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275話 アリスからの手紙

 フラースの元にダッキアがやって来た。


「アリスから手紙が来たわよね?」


 開口一番ダッキアはそう尋ねる。

 

「ええ。あなたのところにも届いたようね」

「当然でしょ。私の弟子でもあるんだから。ほらっ、手紙を交換交換っ」


 そう言ってダッキアが差し出した手紙をフラースは受け取り、代わりに自分宛に来た手紙をダッキアに渡す。

 二人はしばし黙って手紙を読んだ後、ダッキアが先に口を開く。


「何よこの手抜きは!?全く内容同じじゃない!」

「冒頭にそう書いてあったでしょ」


 そう、アリスは宛名以外全く同じ文面の手紙を二人に送ったのだった。

 

「まったくあの子はこんな手抜きして……」

「まあ、一つの手紙を二人で読んで、としなかっただけマシでしょう」

「甘いわ!私は返事に文句を書いてやるわ」

「どこに送るつもり?アリスの入ったパーティはまだホームはないって書いてあったわよ」

「じゃあ、文句をギルドを通して送るわ!」

「……たく、あなたは……」

「まあ、冗談はこれくらいにして、どう思う?」

「どうとは戦いの途中に魔法を授かったこと?それともナナルの弟子サラが同じパーティにいる事?」

「両方よ。でも私が気になるのは魔法よ。何よ自動回復魔法リジェネ・アクトって!私ですら授かってないのに!」

「授かった魔法もそうですけど私は戦いの中で授かったというのが気になるわ」

「あの子ボケてるから、そういう夢見たんじゃないのかしら?」

「その可能性は……捨てきれないわね」

「そうでしょう?」

「でもこのリオという少年が本当に勇者なら神が彼に力を貸すためにアリスにイレギュラーな方法で魔法を授けた可能性もあるわ」

「そんなの聞いたこと……あるわね」

「私もひとつだけ思い当たるわ」

「はじまりの勇者ディオン」

「ええ」


 ディオンは暗黒時代を終わらせた、最初に誕生した勇者だ。

 二人はしばし沈黙する。

 口を開いたのはフラースだった。

 

「……サラはどう思っているのかしら?」

「そういえばサラは元娼婦だって書いてあったわね。私に教えを乞えばよかったなんてバカな事書いてあったけど」

「それは話半分で聞いておいたほうがいいしょう。そもそもその話は本人からではなく、同じパーティの魔装士から聞いたと書いてありましたから」

「そうね。からかわれている可能性が高いわね。にしてもそのリオっていうのが勇者って本当だと思う?」

「可能性はゼロではないでしょうね」

「サラがいるから?」

「ええ。あのナナルが直々に鍛えたのでしょう。勇者を見る目はアリスより確かだと思います。意味もなくそのパーティにいるとは思えません」

「そうね。でもそのサラはよくアリスの同行を許したわね。単純な力勝負ならアリスに勝ち目がないのは確かだけど」

「それはわかりませんが、同じ勇者候補を選んではいけない、という決まりはありません」

「それはそうね」

「しかし、アリスは自分の勇者が見つかったと浮かれているようですが、肝心な事を忘れているようですね」

「……勇者が現れるとき、魔王もまた現れる」

「……ええ」



 その後、しばらく雑談し、ダッキアが退出しようと席を立った時だった。

 

「ダッキア。私、手紙を出します」

「ホームが決まってない、って言ったのはあなたよ」

「アリスにではありません」

「それじゃ誰によ?」

「ナナルです」

「なんて書くつもり?」

「そうね、とりあえず私の弟子があなたの弟子と一緒のパーティになったからよろしく、かしら」

「それはダメよ」

「遠回し過ぎって言いたいの?でも私は……」

「違うわよ」

「?」

「“私の”じゃなくて“私達の”でしょ」

「……はいはい」



 ナナルは第二神殿の自室でフラースからの手紙を読んでいた。

 読み終わり、笑みを浮かべる。

 

(……面白いわね。あの子はてっきりサラを選んだと思ったのですが、フラースの“弟子も“選んだというのかしら)


「……ユーフィ、私はこの展開を知らないわ。あなたはこの未来を知っていたのかしら?」


 ナナルは自然とそう呟いていた。

 ふと誰かの気配を感じた。

 そちらに視線を向けるとすっと一人の冒険者が姿を現した。

 ここは第二神殿の奥、部外者がそう簡単に入って来られる場所ではないはずだった。

 ナナルはその者に警戒する様子もなく気軽に声をかける。

 

「久しぶりね」

「そうね」


 ナナルの前に現れたのはエルフのファフだった。

 

「それで今日はどうしたの?」

「ちょっと相談よ」

「何かしら?」

「……ギルドから連絡が来てね。リオがわたしを探しているみたいなのよ」


 ちょっと困ったような表情をするファフを見てナナルはため息をついた。


「だから言ったでしょう?接触はやめた方がいいと」

「我慢できなかったのよ」

「その後も近くをウロチョロしてたんじゃないの?」


 ファフが小さく「うっ」と唸った。


「だ、大丈夫よ。気づかれてはいないわ!」


 ファフは動揺を隠すように胸を張って言った。

 ナナルが頭を押さえる。


「そういう事を言ってるんじゃないわ……何故”あと数年“が待てないの?」

「我慢できなかったんだから仕方ないでしょ」

「それで?」

「どうしたらいいと思う?」

「手が離せないから都合がついたらこちらから連絡するとでも言ったら?」

「……そうね、それがいいかしら。やっぱりもう会わないほうがいい、わよね?」

「そうね」


 ファフの未練ありありの問いにナナルは無常に答える。

 しかし、ファフはまだ諦めきれないようだった。


「例えばだけど……わたしもリオのパーティに加入するってのはない?」

「ないわね。短期間ならともかくずっと実力を隠し続けるのは無理でしょう」

「……そうよね」


 ファフは寂しそうな表情をする。


「全く……私より長生きしているくせに」

「うるさいわね。あんまり年の事言わないで」

「では言い方を変えるわ。同じ”六英雄の一人“として恥ずかしいわ。ファーフィニア」

「残念でした!今はファフよ」


 ファフが冒険者カードを取り出し、ナナルに自慢げに見せつける。


「……本当に冒険者カードには欠陥があるのね」

「百年問題の事?」

「ええ」


 冒険者の情報はギルド本部にある、暗黒時代に作られた魔道具“管理くん”にて全て保存されている。

 情報には個人を判別するための生体情報も含まれているため、偽名を使って複数の冒険者カードを作ろうとしてもすぐ同一人物だとバレる。

 しかし、保存されている情報は登録日から百年後に有無をいわさず削除されるようになっており、エルフなどの寿命の長い種族はその前に更新する必要がある。

 ファーフィニアが冒険者となったのは百年以上前のことで、冒険者カードの更新を行わなかったため情報が抹消されていた。

 リオが冒険者になったのに合わせて再び冒険者となり、ファフと名乗ったのだった。

 ファフがクスリと笑う。


「お陰で新鮮な気分で冒険を楽しんでるわ」

「それはよかったわ」

「ええ、……あ、そろそろ時間切れみたいだから行くわ」

「そう。ワガママは控えてね」

「ふふ……考えとくわ」


 ファフは来た時と同じようにすっと姿を消した。



次回更新は1/30(月)を予定しています。

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