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276話 ニューズとの共同依頼

 マルコギルドの偵察隊はニューズから報告を受けた場所でバウ・バッウの死体を一体発見した。

 彼らがその周囲を調査すると更にもう一体のバウ・バッウを発見した。

 こちらは反面教師Bに腹の中からうけた攻撃で重傷を負っており、辛うじて生きている程度だったので偵察隊は苦戦する事なく倒す事ができた。

 その後、バウ・バッウ二体の腹からそれぞれ冒険者の死体が見つかった。

 彼らの所持品の中から冒険者カードが見つかり、指導員として参加していた者達であると確認された。

 その後も偵察隊は周囲を探索したが、新たなバウ・バッウを発見する事はなかった。

 偵察隊はマルコの財源確保のため、バウ・バッウの素材を回収してホクホク顔で帰投したのだった。



 リサヴィとニューズはモモに案内されて応接室にいた。

 モモが笑顔で話しかける。


「皆さんの共同依頼の件ですが、南の森での魔物討伐をして頂きます」


 その言葉を聞いてニューズはホッとした表情をする。

 モモがニューズに「リサヴィとの共同依頼の事を任せて欲しい」と言われた時、二つ返事でOKした。

 それはサラとモモは仲がいい、という噂を信じていたからだが、その事を聞いたサラが不機嫌な表情でその噂を全否定した事でニューズはモモに任せた事に罪悪感を覚えていたのだった。

 ニューズとは対照的にリサヴィ、特にサラはモモを不信感丸出しの表情で見つめていた。

 モモはサラの視線に気づいていたが、彼女の面の皮の厚さは尋常ではなく、笑顔を全く崩す事なく続ける。


「皆さんもご存知のように南の森でバウ・バッウが発見され、ガドタークの生息地も森の奥から街道側へ近づいているようで魔物の生息場所に変化が起きている可能性が高いです」

「ぐふ。バウ・バッウに追い出されたのだろうな」

「はい。偵察隊が調査した限りでは他にバウ・バッウの姿はありませんでしたが、森全域を調査したわけではありませんのでまだ安心できません」


 調査場所が南の森と聞いて一安心していたニューズであるが、バウ・バッウがまだいるかもしれないと知ってニューズのリーダーであるヤックが抗議の声を上げる。


「ちょ、ちょっと待った!俺達はEランクだ!バウ・バッウ討伐は無理だぞ!」


 ヤックの言葉に残りメンバー、戦士のソウオンと盗賊のリイも頷く。


「安心して下さい。今回の依頼はDランクです。内容は種類を問わずにDランク以上の魔物を討伐する事です」

「いや、Dでもきついって」

「そ、それにバウ・バッウがいるかもしれないんだろ?」


 ニューズの冒険者ランクは皆Eランクで戦闘経験も少ない。

 ヴィヴィに薬草採取専門と揶揄われ必死に否定したものの、今まで倒した魔物で一番強いのはEランクのウォルー、それも一度に相手にしたのは最大で三体で、戦いには勝ったもののギリギリだった。

 及び腰になるのも当然であった。


「もちろんニューズの皆さんには厳しいでしょう。しかし、こんなチャンスは滅多にないですよ。今回の依頼にはリサヴィが一緒なのです。リサヴィには神官がお二人も、それも超一流のサラさんとアリスさんがついているのです。最悪の自体はそう滅多に起こらないですよ」


 サラはチラリとリオの様子を見るが特に不満があるようには見えない。

 

「リオ、あなたはいいのですか?」

「ん?別に」

「そうですか」


 サラはリオが少しでも嫌そうな態度を取ったら猛反対する気だった。

 サラはモモの思うように事が進むのが面白くなかった。

 理屈ではなく感情的な理由だと自分でもわかっているので声に出して反対できない。

 という事でニューズが拒否する事を願っていたのだが、天はサラに味方しなかった。


「やります!」

「だな!俺達はもっと上に行くんだ!」

「ランク上の魔物と戦う練習ができるんだ!」


 サラは内心ため息をつく。


(うまくモモに乗せられたわね)


「バウ・バッウに遭遇するかもしれませんよ?」


 サラの言葉は逆効果だった。

 ニューズはサラに試されていると思ったのだ。

 それに男なら女に、特に美女にはカッコいいところを見せたいものである。

 

「そうかもしれないけどモモさんのいう通りですから」

「こんなチャンスは滅多にないですから!」

「だな!」


 ニューズの面々が顔を赤くしながらサラに言った。



「では快諾して頂いたところで具体的なお話に入りましょう」


 モモが笑顔をサラに向ける。

 サラにはその笑顔が「ふふん!」と勝ち誇っているように見えた。

 

(こんがガキャー!)


 サラが内心で悪態をついている間もモモが説明を続ける。


「実は南の森の奥には小屋がありまして」


 モモが広げた地図のある場所を指差す。


「この小屋は以前は休憩場所として使われていたのです。ただ、使われなくなって大分経ちますが、再利用する計画が立っております。つきましては皆さんにはこの小屋までの道の確保、小屋の状況の確認及び周囲の魔物を掃討をお願いします」

「ちょっと待ちなさい。なんか内容が最初と大分違いますよ」

「そうだ!最初は魔物討伐だけだったじゃないか!」

「え?そうでしたか?最初は概要を説明しただけのつもりだったのですが」


 モモは抜け抜けと言い放った。

 

「こんガキャァ……」

「サラさんっ、本心ダダ漏れっ……きゃっ、リオさーんっ!」


 サラに睨まれアリスが嬉しそうにリオに抱きつく。

 ニューズの面々はこの打ち合わせでリサヴィについて色々と真実を知ったのだった。



 リサヴィとニューズが小屋に辿り着くまでに戦闘を二回行った。

 一回戦目はウォルー。

 リサヴィが四体倒し、ニューズも軽傷を負ったものの彼らだけで二体倒した。

 そして二回戦目はガドタークだった。

 先に気づいたのはサラ達でガドタークはいつも通りツーマンセルで行動していた。

 サラが作戦を立てる。


「一体はニューズでお願いします」

「ええっ!?ちょ、ちょっと……」

「私がサポートします」


 サラがニューズの言葉を遮る。


「ぐふ。強くなりたいのだろう?」

「そ、そうだよなっ」

「おうっ」

「や、やってやるぜっ」


 ヴィヴィが珍しく、ニューズを気遣うセリフを言った。


「ぐふ。安心しろ。サラは性格は最悪だが、神官としての腕は確かだ」

「あなたにだけは性格の事を言われたくありせん!」


 二人の掛け合いを見て緊張が少し解けた。

 自分達の緊張を解くためにワザとやってるんだ、などと思い感動までしていた。

 もちろん、そんなものは微塵もない。

 サラとヴィヴィは本気で罵り合っていた。

 それはともかく、ガドタークとの戦闘を開始した。

 リサヴィが受け持った方はリオの放った短剣を頭に受け、あっけなく倒れた。

 相方が倒されたのを知り、もう一体は逃げ出す可能性もあったが、怒りを露わにニューズに猛攻を仕掛けてきた。

 しかし、その攻撃は雑だった。

 ニューズは苦戦しながらもサラの的確なアドバイスと治療魔法のお陰でガドタークを追い詰めて行く。

 そして、リーダーであるヤックの一撃をくらい、ガドタークが地に伏した。


「……やった、やったぞ!!」

「「おうっ!!」」


 ニューズの面々が歓喜に声を上げる。


「まだ安心するのは早いです!」


 サラの声にニューズの面々はハッとしてガドタークを観察する。

 盗賊のリイが慎重に近づき、その首を掻っ切ろうとした時だった。

 

「!!」


 ガドタークの右腕が盗賊を襲う。

 しかし、十分警戒していたのでその攻撃を避ける事が出来た。

 

「まだ生きてるのかよっ!?」

「これでどうだ!!」


 リーダーが起き上がろうとしていたガドタークの首を斬り落とした。

 首を失ったガドタークが倒れ、二度と起き上がってくる事はなかった。

 ニューズの面々がほっと息を吐く。

 そこへサラが声をかける。

 

「ガドタークは死んだマネが上手いです。熟練の冒険者も死亡確認を怠り、命を落とす事もあります」


 まさに先日、反面教師Aがそれで命を落とした。

 ニューズがガックリと項垂れる。


「は、はい……」

「すみません……」

「……」

「しかし、よくやりましたね」


 サラの笑顔を見て、ニューズはすぐさま立ち直った。


「「「ありがとうございますっ!!」」」

「ぐふ。現金な奴らだ」

「そうなんだ」


 アリスがボソッと呟いた。

 

「これっ、結局、研修してるみたいですねっ」


 それは誰もが思っていた事だった。

 

「そうなんだ」


 ……いや、リオだけはそう思っていなかったようだ。



 

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