262話 新米冒険者と反面教師
研修日当日。
サラ達がギルドに向かうと既に新米冒険者達は揃っていた。
今回の研修に参加するのは四人で皆緊張した面持ちだ。
参加者は最初二名だったが、モモにどうしても四名にして欲しいと頼まれ、サラが折れたのだ。
見た感じでは戦士二人、盗賊一人、そして魔装士一人といったころか。
魔装士はその装備から間違いないだろう。
彼らの事はともかく、他に気になる事があった。
その新米冒険者達のそばにあと三人、とても新米冒険者には見えない者達が立っていたのだ。
偶然かとも思ったが、サラを見つけると手を振るだけでなく、モモについてやって来たのだ。
「ぐふ。老けた新米冒険者だな」
ヴィヴィの言葉にその三人が怒り出す。
「ざけんなよ!棺桶持ちが!」
「俺らが新米に見えんのか!あん!?」
「おうっ!?」
「モモ、なんですか。そのガラの悪いのは?」
サラの問いにその冒険者達はヴィヴィの時とはガラリと態度を変える。
「おいおい、そりゃないだろう、サラ」
「俺だ俺。覚えてるだろ?」
「おうっ」
皆、馴れ馴れしいが、サラは彼らに見覚えはない。
再びモモに顔を向ける。
「それで?」
「実は彼らも指導員をやると言い張りまして」
「では立候補するほどやる気のある彼らに任せてはどうですか?」
新米冒険者達は緊張しながらも期待に満ちた表情をしていたが、サラの言葉を聞いてその表情が絶望に変わる。
その言葉に真っ先に反応したのはモモではなく、馴れ馴れしい冒険者達だった。
「おいおいサラ、冗談はよしてくれよ。お前がいないならこんなくだらん役誰が引き受けるかよ!」
「そうだぞ!」
「おうっ!」
彼らはまるで指導員を頼まれて引き受けたかのような口振りでサラに文句を言う。
サラは彼らの態度に呆れる。
「……この人達は何しに来たんですか?」
サラがモモを冷めた目で睨む。
しかし、サラによって鍛えられて神経の図太くなったモモはその程度の威嚇で怯む事はなかった。
笑顔を崩さずとんでもない事を言った。
「彼らは反面教師としてお使いください」
「なるほど」
「ぐふ」
リサヴィの面々はモモの言葉に納得した。
が、彼ら、反面教師ズは怒りを露わにする。
「てめえ!モモ!言ってくれるじゃねえか!」
「その言葉忘れんなよ!」
「おうっ!」
モモは反面教師ズの言葉を聞き流し笑顔で言った。
「あなた方も約束を忘れないでくださいね。役に立つというので参加させたのです。役に立たなかったから所属を解約しますのでお忘れなく」
「はんっ、ガキどもの教育なんて楽勝だ」
「楽勝楽勝」
「おうっ」
「彼らの判断はリサヴィの皆さんにお任せします。不要だと判断した時点で切ってもらって構いませんので」
反面教師ズに睨まれながらもモモは笑顔で言った。
サラはモモの狙いがわかってしまった。
(私達を使ってクズをマルコギルドから排除する気ね)
指導員は消去法でサラで、残りは補佐兼新米冒険者の護衛だ。
サラが適任というよりも他の者はまったくやる気がない、というかサラよりも向いてないのは誰が見ても明らかだ。
ではなんでこんな依頼を受けたのだとリオに文句を言いたいが、言っても無駄だし、もう引き受けてしまった以上は仕方がないと諦めた。
サラは内心ため息をついた。
新米冒険者の自己紹介を終えた。
クラスはサラの予想通りであった。
「私は神官で皆さんとはクラスが違いますのでクラス特有の事は教えられませんから冒険者共通の事を中心に教えます」
「「「「はあ……」」」」
神官のアリスはともかく、リオとヴィヴィは指導できるのではないかと新米冒険者達の目が訴えているような気がしたので補足する。
「……彼らにも疑問があったら尋ねても構いませんが、そういうのは得意ではないのであまり期待しないでください」
「「「「はいっ」」」」
(ああ、素直っていいわね)
気苦労の多いサラはしみじみ思った。
と、そこへ口を挟む者達がいた。
反面教師ズである。
「おいおい、サラ。俺達の事を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
「そうだぜ」
「おうっ」
「そうでしたね。特に戦士でしょうが、わからないことがあったら彼らにも聞いてください」
「「はい」」
新米戦士達は気のせいか返事に元気がなかった。
「それではまずは南の森へ向かいましょう」
南の森に棲息する魔物は比較的弱い。
新米冒険者の彼らには丁度いいとモモから指定された場所だ。
だが、それに反対する者達がいた。
言うまでもなく反面教師ズである。
「おいおい、サラ。俺達の力を馬鹿にしすぎだろ」
「せめてザラの森だろ」
「おうっ」
ガブリッパなる魔術士が放った寄生生物、スクウェイトの一掃はリサヴィが他で依頼をこなしているうちに終了していた。
今も聖水または神官の同行を推奨することは変わらないが、皆が自由に出入りしている。
「ではあなた方だけでどうぞ」
「な……」
「ちょ……」
「おう……」
サラは反面教師ズを放っておいて新米冒険者達に声をかける。
「では行きましょう」
「「「「はいっ」」」」
「いってらっしゃい」
モモも反面教師ズを無視してサラ達に手を振る。
「ちょ、ちょ待てよ!」
「ったく、しょうがねえなぁ」
「おうっ」
リサヴィが新米冒険者強化研修を行う日は明らかにされていなかったが、この日、ギルドにいた者達は今日がその日だと知った。
彼らの何人かはサラにアピールするチャンスだと考え、出発したリサヴィの後をゾロゾロとついて来た。
しかし、それに気づいた反面教師ズが彼らの行手を阻んだ。
「てめえらついてくんじゃねえ!邪魔したってギルドに報告すんぞ!」
「お前らは大人しく待ってろ!」
「おうっ!」
後をついて来た者達は反面教師ズの悪どいやり口を耳にしていた。
下手に逆らって彼らの標的にされてはかなわないと渋々引き下がったのだった。
反面教師ズが役に立ったのはこれが最初で最後だった。
道中、サラにしきりに話しかけて来たのは反面教師ズだ。
それも新米冒険者達を押し除けて、である。
不快な表情をするサラに気づかないようで得意げに話しかけてくる。
「安心しろサラ!この俺がガキ共にきっちり手本を見せてやるぜ!リッキーキラーとの格の違いもなっ」
「サラ!俺だ!俺を見てろ!」
「おうっ、おうっ!」
三人がほぼ同時にサラにキメ顔をした。
彼らはパーティを組んでるわけでもないのにタイミングバッチリだった。
サラはため息をついた。
リオの事を“リッキーキラー”と呼ぶことから彼らはあの決闘を知らない、あるいは直接見ていないのだろうと推測する。
「よし、サラ!一番活躍した奴がお前のパーティに入ってやるからな!忘れんなよ!」
反面教師ズの一人に訳のわからない事を言われ、サラはため息をつく。
「なに言ってるのかわかりませんし、メンバー募集はしていません」
「はははっ!まあ見てろって!」
「絶対俺をパーティに入れたくなるぞ!」
「おうっ!」
なんか三人で勝手に盛り上がり出した。
サラは手に負えないと見て無視することにした。
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