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278話 冒険者養成学校

 ニューズとの依頼を終えたリサヴィをモモが笑顔で応接室へ案内した。


「お疲れ様でした。で、実はですね、マルコには冒険者養成学校があるのはご存知ですか?」

「みたいですね」


 サラは魔の領域で死んだ少年冒険者の事を思い出した。


「もうおわかりですね?」

「ぐふ。またこのパターンか」

「その通りです!冒険者養成学校で現役冒険者の話を聞きたいという意見がありましてその代表としてリサヴィの皆さんに白羽の矢が立ったのです!」

「その射手、私情をはさんでます」

「ぐふ。話が聞きたければギルドにくればいいいだろう」

「いえ、彼らはまだ冒険者ではないですし、見学には人数が多すぎます」

「そうなんだ」

「という事でよろしくお願いします!ありがとうございます!」

「おいこらっ、引き受けるとは言って……」

「あ、そうそう、リオさん。ファフさんと連絡が取れました」

「ない……え?」


 応接室にやって来て初めてリオがモモの顔を見た。


「それで?」

「はい。リオさんが連絡を取りたがっているとお伝えしまして返事待ち状態です」

「そうなんだ」

「ではよろしくお願いしますね」

「わかった」

「「「……」」」



 リサヴィは冒険者養成学校へやって来た。

 サラは正直言って気が進まなかった。

 自分達、リサヴィはどちらかと言えば真似てはいけない、悪い見本だと思っているからだ。

 しかし、またもリオがOKしてしまい、こうして来ることになったわけである。


 冒険者養成学校では神官以外のクラスが学ぶ事が出来る。

 入会金や授業料はクラスによって異なる。

 支払いは一括払い、分割払いだけでなく、冒険者になってからの支払いもある。

 一番費用がかかるのは魔術士であるが、魔術士ギルドの協力を得ている関係上、魔法を覚えた時点で冒険者になるならないに関係なく、魔術士ギルドへの入会が行われる。

 魔装士は魔法を学ぶ事はないので魔術士ギルドへ入会する必要はない。



「今日は今一番勢いに乗っているパーティのリサヴィに来てもらいました」


(どんな勢いよ、どんな)


 先生の言葉に心の中で突っ込むサラ。


「リサヴィの皆さんに聞きたいことがある方はいますか?」


 目つきの鋭い少女が真っ先に手を上げた。

 サラは来てからずっとその少女に睨らまれていたので気になっていた。

 その少女は先生に指名されると詰問口調でサラに尋ねる。


「なんでヘイスを助けてくれなかったんですか!?」

「ヘイス……もしかして魔の領域で亡くなった?」


 少女が頷く。


「私達はヘイスと同期でした。冒険者になったら一緒に冒険する約束をしていたんです!」

「そうですか。それは残念でした」

「サラ!なんでヘイスを助けてくれなかったんですかっ!?そこのリッキーキラーより若いでしょ!」


 少女は本気で言っていた。

 本気でサラをショタコンだと思っていると知り、内心で深いため息をついてから質問に答えようとした。


「まず、私はショタコンではありま……」

「ぐふ!!」


 サラの言葉をヴィヴィの笑い?が遮った。

 そして少女を見る。

 

「な、何よ!?」

「ぐふぐふ。ここマルコにクズ冒険者が多いとは思っていたが、生徒のときから既にクズだったか」

「なっ……ク、クズとは私のことを言ってるの!?」

「ぐふ。他に誰がいる?」

「なんですって!?」


 ヴィヴィの言葉に少女だけでなく、他の生徒も殺気立つ。

 だが、ヴィヴィは全く気にする様子もなく続ける。


「ぐふ。お前は、いや、お前達、というべきかもしれんが大きな、致命的な勘違いをしているぞ。冒険者は一人だ。他人など知らん。知った事ではない」

「な……」

「ぐふ。しかもそのヘイスとやらは私達のパーティメンバーですらない。若いから助けろだ?サラでなくても問題外だ。お前は冒険者を遊びだと思っているようだな。そんな考えならお前はヘイスとやらよりももっと早く死ぬぞ。今のうちにやめろ。他の道を探すがいい。お前のようなアマちゃんがやれるほど冒険者は甘くない」

「な……」

「ぐふ。大体、そいつはCランクだったのだろう?何故そのときDランクだったサラが助ける必要がある?逆ならまだわからなくもないがな」


 ヴィヴィの正論に少女は詰まりながらも反論する。


「じ、実力はサラの方が上でしょ!力ある者が弱い者を助けるのは当然よ!」

「ぐふっ!弱いならランクを上げなければよかったのではないか」

「そ、それは……」

「ぐふ。分不相応にランクを上げるから無惨な最期を遂げるのだ」

「な、な……」

「ぐふ。あと、お前は気づいていないようだがな」

「な、何をよ!?」

「お前がそいつを庇えば庇うほど、そいつが無能だったと言ってるのと同じだ。ろくに力がなかったのにCランクに上がったと言ってるのだ。死んだ奴を貶めるとはなかなかいい性格をしているな」

「そ、そんなこと言ってないわ!わ、私は……」

「ぐふ。お前が冒険者の理想を語るのは自由だが他人に押し付けるな。その理想はお前が冒険者になれたら一人で勝手に喚いてろ」


 少女が怒りでプルプル震える。


「……この棺桶持ちがっ」

「ぐふぐふ。納得いかないようだな。ではお前の好きそうな力ずくで行くか?なんなら今、相手にしてやってもいいぞ。今日は特別大サービスだ」

「ヴィヴィ!?やめなさい!大人気ない!」


 サラが止めに入るが少女は冷静さを失っていた。

 剣の自信も少しはあったのだろう、ヴィヴィの挑発に乗って来た。


「先生!やらせてください!」

「……いいでしょう」


 先生はしばし、躊躇した後、許可を出した。

 許可した理由の一つとして、万が一、どちらかが大怪我を負ったとしてもサラがいるからなんとかなるとの考えがあったことは間違いない。


 少女のクラスは戦士で、剣には自信を持っていた。

 いくら相手がCランク冒険者であろうとも荷物運びしか出来ない魔装士に戦いで負けるはずがない、そう思っていたし、実際、彼女以外の生徒もそう思っていた。

 ヴィヴィの事を魔装士如きが生意気だ、などと思っていた者も少なくなかった。

 その一方で、数少ない魔装士見習いは内心であるが、ヴィヴィを応援していた。


 

 戦いはあっけなく終わった。

 少女がなんの捻りもなく、ヴィヴィに真っ直ぐ向かって突撃して剣を振り下ろした瞬間、ヴィヴィはリムーバルバインダーを正面に向かわせて剣を受け止めた。

 そして、そのまま勢いを殺さず、少女に叩きつけたのだ。

 少女はその衝撃を受け止められず、腕が折れ、更に胸を痛打し、肋の何本かも折れた。

 たった一撃で勝負はつき、少女は気づけば地に伏していた。

 だが、ヴィヴィの攻撃は終わらない。

 リムーバルバインダーを彼女の腹に乗せて地面とでサンドイッチにして押し潰そうとする。

 

「い、痛……あああっ」

「ぐふ。さっきまでの威勢はどうした?」

「い、痛い……」

「ぐふ。当たり前だ。痛くしているのだからな」

「た、助けて……」


 少女は涙目で訴えるがヴィヴィには効かぬ通じぬであった。

 ヴィヴィは少女を無視して生徒達に振り返る。

 皆、驚愕の表情をしていた。

 少女がバカにしていた魔装士に何もさせてもらえず負けるとは思わなかったのだ。


「ぐふ。私を棺桶持ちとバカにしていた者もいるだろう。しかし、結果はこの通りだ。魔装具を真に使いこなす事が出来ればどんなクラスにでも勝つ事ができるーー魔装士こそ最強クラスなのだからな」


 ヴィヴィの言葉を否定する者はいなかった。

 少なくとも今の自分達の実力ではヴィヴィの言葉を否定する事が出来ないからだ。


「ぐふ。相手の力量もわからぬバカが先に死ぬ。考えなしもすぐに死ぬ。正直者も……残念だがすぐに死ぬ」

「ヴィヴィ、もういいでしょう」


 サラの言葉でヴィヴィはリムーバルバインダーを少女の腹から退かせると高速で移動させながら肩に装着した。

 その見事な操作技術に魔装士見習いだけでなく、他のクラスの者も見惚れた。


「ぐふ。信頼?思うのは勝手だ。だがそれを相手に求めるな。要求するな。それは自分の弱さになる」

「やめなさいヴィヴィ。流石に冒険者の先輩としては問題がありすぎる発言です」


 少女の治療を終えたサラが苦情を言う。

 ヴィヴィはまだ言い足りなさそうだったが、最後にこう言って締め括った。


「ぐふ。私は友人から、……死んだ友人からそう学んだ」


 ヴィヴィがふっ、と空を見上げる姿を見て生徒達のヴィヴィに対する恐怖と敵意が薄れた。


(この人も昔は人を信じていたんだ)

(口ではああ言っているけど本心では信じていたいんだ!)

 

 そんなヴィヴィをサラは冷めた目で見つめていた。



 その後、冒険談を聞かせて、数人に(流石に全員は時間が足りないので)稽古をつけて終わった。

 魔装士見習いは熱心にヴィヴィに質問していた。



 冒険者養成学校からの帰り道。


「ヴィヴィさんにあんな過去があったなんて知りませんでしたっ」

「ぐふ?」

「死んだ友人の事ですっ」

「ぐふぐふ」

「……アリスはあの話を信じたのですか?」

「えっ?」

「嘘に決まってます」

「えっ!?でもっ……」

「私にはヴィヴィが仮面の下で『てへぺろ』をしている姿が容易に想像できました」

「ぐふ。相変わらず失礼な奴だな」

「違うとでも?」

「ぐふ。当然だ。『てへ』で済ませてやったわ」

「そうなんだ」

「ガッカリですっ!ヴィヴィさんっ、ガッカリですっ!!私の感動を返してくださいっ!!」

「ぐふぐふ」


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