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264話 さらば反面教師!

 新米冒険者達を治療している間もサラに付き纏う反面教師ズ。


「なあ、誰が合格だ!?俺だろ!?」

「俺俺!」

「おうおうっ!」

「……何が合格は知りませんが、指導員としては全員不合格です」

「ざけんな!何が問題だってんだ!?」

「言っとくが俺は全然本気じゃなかったぞ!」

「おうおうっ!!」

「……もう帰ってくれませんか?」


 サラはゲンナリした顔で言った。

 それは治療で魔力を使い過ぎたのではなく、反面教師ズの相手に疲れたのだ。


「なんだと!?」

「それは俺が合格という意味か!?」

「おうおうっ!?」


 サラは話が通じると思わないが、説明をしようとした時だった。


「……!?」

「おい……ってどうした?」

「サラ?」

「おう?」

 

 サラは反面教師ズに答えず辺りを窺う。


「リオ!ヴィヴィ!」


 サラの声にリオ、ヴィヴィ、その後に新米魔装士がよろよろとしながらやって来る。

 

「あのっ、どうしたんですか?」


 復活した新米盗賊が恐る恐るサラに尋ねる。

 

「あなたはまだ気づきませんか?」

「え?……!!」


 サラの言葉を聞き、新米盗賊は真剣な表情で周囲の様子を探る。


「……!!な、何か近づいていますっ」

「相手は?数は?」

「え。えと……数は三、かな、恐らくウォルーだと……」


 サラの質問に盗賊が自信なさげに答える。

 

「ーーそうですか。それでどうしますか?」


 サラが新米冒険者達を見る。

 彼らはサラが「戦うか?」と聞いているのだとすぐに察した。


「おいっ、方向は!?どっちからくる!?」


 新米戦士Bが緊張しながら新米盗賊に尋ねる。


「それは……」

「遅え!」


 反面教師Aがそう叫ぶと新米盗賊の答えを待たずにダッと駆け出した。


「待ちやがれ!お前だけにいいカッコさせっかよっ!」

「おうっ!」


 その後を残りの反面教師ズが続く。

 サラが怒りの表情になる。

 

「勝手な事を!これは新米冒険者の訓練なのに!……ったく。みんなはいつでも戦える状態で待機よ」

「「「「は、はいっ」」」」



 反面教師ズが現れたウォルーとの戦いを開始した。

 Cランク冒険者だけあり、頭の出来はともかく腕はそれなりだった。

 彼らはウォルーに対して苦戦する事もなくあっという間に斬り伏せた。


「数は合ってた?」


 サラの問いに新米盗賊は首を小さく振る。


「いえ……すみません」

「今の実力がわかりましたね。今はまだそれでいいです。今のがわかるならあなたはもう十分力があるということなんですから」

「は、はいっ」

「それに今回はちょっと特殊ですし」

「特殊、ですか?」

「ぐふ。それで残りはどうする?」


 ヴィヴィがサラ達の会話に割り込んできた。


「え?残り?」


 新米盗賊が見る限り、既に反面教師ズによって全部倒されている。

 だが、今の会話によるとまだいるというのだ。

 新米冒険者達は緊張しながら周囲を警戒するがウォルーの姿は見えない。


「来るよ」


 そうリオが呟いた瞬間、空からウォルーが降ってきた。


「「「「なっ!?」」」」


 ウォルーは木の上を移動して来たのだった。

 新米冒険者達は地上ばかりに注意が向いており、上からの攻撃を全く警戒していなかった。

 襲ってきたウォルーの数は五。

 動揺する新米冒険者達をよそにリサヴィが動いた。

 リオが短剣でウォルーの喉を掻っ切る。

 ヴィヴィがリムーバルバインダーを叩きつける。

 そしてサラが剣で斬り裂く。

 一瞬で三頭のウォルーの命が散った。

 圧倒的不利を悟り、残る二頭は逃走を図った。

 

「おうおう!!」


 出会ってから「おう」としか言わない反面教師Cがその二頭を森の奥へと追いかけて行く。


「バカ!戻りなさい!」


 しかし、反面教師Cはサラの言葉に「おうっ!」と腕を振り上げ「やってやるぜ!」アピールをしただけでウォルーを追いかけるのをやめず森に姿を消した。

 サラは肩をすくめると新米冒険者達に声をかける。


「ウォルーの中には稀にですが今のように木の上を移動するものがいます。ガドタークもそうです。その体格に似合わぬ器用さで木に登ることができます。地上ばかりに注意を向けず上空の警戒も怠らないようにしてください」

「「「「はいっ」」」」

「あと、ウォルーは逃げると見せかけて群れに誘き寄せる行動をするときがあります。深追いをせず安全を第一に行動して下さい」

「「「「はい」」」」


 返事のあと、新米戦士Aが控えめに尋ねる。


「あの、」

「はい?」

「追いかけて行った人は大丈夫なんでしょうか?」

「知りません。自己責任です」


 サラは無表情で言った。


「は、はあ」


 結局、その反面教師Cが戻って来る事はなかった。



 サラ達が話しているところに残りの反面教師ズがサラを呼ぶ声が聞こえた。

 反面教師ズの二人はまだ決めポーズを決めていた。

 サラはどこかのバカを思い出し不快な気分になった。


「見たか?見てたかサラ!俺の強さを!」

「はいはい」


 サラは投げやりに返事する。

 

「俺も俺も!」

「はいはい」


 サラはまたも投げやりに返事する。

 それで彼らは満足したらしい。


「よしっ、サラ!帰っ……ぐあ!?」


 仕留めたと思っていたウォルーがまだ生きており、反面教師Aの隙をついて足に食らいついた。

 サラはその様子を冷静に見つめ、驚いている新米冒険者達に声をかける。


「あの通り、仕留めたと油断していると反撃にあうことがあります。魔物が倒れたからと言って安心せず必ず止めをさして下さい」

「「「「はいっ」」」」


 反面教師Aは悲鳴を上げながらもウォルーに止めを刺した後、噛まれた右足を引き摺りながらサラの元へやって来た。


「おいっ、サラ!なんで助けに来ねえんだ!そんなガキどものお守りより俺を助ける方が先だろ!」


 文句をいう反面教師Aにサラは冷めた目で言った。


「私は彼らの指導員です。そしてあなたもそうだったと思うのですが違いましたか?」

「そ、それはそうだが……」

「勝手に飛び出して勝手に油断して勝手に怪我した者など知りません」

「ふざけんな!じゃあ、この怪我はどうすんだ!?ああん!?」


 自分の不注意で怪我をしながらもデカい態度をとる反面教師Aをサラは無視し、新米冒険者に向き直る。


「このように自分の失敗を他人になすり付ける者になってはいけません」

「なっ、ちょっ……」

「今、神官の冒険者は少ないようです。魔術士もそれほど多くなく、パーティメンバー全員が戦士ばかりということも珍しくありません。その場合、一番気をつけなければならないのは怪我です。もちろん、回復役がいるからといって無謀な行動をしてもいいというわけではありません。魔法も万能ではないのです」

「「「「はいっ」」」」

「おいっ、サラ、怪我を治してくれよ。いいだろう?」


 反面教師Aは痛みに耐えながらもキメ顔をサラに向けるが効果はなかった。


「自分のポーションがあるでしょう」

「バッカ野郎!ただで治せるのに持って来る訳ねえだろ!!」


 サラが反面教師Aを放置してまた新米冒険者達に振り返る。

 「ほんと“優秀な反面教師”だわ」と内心つぶやきながら。


「ポーションはあなた達にはまだ高価でしょう。しかし、それをケチってはいけません。怪我を放っておくと一生治らない怪我となって冒険者人生を短くすることもあるからです」

「お、おいっサラ。ガキ共より俺を治せって言ってんだろうが!」

「……このようにパーティメンバーでもないのに上から目線でものを言うのは最悪です。あなた方も遅かれ早かれパーティを組むことでしょうが、メンバーは慎重に選んで下さい。間違ってもこんな者とパーティを組んではいけません。パーティメンバーに必要なのは実力もそうですが信頼もです」


 そう言った途端、サラは自分の言葉にダメージを受けた。


(あれ?私達のパーティに信頼ってあったかしら?なんか一番遠い気が……)


「おいっサラ!聞こえてんだろ!」


 反面教師Aの声でサラは我に返る。


「……治したら帰ってくださいね」

「な、なにっ?」

「あなたは指導員失格です」


 「それに反面教師は一人いれば十分です。いや、出来れば一人もいらないですが」と心の中で付け加える。


 サラの冷たい視線と怪我の痛みに我慢出来なくなり反面教師Aは頷いた。


「わ、わかったから治療してくれっ」


 サラが治療すると反面教師Aは「後悔するぞ!」と捨て台詞を吐いて去っていった。



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