279話 魔の領域の消滅
設定に矛盾があったので最新に更新しました。
いやあ、長く書いていると矛盾が出てしまうものですね(他人事)
マルコの街の東の草原にあった魔の領域が消えた。
その直前、この魔の領域のボスであるブラックドラゴンが天高く舞い上がり、何処かへと飛び去るのをジュアス教団から派遣されたカシウス隊は目撃した。
カシウス隊は魔の領域の中心部だったところへ慎重に向かう。
「これは……遺跡だと?」
魔の領域の中心だった場所に遺跡があった。
ここに遺跡があるという話は聞いたことがないので、魔の領域が消えた後に出現したと考えるのが自然だった。
遺跡と表現したようにそれらは何十年、いや何百年前に作られたかのようにぼろぼろに朽ち果てていた。
カシウスはその遺跡を見て少しだけ驚いた。
少しで済んだのはこの現象が起きたのが初めてではなかったからだ。
有名なところではフルモロ大迷宮もそうだった。
あの大迷宮も突然あの場所に現れたのだ。
正しくいえば、他の場所と入れ替わったのだ。
フルモロ大迷宮は元々大陸東にある小島、チンダシ島にあったと言われている。
恐らくこの遺跡もどこかの別の場所にあったものが転移してきたものと思われた。
遺跡のあちこちから魔物が姿を現した。
しかし、それらの魔物はカシウス隊の敵ではなく、魔物を一掃すると遺跡の調査を開始した。
そこでダンジョンへの入口らしきものを発見したが、中の調査はしなかった。
カシウス隊の任務は魔の領域を消滅させることである。
カシウス隊が直接消したわけではないが、目的は達している。
この事を教団に報告し、判断を仰いだ結果、「任務完了とし帰還せよ」との命令が下ったのでカシウス隊は異端審問機関の本部があるホーリーディオンの街へ帰還した。
魔の領域だった地域には魔物がまだ多数存在していたが、それはレリティア王国の仕事である。
カシウス隊が帰還したのに合わせて周辺の教会から召集された神官達も教会へと帰還した。
ダンジョンの出現は冒険者ギルドにも報告された。
このダンジョンの名前は発見者カシウスの名をとり、カシウスのダンジョンと命名されることになる。
新たなダンジョンの出現は世界に混乱をもたらす可能性がある。
それは未知の魔物や疫病だけでなく、発見される財宝もそうだ。
財宝が莫大であれば、世界情勢が一変する恐れもある。
都市国家の一つや二つを購入できる、あるいは攻め滅ぼせるほどの財産を突然、それも個人が持ち得るかもしれないのだ。
ソドムラがまさにいい例だ。
一介の冒険者が未踏のダンジョンを発見、攻略したことで莫大な財宝を手にした結果、ただの辺境の村だったソドムラを都市国家にまでのし上げたのだ。
これから考えるとウィンドとリサヴィが攻略したラビリンスにあった財宝はかわいいものだった。
公にされたダンジョンの扱いは基本的にはその領地をもつ国が管理する事になっている。
今回の場合はレリティア王国である。
その中でもマルコの街を治める領主がこのダンジョンの所有権を主張しだした。
これには冒険者ギルドが怒った。
魔の領域への対応を我々冒険者ギルドや教団に押しつけておいて美味しいところだけ持っていくのか、と。
ジュアス教団もマルコの領主の態度に不快感を示したため慌てたレリティア王国は王都セユウにて王国、ジュアス教団、そして冒険者ギルドによる三者協議を行うことにした。
結果、このダンジョンはカシウスのダンジョンと命名され、名目上は冒険者ギルド預かりとなった。
そこには教団の意志も働いていた。
ところで、ダンジョンには大きく別けて二種類存在する。
一つは魔物が生息し、トラップが健在の活ダンジョン、そしてもう一つは冒険者などに魔物が一掃され、トラップも解除され、危険のなくなった休ダンジョンである。
現状、ほとんどのダンジョンが休ダンジョンである。
活ダンジョンとして例を挙げるとフルモロ大迷宮がもっとも有名であろう。
冒険者ギルドはカシウスのダンジョンを暫定で活ダンジョンとした。
リサヴィが移動に往復で十日もかかるリッキー退治を終えてマルコの街へ帰ってきた。
この依頼をサラは断りたかったが、モモがファフから届いた手紙を手にして、脅し、もとい、お願いして来たので断れなかったのだ。
ちなみにファフからの手紙は簡潔で、「時間ができたら会いに行く」という内容のものだった。
久しぶりのマルコの街はいつになく活気に溢れていた。
今までと明らかに異なるのは魔装士の姿が多いことだ。
その中でもフェラン製の荷物搬送に特化した非戦闘タイプの魔装士を多く見かける。
この魔装士が両肩に装備しているのは盾ではなく、ただの物入れで、飛ばすことはできないし、武器の魔法強化機能もオミットされている。
その代わり価格が非常に安く、自分の魔力をほとんど必要としないため誰でも操作できた。
魔装士が棺桶持ち、荷物持ちと見下されるのは、ほとんどの者がこの魔装士を思い浮かべるためである。
ギルドに入ると皆の視線がリサヴィに集まる。
それは今までのサラ目当てのもとは少し異なっていた。
戦士風の男がアリスのもとへと真っ直ぐ向かって来た。
「おい!お前、神官だな!?」
「えっ?あ、はいっ、そうですけどっ?」
「よしっ、オレ達は今からカシウスのダンジョンに行くところなんだが、神官がいなくて困ってたんだ。ついて来てくれ」
男はそう言うとアリスの返事を待たずに腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと話してくださいっ!リオさんっ!」
リオはアリスに助けを求められ、アリスを掴んでいる男の腕にチョップを入れた。
「いでっ!」
男は悲鳴を上げて手を離した。
「て、てめえ!何しやがる!」
「ん?」
「『ん?』じゃねえ!」
掴みかかろうとする男の腕をサラリとかわすリオ。
そこへギルド職員のモモがやって来た。
「ケンカはやめて下さい!」
「ケンカなんてしてねえ!」
男は露骨にモモから顔を背けながら言った。
当然、モモは男の態度に不審を抱く。
「……すみませんが、冒険者カードを見せて頂けますか?」
「お、俺は何も悪いことはしてねえ!」
「いえ、ギルド内での強引な勧誘は禁止されています。それに……」
モモが男の顔を見ようするが、さっと顔を逸らし、更に手で顔を隠して見せようとしない。
モモの不審が確信に変わった。
「冒険者でも依頼人でもない人の入店はお断りしております」
男はちっ、と舌打ちすると逃げるようにギルドから出て行った。
その後のモモの行動は迅速だった。
「今から抜き打ち検査を行います!ギルド職員が皆さんのもとへ参りますので冒険者カードの提示をお願いします!」
モモがそう叫んだ直後、だだだっ、と複数の人間が先ほどの男と同じく逃げるようにギルドから出て行った。
アリス達をはじめ、呆気に取られる冒険者達。
「あのっ、モモさん、これは一体……?」
モモが大きくため息をついた。
「恐らく、王国に雇われた傭兵か何かでしょう」
「えっ?傭兵がなんでギルドにですかっ?それもあんなに多く……」
「それはカシウスのダンジョンのせいでしょうね」
「カシウスのダンジョン……あの魔の領域の後に出現したダンジョンでしたね」
「はい。カシウスのダンジョンは冒険者ギルド預かりとなっていますが、このダンジョンは王国の許可を得た者なら冒険者でなくても入る事ができるのです。ちなみにこのダンジョンは特別ルールが設定されていまして、発見した財宝の半分は発見者、もう半分は冒険者ギルドとレリティア王国の取り分となっています」
「ぐふ。レリティア王国は傭兵などにダンジョンに入る許可を与える代わりに彼らの取り分からもいくらか要求しているのだろうな」
「でしょうね。国から探索の許可を得た者は冒険者より取り分は減るでしょうが、許可がないとダンジョンに入る事すら出来ませんからね」
「じゃあっ、冒険者になればいいんじゃないですかっ?」
「それは難しいですね」
「そうなんですかっ?受からないっ?」
「いえ、そういう意味ではないです。確かに入会試験を受ける者がここ最近多くなっていますが、カシウスのダンジョンの探索は冒険者ランクがC以上となっているのです。今から冒険者になってもダンジョンに挑めるのは相当先になります」
「そうなんですねっ」
冒険者達とは対照的にリサヴィはカシウスのダンジョンに全く興味を示さなかった。




