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269話 新米冒険者はマゾばかり?

「じゃあな、クズ野郎」


 反面教師Bは自分の事を棚に上げて反面教師Aにそう言うとサラ達の後を追う。


「ちょっと待てよ!」

「はあ?俺はこれから忙しいんだぞ。俺が加入した後のフォーメーションとかサラと相談しなきゃならないんだからな!お前と違ってな!」


 何故か本気でリサヴィに入れると思っている反面教師B。


「いいからちょっと解体手伝えよ」

「はあ?『寝言は寝て言え』だ!」


 反面教師Aはムッとしながらも話を続ける。


「腹ん中にお宝あるかもしれんぞ。あったら山分けだ」


 反面教師Bは胡散臭そうに彼を見つめ、少し考える振りをする。

 そしてチラリとサラ達のいるキャンプ地を見た。


「……まあ、しばらく時間はありそうだし、手伝ってやるぜ。その代わり半々だぞ!プリミティブ込みでな!」

「わかったわかった。さっさと終わらせるぞ」

「当然だ」



 反面教師二人でバウ・バッウの腹を苦労しながら裂くと半分溶けた人の腕が出て来た。


「きったねえ」

「しかし、これは期待出来るぞ」

「お前、最低だな」


 そう言って最低同士が笑顔を向け合う。

 あまり見たくない光景であった。

 しかし、その顔はすぐに失望に変わる。


「……げっ、こいつ、あの『おうおう』じゃねえか」

「かっー、情けねえ!ウォルー追いかけていって戻ってこねえと思ったらバウ・バッウに食われてやがったか!」

「こりゃ期待できねえぞ。あいつ、大した物持ってるように見えなかったからな」

「そうだな、剣も安もんって……おいおいサラ達は何処だ!?」


 反面教師Bがサラ達がキャンプ地にいないことに気づく。

 バウ・バッウの解体に夢中でいつ移動したのか全く気づいていなかった。


「何!?……って、本当にいねえ!?“俺”を置いて何処行きやがった!?」


 反面教師Bの言葉で反面教師Aもサラ達がいないのに気づき慌てる。


「馬鹿野郎!それはこっちのセリフだ!くそっ、俺はもう行くぜ!無駄な時間……」


 そこで反面教師Bは視界が閉ざされた。

 いや、視界だけでなく未来も閉ざされることとなる。


「なっ、バウ・バッウだと!?」


 そう、反面教師Bの視界を塞いだもの、彼を“一飲み”したモノは新たに現れたバウ・バッウだった。

 

「じょ、冗談じゃねえぞ!こんな奴と一人で戦えっかよ!」


 バウ・バッウを倒したと豪語した男がとても情けない言葉を吐いた。

 サラ達に助けを求めたかったがバウ・バッウが邪魔でキャンプ地へ向かう事が出来ない。


「く、くそっ!」

 

 反面教師Aはバウ・バッウに背を向けて、サラ達がいた方向とは逆方向に逃げ出した。

 バウ・バッウは反面教師Aの後を追いかけてきたが、動きが鈍い。

 本来の動きが出来ればとっくに反面教師Aに追いついているところだ。

 それに反面教師Aは気づき、立ち止まる。

 警戒しながら慎重にバウ・バッウを観察していると、


 ブスっ、


 と何かがバウ・バッウの腹から生えた。

 剣の刃だった。

 悲鳴を上げるバウ・バッウ。

 

「ん!?剣!?そ、そうかっ、あの野郎、腹ん中で暴れてやがんのか!」


 ここでこの反面教師Aも戦いに参加すれば飲み込まれた反面教師Bは助かったかもしれない。

 しかし、彼はそうしなかった。

 

「頑張れよ!今、助けを呼んで来てやっからよ!」


 そう言うと反面教師Aはその場から全力で逃げ出し、二度と振り返らなかった。

 本当に彼は反面教師の鑑であった。

 彼ほどの反面教師は滅多にいないであろう。



 サラ達は先ほどとは別の開けた場所へ向かっていた。

 言うまでもなく、反面教師ズの相手に疲れたからだ。

 新米冒険者達の研修は今日の夕方までで、本当なら先ほどのキャンプ地で午前中訓練し、昼食後にマルコへ街へ戻る予定だった。

 その際、彼ら新米冒険者達に道中の警戒も任せるつもりだったが、変更を余儀なくされた。

 まあ、反面教師ズの事がなくても新米冒険者達の手に余る魔物、バウ・バッウが出没するあの場に留まるのは危険だと判断したのもある。

 道中、リオは新米冒険者達に熱心に稽古の相手に誘われていた。


「リオさんっ、俺に弓を教えてください!」

「ちょっと待った!リオさん!俺ともう一度剣の稽古を」

「いや、俺と剣を!」


 しかし、


「そうなんだ」


 リオは相変わらずどうでもいいような返事をするのだった。



 場所を移し、早めの昼食を済ますと訓練を開始した。

 新米戦士Aは憧れのリオに稽古をつけてもらえるとあって興奮していた。


「リオさんっ、本気でお願いしますっ!」

「……」

「それで腕を一本失ったとしても構いません!」


 その言葉は新米戦士Aが本気である事の意思表示であった。

 

「わかった」


 もちろん、空気の読めない事には定評のあるリオである。

 そのまま言葉通り受け取った。

 新米戦士Aが気づいた時には自分の腕が宙を舞っていた。

 直後に激痛が襲う。


「あああ……!!」


 失った腕を押さえ、苦痛に歪みその場にかがみ込む。

 それに気づきサラがリオを怒鳴りつける。

 

「リオ!あなたは何をやっているのですか!?」


 アリスが新米戦士Aのそばに駆け寄る。

 そのアリスにリオが切り落とした腕を渡す。

 

「ちょっと動かないでくださいっ、ズレると面倒になりますっ」

「は、はい……」


 苦痛に歪みながらもなんとか激痛に耐える新米戦士A。

 アリスが切断された腕を傷口に合わせて回復魔法を発動する。

 

「うっ……」


 直後、腕は綺麗に繋がり、傷跡もすっかり消えていた。

 

「終わりましたっ。大丈夫ですか」

「は、はい……」


 そう言って新米戦士Aは深呼吸をするとゆっくりと先ほど切断された方の腕を、その指を動かす。


「どうですっ?」

「はい、大丈夫です。腕も指もちゃんと動くし感覚もあります」


 それを聞いてアリスはほっとした表情をする。


「リオ!!やっぱりあなたは加減を知りませんね!」

「違うんです!俺がお願いしたんです。少しでもリオさんの本気が見たくて」


 リオがサラに叱られているのを見て、新米戦士Aが擁護に出る。


「そうなんですか?」

「うん、腕一本ならいらないって」

「それは例えです!本当に斬る人がいますか!!」

「ん?ここに……」


 リオの頭が不意に下を向いた。

 サラにどつかれたとわかる。

 

「僕……」

「いい加減、それくらいわかりなさい!」

「どうだろう?」


 リオは首を傾げる。

 

「あなたという人は……」

「サラさん!本当に俺が悪かったんですから!リオさんは悪くないです!どうしても殴り足りないなら俺を好きなだけ殴ってください!」


 サラは新米戦士Aのその言葉に危険なものを感じ思わず引いた。

 

「い、いえ、もうわかりました」


 サラは彼がちょっと残念そうに見えたのは気のせいだと思う事にした。


「リオさん、本当にありがとうございました!俺、この痛みを一生忘れません。この痛みを覚えていれば次に大怪我した時、パニックにならず、冷静に対処出来ると思いますっ!」


 そう言った新米戦士Aは自分の言葉に酔っていた。

 その言葉に刺激されたのか、

 

「リオさん!俺もお願いします!」

「やめなさい!」

「俺もです!」

「だからやめなさいって言ってるでしょ!」


「ヴィヴィさん!オレも……ぐへっ!?」


 新米魔装士はヴィヴィのリムーバルバインダーで思いっきり腹を殴られて内臓破裂を起こした。


「ヴィヴィ!?なんであなたまで!?」


 サラは急いで新米魔装士に駆け寄ると回復魔法をかけた。

 ホッとするのも束の間、

 

「うわああっ!!」

「ぐへっ……」


 腕を切断されうずくまる者、腹を押さえる唸る声がサラに聞こえる。

 

「お前らー!!」


 こうして新米冒険者達は仲良く瀕死の重傷を負ったのであった。



 新米冒険者達の怪我はサラとアリスの治療魔法により完治したとはいえ、あれだけの傷だ。

 念の為、休憩を取ることにした。

 その間、サラは彼ら全員を正座させ、叱りつける。


「もうあんな真似は絶対やめなさい!神官みんながさっきの怪我を治せるわけではないのですよ!下手したらあれであなた達の冒険者人生、いえ、人生そのものが終わっていたかもしれないんですよ!」

「「「「はいっ、すみませんでしたっ!」」」」


 そう言った彼らの顔にサラは反省の色をどこを探しても見つける事ができなかった。


「あなた達ね……」

「ぐふ。それくらいで許してやれ。こいつらも十分反省しているようだ」

「何他人事のように言ってるんですか!あなたも同罪です!大体、あれが反省しているように見えるんですか!?その仮面、壊れてませんか!?」

「ぐふぐふ。私の前に怒り狂ったエロ神官が見える。問題なく正常だ」


 サラとヴィヴィが今にも取っ組み合いを始めそうな雰囲気の中、新米冒険者達はもう説教は終わりだと思ったのか話を始める。


「いやあ、腕失うってあんな感覚なんだな!」 

「おう、めっちゃ痛かった!もう死ぬかと思ったぜ!」

「内臓潰れるのも半端ないぜっ!」

「ああ、めっちゃ苦しかったな。もういっそ殺してくれって思ったね」


 みんな楽しそうに話しているが、内容はとんでもないものだ。


「……何自慢してるのよ」

 

(正常な精神の持ち主は私だけなのかしら?……まさか私達と関わったから彼らがああなったんじゃないわよね?最初からよね?そうよね!?)


 サラは一人悩むのであった。


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