265話 リオ、訓練に参加する
ついに一人となった反面教師Bが満足げな表情を浮かべながら言った。
「よしっ、サラ!これでお前のパーティに入るメンバーは俺と決ま……」
「ではウォルーから素材回収をしてください。それはあなた達のものとします」
サラは反面教師Bの言葉を遮り、新米冒険者達に指示を出す。
当然、反面教師Bが抗議をするがそれも無視する。
サラの言葉に新米冒険者達から歓声が上がる。
「時間は十分です」
「「「「え!?」」」」
「戦闘のあった場所に長時間留まっていると血の匂いに誘われて新たな魔物がやって来る事がよくあります。これはその訓練でもあります。では、スタート」
新米冒険者は慌ててそれぞれウォルーに向かって駆け出す。
反面教師Bも一緒になって駆け出し、彼が倒したウォルーに向かっていた新米冒険者を「邪魔だ!」と言って蹴飛ばした。
作業をする新米冒険者達にサラは説明を続ける。
「素材は一番価値のあるプリミティブや依頼を受けた素材を優先的に取るように。あと周囲の警戒も怠らないように」
サラはきっちり十分で終了した。
新米冒険者達はプリミティブの位置を調べるのに手間取り、新米盗賊が二個、他は一個だけだった。
ちなみに一番多かったのは反面教師Bで三個だ。
それを自慢げにサラに見せつけるが「はいはい」と適当に返事をして相手にしない。
「では移動しましょう」
本日、キャンプを行う予定地への移動だ。
南の森にはいくつか切り開かれた場所があり、冒険者達はそこをキャンプ地として活用するのだ。
キャンプ予定地に到着するとそこには先客がいた。
「……なんでいるんですか?」
「奇遇だな!サラ!」
それは先ほど捨て台詞を吐いて去ったはずの反面教師Aであった。
もちろん、偶然なんて言葉を信じるサラではない。
いや、サラだけでなく、誰もが信じていなかった。
他に人のいる気配はないが念の為ために尋ねる。
「ウォルーを追いかけて行った人は一緒じゃないのですか?」
「ああ!?なんで俺があんな『おうっ』しか喋れねえ、ロクに人語を喋れねえ奴の事なんか知ってると思うんだ?」
「そうですか」
「おいっ、まさか奴をパーティに入れる気だったんじゃねえだろうな!」
「何を意味不明な事言ってるのですか」
「そ、そうだよな!」
「ビックリさせんなよ!」
反面教師ズがほっと胸を撫で下ろす。
「ぐふ。私達のパーティに入れると思ってるお前達の思考がビックリだ」
「黙れ!棺桶持ち野郎!」
「てめえら棺桶持ちは黙って俺らが見つけた宝でも運んでりゃいいんだ!」
「……」
新米魔装士は反論しないのかとヴィヴィに顔を向けるがヴィヴィは無言だった。
ちなみに新米冒険者達は最初はどうあれ、今はヴィヴィを尊敬していた。
ウォルーをリムーバルバインダーで簡単に倒した姿を直にその目で見ているのだ。
とても反面教師ズのようなバカにした言葉は出て来ない。
サラは居座る反面教師Aに目を向ける。
「邪魔ですのでさっさと出て行ってください」
しかし、サラに関わる冒険者達の神経の図太さが尋常ではないのは知っての通りである。
そんな言葉で「はい、そうですか」と出ていくわけがないのである。
「おいおい、俺は冒険者だぜ。自由に旅して何が悪い?それともなんだ、ここはお前の領地か?違うだろう?なあ、サラ」
その反面教師Aはムカつく事をキメ顔で言った。
それでサラの気が惹けると思ったのならやはりその思考は尋常ではない。
サラはもう彼の事は無視する事にした。
サラが準備していた魔物避けの護符をキャンプ地を囲うように四方に設置した。
よほどの強力な魔物でもない限りキャンプ地へ侵入する事はできないだろう。
「今日はここでキャンプをします。では、少し遅くなりましたがギルドでもらったお弁当で昼食にしましょう」
「あのっ」
新米戦士Aが手を上げる。
「はい?」
「夕食は自分達で作るのですか?」
「それはこちらで用意しますのであなた達が気にする事はないですよ」
「おおっサラの手料理か!」
「来た甲斐があったぜ!」
反面教師ズが喜ぶ姿を見て、
「ぐふ。死にたいらしいな」
とヴィヴィがボソリと呟いたのを近くにいた新米魔装士は聞き、仮面の下でびっくりした表情をしたが、サラが険悪な表情でヴィヴィを睨んだので関わりを持つのは危険と判断して聞かなかった事にした。
昼食後、先ほどウォルーの襲撃で中断された訓練を再開した。
ただし、相手は先ほどとは違う。
新米戦士二人の担当はサラと反面教師B、新米盗賊はリオ、そして新米魔装士は変わらずヴィヴィだ。
アリスは今回も回復役担当だ。
新米戦士達の対戦相手はジャンケンで決めたのだが、勝った新米戦士Aはサラが相手でほっとした顔をし、負けた新米戦士Bは悲壮な表情をしていた。
その様子を見てサラが反面教師Bに釘を刺す。
「次、バカな事をしたらあなたも辞めてもらいますから」
サラの声に先に失格した反面教師Aが反面教師Bにヤジを飛ばす。
それに言い返す反面教師B。
サラはため息をつきながらリオを見る。
「リオ、あなたは短剣だけを使って。相手に怪我をさせてはダメですよ。出来ないなら刃を弾くだけにして下さい」
「わかった」
本当にわかったのか怪しいほど全く感情のこもっていない返事だった。
「ヴィヴィも……」
「ぐふ。わかっている。ここをゲロまみれにする気はない」
サラはため息をついて自分の相手を見る。
相手の新米戦士Aは羨ましそうにリオと新米盗賊を見ていた。
(そういえば彼はリオに相手して欲しそうにしてたわね)
代わってやればよかったかとも、と思ったが盗賊の武器は短剣だ。
同じ武器を扱うリオの方が新米盗賊のためになるはずだからこの組み合わせが最適のはず。
(とはいえ、時間はあるし、リオがキチンと手加減できるようなら彼の相手もしてもらいましょうか)
こうして、サラ達の午後の訓練が開始した。
(やっぱり強い!)
新米盗賊がリオに攻撃を仕掛けるものの、そのどれもがかわされ、受け流される。
リオがウォルーを一瞬で仕留めたのをすぐそばで見ていたからわかってはいた事だが、対戦して改めて実感させられる。
逆に何度も短剣を弾き飛ばされた。
(一体、俺は何回死んだんだ!?これがCランク冒険者の力なのか!?CランクでこれじゃあBやAはどんだけ強いんだよ!?)
新米盗賊が自信喪失する中でリオの姿を見失った。
「あれ!?……!!」
突然、背後から喉元に刃を突きつけられ、新米盗賊の額から冷たい汗が流れる。
(なんだ?なんだ!?なんだよ今のは!?何が起きた!?なんでリオさんが俺の後ろにいるんだよ!?)
すっと喉元から刃が離れ、リオが新米盗賊の横を通り過ぎる。
その姿を新米盗賊は呆然と見送る。
リオが一定距離離れたところで立ち止まると振り返り、新米盗賊を見た。
「盗賊のスキル使わないの?」
新米盗賊はその言葉でハッとした。
今のリオの動きに思い当たるものがあった。
「リオさんっ、今のはまさか、盗賊のスキルのインシャドウ……」
「来ないの?」
新米盗賊の言葉を遮り、リオが尋ねる。
新米盗賊は自分が盗賊であること、盗賊の戦い方をしていない事に気づいた。
「お願いします!」
新米盗賊がリオに向かって行った。
新米魔装士はまだぎこちなさはあるもののリムーバルバインダーをヴィヴィの指示に従って操っていた。
片方だけだ。
朝は両方、更に自分の目でも見ていたため、魔装士酔いを起こした。
しかし、片方だけなら目を開けていても酔わなくなった。
いや、それは言い過ぎだった。
気持ち悪さはまだある。
だが、今朝酷い経験をしたお陰か、我慢できる程度にはなっていた。
「ぐふぐふ」
そう呟いたヴィヴィはどこか満足そうだった。




