓は見える範囲では全て雨戸が閉められていた。


「……特に何も感じませんね。ーーリオお願いします」

「うん」


 リオは玄関の鍵を開け、ゆっくりと開く。

 サラは左手に持つマナランプを照らし、右手でショートソードを構えながら慎重に中に入る。

 マナランプで辺りを照らすが異常は見られない。

 サラがリオに合図を送る。リオは打ち合わせ通りに窓を開けていく。その間サラが周囲に異常がないか注意を払う。

 室内に光が差し込み室内が明るくなっていく。

 朝とはいえ、暗い場所は魔物の力を強くする。

 安全に退治するために屋敷内のすべての窓を開けるつもりだった。

 しばらくして一階すべての窓が開け放たれた。

 その間、悪霊が現れる事はなかった。



「悪霊いないね」

「そうですね」

「二階にいるのかな?」

「わかりません」


 サラは屋敷に入ってからずっと何かに見られている気がしていた。


「ただ何かいる事は確かです。油断しないように」

「わかった」

「では二階に向かいましょう」

「わかった」


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