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267話 闇夜の狩り

 夕飯はリオが作った。

 食材は予め持ってきたものを使用した。

 どの素材も味を犠牲にして保存しやすく加工したものだったので新米冒険者達は料理に期待していなかった。

 しかし、実際に出来上がったものは予想を遥かに超える美味い料理だったので皆驚いた。

 街の飯屋で出てくるものと同等、いや、それ以上の味だった。


「リオさんって何でも出来るんですね!」

「そうなんだ」

「正直、リオさんの噂って酷いものばかりですけど。本当のリオさんは全然違いますね!」

「そうなんだ」

「そうなんですよっ。リオさんはすごいんですっ。みんなリオさんの凄さに嫉妬して酷い噂流すんですっ」

 

 当の本人であるリオは適当な返事をしたが、アリスがまるで自分の事のように誇らしげに頷く。


「けっ、あんなの大した事ないぜ!」


 そう言って反面教師Aがサラ達の火を囲む輪に割って入ると鍋からスープを自分の皿に豪快に注ぐ。

 

「おうっ、この料理もなっ!」


 反面教師Bもやって来てこれまたスープを自分の皿にごっそり注ぐ。


「食事泥棒ですよ」


 サラの冷めた声に全く堪える様子のない反面教師ズ。

 

「固えこと言うなよ。同じ指導員だろう」

「今は違います」

「まあ、許してやってくれよ、スープくらいでよ」

「そうそう」

「……」


 サラは自分達の事を客観的に言える反面教師ズに呆れる。

 当初、彼らは、

 

 「リッキーキラーの作った料理なんか食えるか!」


 と喚いていた。

 別に食わせる気など元からないので無視していたのだが、皆が絶賛するのを聞き、


「そこまで言うなら食ってやるぜっ」

「そうだなっ。俺達が確かめてやる!」


 などと言い出し、自分らの荷物から皿を取り出すと強引に輪に割って入って勝手に食いはじめたのだ。

 サラが彼らの愚行を許したのは当のリオが気にしていなかったからだ。

 もし、少しでもリオが不機嫌な態度をとったら叩き出す気だった。

 ちなみに一番おかわりしたのは彼らである。



 夜も更けてきた頃、サラが四方に貼った結界を解き始めた。


「あのっサラさん?」


 不安に思った新米魔装士がサラに声をかける。


「見張の訓練を行います」


 キャンプ地には結界が張られていたのですっかり安心し切っていた新米冒険者達に緊張が走る。


「二交代で二人ずつ組んでください。あ、戦士は分かれてくださいね」

「「「「は、はいっ」」」」


 新米冒険者達が緊張するなか、サラ達、リサヴィが全員テントに入っていくのを見て驚いた。

 ちなみにテントはマルコギルドから無料で借りたものだ。

 反面教師ズがリサヴィのテントに入ろうとして蹴り出されるのを見て、ちょっとだけ落ち着きを取り戻す。

 ぎゃーぎゃーと喚く反面教師ズを気にしながら新米戦士Aがサラに声をかける。

 

「あの、」

「なんです、っかっ」

「ぐへっ!?」

 

 サラはまだしつこくテントに入ってこようとする反面教師Aにアッパーカットを喰らわせ強制的に眠らせる。

 もう一人はその姿を見て侵入を断念した。

 新米戦士Aはサラと目が合い、慌てて尋ねる。

 

「あの、サラさん達はその、見張りは……」

「しませんよ」

「そ、そうですか」


 今回、テントを使用したのは新米冒険者達の視界に自分達の姿が入いると安心して気を抜くかも知れないからだ。


「今まで見張りはしたことないですか?冒険者養成学校で研修ありませんでしたか?」

「いえ、ありましたけど……」

「では、その通りにお願いします。魔物の気配を少しでも感じたら呼びに来てください」

「は、はい」

「あ、そうそう」

「はい?」

「それにも手伝わせていいわ」


 そう言って、白目をむいて気絶している反面教師Aを指差す。


「わ、わかりました」


 新米戦士Aは新米戦士Bを呼びに行き、二人で引きづりながら焚火のそばまで連れて行った。

 四人は冒険者になって初めて冒険者になった充実感を味わっていた。

 交代で見張りをするはずだったのに興奮して眠れないらしく四人で今日の出来事を話し合った。



 しばらくして、リオがやって来た。

 彼らはリオがすぐそばにやって来るまで全く気づかず、突然現れたように見えてとても驚いた。

 

「す、すみませんっ。うるさかったですか?」


 リオに憧れを持つ新米戦士Aが恐る恐るリオに尋ねるが、リオは無言のままじっと森の奥を見ていた。

 その様子を見て新米盗賊がはっ、とした表情になり、

 

「静かにしてくれ」


 と小さな声で新米冒険者達に声をかける。

 それで他の者達もリオが起きてきた理由を悟った。

 新米盗賊はリオが見つめる先に神経を集中させると微かに何かの気配を感じた。


「……これ、ウォルーじゃないですね。ガドターク……ですか?」


 自信のなさそうな新米盗賊の問いにリオは首を傾げる。

 

「どうだろう」


 ちなみに新米戦士達と新米魔装士はまだソレの存在を感知できない。

 リオが顔を森に向けたまま新米魔装士へ手を差し出した。


「は、はい?」

「弓矢」

「あ、ああ、はいっ」


 新米魔装士はどっちの盾に弓矢を入れたかを思い出しながら弓矢を格納したリムーバルバインダーをリオのそばに移動させて扉を開く。

 その操作が思った以上にスムーズに出来たので仮面の下で笑みを浮かべる。

 リオは中から弓矢を取り出すと先ほどから視線を向けていた方に向かって構えた。

 

「「「「!!」」」」


 リオは適当に構えたように見えたが、その姿はとても様になっており、美しかった。

 ゆっくりと弦を引き絞る。

 新米冒険者達は必死に目を凝らしてリオが矢を構える先を凝視するが暗闇で何も見えない。

 新米盗賊も微かに気配を感じるだけで魔物の位置までは掴めていない。

 リオが暗闇に矢を放った。


「……ん?」


 リオが首を傾げるのを見て、新米戦士Aが控えめに尋ねる。


「あの、外れたのでしょうか?」

「思った程威力がなかった」


 リオはそう言うと再び弓を構え、矢を放つ。

 更に放つ。

 どれも適当に放っているように見えた。

 そして四本目を構えようとして、やめた。

 リオは森から視線を外し、弓と残りの矢をリムーバルバインダーに戻すとテントへ戻って行った。

 その様子に呆気に取られ説明を求めるのを忘れていた。



「なあ、結局何だったんだ?」


 新米戦士Bが新米盗賊に尋ねる。

 

「わからない。だけど、仕留めたみたいだ」

「ほんとか!?」

「ああ。微かに感じてた気配がリオさんが四本目を構えようとしたところで消えたんだ」

「逃げたんじゃないのか?」

「いや、気配は遠ざかるというよりは一瞬で消えたんだ」

「そ、そうか」

「でもちょっと信じられないよな。いや、リオさんの実力が本物なのは知ってるけどよ、真っ暗だぜ?日が出ていたとしても姿さえ見えるかどうかの距離じゃないか?」

「俺だって信じられないさ。そもそも矢ってそんなに飛ばないよな。リオさん、結構角度つけてたけどさ」

「少なくともお前のものよりはよく飛ぶぞ。オレの弓矢は魔力が込められているからな」

「ああ、そうかっ!だからリオさん、俺じゃなくお前に弓矢借りたんだな!」


 新米盗賊は自分も弓矢を持っていたのに、リオが一度も一緒に訓練していない、まともに会話すらしていない新米魔装士に弓矢を借りたことで新米魔装士にちょっと嫉妬していたのだったが、今の説明で納得した。

 新米魔装士は頷いた後、悔しそうな表情をする。


「でもオレのはヴィヴィさんのものには敵わなかったみたいだ。って、それは当然なんだけどさ。やっぱりちょっと悔しい」


 新米戦士Bがぼそりと言った。


「なあ、ちょっと見に行ってみないか?」

「見に行くってリオさんが倒したモノをか?」

「ああ」

「それはマズイだろ!」

「ああ、やめた方がいい」

「気にならないのか?」

「そりゃ気になるさ。でもよ、サラさん、魔物の気配を感じたら呼べ、って言ったよな。なのにリオさんは俺達が呼ぶ前にやって来たんだぞ」

「つまり、俺達がソレに気づいて呼びに行ったんじゃ間に合わないと判断したってことだな」

「今の俺達じゃ、敵わない魔物か……そうだな。一体だけとは限らないしな」


 現在の見張り組の新米戦士Aがこの後の見張り組に声をかける。


「なあ、お前らもう休めよ。興奮して眠れないとか言ってる場合じゃないぞ。眠れなくても体は休めるべきだ」

「だな。じゃあ、任せた」

「よろしくな」

「「おうっ」」


 結局、その夜はそのイベント以外発生しなかった。

 

 


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