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274話 死神パーティ

 ギルマスの部屋でモモが新米冒険者強化研修の報告を行なっていた。


「……以上となり、バウ・バッウという想定外の魔物が出現したこと“以外”は予定通り終了しました。新米冒険者達の表情は見違えるくらい自信に満ちていました。流石リサヴィの皆さんです」


 ニーバンはモモからの報告を受け、モモの笑顔とは対照的にゾッとした。

 研修自体には何の問題もない。

 モモのいう通り上出来だ。

 その事ではなく、指導員に名乗り出た、マルコギルド所属冒険者のブラックリストに名を連ねるトップランカー、ナンバー三、五、八の三人全員が死んだことだ。

 ギルドの不正調査をのらりくらりとかわし、他の冒険者の手柄、そして時にはその命さえ奪ってきたずる賢い彼らがあっさりと死んだのだ。

 それを予定通りとさらりと流すモモもそうだが、本当にリサヴィに関わって彼らが死んだ方が驚きだった。


「どうしました?」

「いや、なんでもない。それでバウ・バッウのほうは?」

「はい、確認のために現場へ偵察隊を向かわせています」


 南の森にCランクの魔物、バウ・バッウの出現。

 これまで南の森でバウ・バッウが出現したという報告はなかった。


「おそらくはガブリッパなる魔術士がザラ森に放った寄生生物から逃げて南の森に来たのでしょうが、このまま放置ますと生態系に異常が生じる可能性があります」

「リサヴィのいう事だから間違いはないだろう。確認でき次第、南の森の魔物調査依頼を出してくれ」

「はい。ただいま準備しておりますが、冒険者ランク、それに報酬はどこから出しますか?」

「ランクはBとしたいところだが……」

「そうしますと報酬もそれなりになりますが?」

「そこが問題だな……報酬は領主に話をしてみよう」


 モモが首を傾げる。


「報酬、出してくれますかね?あのケチな領主様が」


 マルコの街を納める領主は先のゴンダスの不正にも関わっていたとの噂もあり、そしてケチである。

 魔の領域が出現した時も対応が後手後手で非協力的な態度から冒険者ギルドだけでなく、ジュアス教団からも反感を買っていた。

 モモのいう通り、自分の領内とはいえ、調査報酬を出してくれるか難しいところだった。


「とはいえ、今のマルコに余裕はないぞ」

「そうですね……」

「どうした?何か案があるのか?」

「いえ、案と言いますか。リサヴィに頼まれてこの件を報告に来たニューズというパーティなのですが、今度リサヴィと一緒の依頼を受けると嬉しそうに話していたのですよ。それを利用できないかな、と思いまして」

「……大丈夫か?それ」


 ニーバンは不安な表情になるが当のモモは笑顔で言った。

 

「ええ。私、サラさんと仲良しですから」


「嘘つけー!!」とニーバンは心の中で叫んだ。



「まあ、それは領主様の回答を待ってですね。それはそれとして今回の研修の事ですが、Fランクの新米冒険者達がガドタークを倒したという噂が広がりましてリサヴィに教えを乞いたいという要望が来ています」

「まあ、新米冒険者がガドタークを倒したと聞けばな……」


 そこでニーバンが顔を顰める。

 

「……まさか、またブラックリストに載った連中じゃないだろうな?」

「いえ、“今の所”いません。彼らは様子見をしているようです」

「様子見?」

「はい。今回の件でクズ、いえ、ブラックリスト上位ランカーがリサヴィのパーティメンバーになるどころか、全員命を失っていますからね。流石にこれはおかしい、と不審に思ったのでしょう。彼らの死はギルドとリサヴィが仕組んでやったと疑っている者もいるようです」

「バカバカしい!」

「はい。しかし、自分達がクズである事を自覚している者達ほど疑心暗鬼になり慎重にならざるをえないでしょう」

「……そうだな。それで研修の件、リサヴィはしてくれそうか?」

「残念ながらリサヴィの皆さんには断られました」

「そうか。それは残念だな」

「はい。ただ、研修は指導員を変えても引き続き行って行きたいと考えています」

「そうだな。私も賛成だ。指導員は慎重に選ばないといけないがな」

「はい。ブラックリストに載った冒険者達を“リサヴィを使って排除”できないのは非常に残念ですが」

「言い方」

「これは失礼しました。しかし、マルコ再生のためにはブラックリストに載っている残りの者達の対処も早急に行う必要があります。彼らは彼らでいう”コバンザメ“により真面目な冒険者から報酬を搾取してマルコの印象を悪くしておりますので」


 “コバンザメ”とは、

 正式に依頼を受けたパーティにくっついていき、大して何もやっていないにも拘らず、依頼達成に貢献したと言い張り、一緒に依頼を受けた事にして報酬を奪うことをいう。

 無能のギルマス達が失脚し、ギルド側に協力者がいなくなった事で成功率は大幅に下がったが、ゼロではない。

 

「その対策ですが、思い切ってコバンザメ、いえ、事後依頼を禁止にしてはどうかと。そうすればまともに依頼を受けるしかありません。受けなければ所属解約や降格させるのです」

「うむ。だが、奴らはコバンザメ以外にも不正を働いているのだろう?その対策はどうする?」

「“ごっつあんです”と“押し付け”ですね」


 “ごっつあんです”とは、

 魔物の止めだけ刺す、あるは既に死んでいるにも拘らず更なる一撃を加えて自分が倒したと主張して獲物を横取りすることである。


 “押し付け”とは、

 自分が勝てない魔物に遭遇した時、他の者にその魔物を押し付けて逃げることをいう。

 また、気に入らない冒険者にワザと魔物を押し付ける場合もある。

 勝てそうもない魔物を押し付ける場合は“押し付け”から“三途の川渡し”へ名が変わる。

 文字通り、押し付けられた相手は魔物に勝てず死ぬからだ。


「そちらは正直難しいですね。現地で行う行動ですから。ただ、どれもまずはコバンザメからの連携で行われますので減らす効果はあるかと」

「……なるほどな。降格はうちだけの判断では難しいが所属解約はできるな。わかった。当分の間、期限を設けず、マルコでは事後依頼を禁止としよう」

「はい、それがよろしいかと」

「うむ、ではそれで進めてくれ」

「はい」



 話はリサヴィ残留対策の話に移った。


「それでリサヴィ対策はどうするのだ?このままではどこかへ移動してしまうのではないか?」

「はい。とりあえず、リッキー退治を紹介しました」

「そ、そうか」

「その後ですが先程のニューズとの共同依頼を私のほうで用意すると話をつけました」

「よくリサヴィ、いや、サラが納得したな?」

「はい。私はサラさんと仲良しですから」


 嘘つけ!

 

「……そうか」

「はい。その後は冒険者養成学校へ冒険者代表として講演でも行ってもらおうかと考えています」

「それはいい事だが大丈夫か?」

「はい。私はサラさんと仲良しですので」

「嘘つけ」


 ニーバンはつい本音が出てしまった。


「はい?」

「い、いや、なんでもない。わかった。それで進めてくれ」

「承知しました」


 モモがニーバンに一礼して出口へ向かう。


「……彼らに近づくと死ぬか」


 ニーバンがボソリと呟いたのをモモは耳にし、足を止めて振り返る。


「はい?」


 ニーバンはモモに独り言を聞かれて困った表情をしたが、しばし躊躇した後に言葉を続けた。


「君は以前、リサヴィにちょっかいをかけると天罰が下ると言ったな」

「はい。それが何か?」

「私にはリサヴィが死神に見える。いや、死神パーティというべきか。そう言われて彼らは不満だろうがな。彼らから近づいているわけではないのだから」


 モモがふっ、と暗い笑みを浮かべた。


「死神ですか……それも間違いではないかもしれませんね。天罰を下すのは神、死神も神。どちらも神ですから」

「……」


 ニーバンはその笑みを見てモモに何かに憑依でもされているのではないかと不安になる。

 そんなニーバンを見てモモが首を傾げる。

 それはいつものモモだった。


「どうしました?」

「……いや、なんでもない」

「そうですか。では失礼します」


 モモがギルマスの部屋を後にした。


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