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261話 一石二鳥

 ギルマスの部屋にモモがいた。

 新米冒険者強化研修の募集結果の報告のためだ。


「応募総数は153名でした」

「は?153名だと?」


 ニーバンが驚くのも無理はない。

 その数は現在のマルコギルドに所属しているFランク冒険者の数を軽く超えていたからだ。


「うち無効が149名となり、実質4名となります」

「そうか。それは思ったより少ないな」

「はい。マルコで入会試験を受けた理由はただ近いからという者が多く、合格するとすぐに活動拠点とする街のギルドへ移籍してしまうことも影響しているのでしょう」

「……」

「以前なら更にマルコは他のギルドより受かりやすい、という理由もあったそうですが」

「無能のギルマスか」

「はい、あとクズです、いえ、クズンです」


 モモが補足する。


「しかし無効が異常に多いな」

「内訳をご説明しましょうか?」

「ああ、頼む」

「まず、マルコギルド所属でないものが93名、その時点で弾きました」

「……うむ」

「次にランクですが、B〜Eランクの者が40名、既にパーティに加入している者が14名でした。既にパーティに加入してる者達の中には選ばれたら脱退するなどと書いている者もいましたが当然落としました。以上となります」


 ニーバンは深いため息をついた。


「冒険者には字が読めない者が多いのか?」


 これはモモに聞いたというより、冒険者へ向けた嫌味だ。

 冒険者ギルドの入会試験に筆記試験がある以上、文字が読めないはずがないのだ。


「リサヴィ、の文字しか目に入らなかったものと思われます」

「困ったものだな。長い文章でもあるまいに……」

「冒険者達が話しているのを聞いた者によりますとリサヴィが期待ある新人をパーティメンバーに加えるつもりではないか、と話していたそうです」


 ニーバンがため息をついた。


「……うちの所属でもないパーティに何故そんな便宜を図らなければならんのだ」

「まあ、それはブラックリストに乗るような連中がする話ですから」

「そうなのか?」

「はい。あと、こういうのもあったそうです。つい最近、成績不良を理由にEランクに降格したおっさん冒険者がおりまして毎日のようにやって来ては依頼を受けもせずにもとに戻せと文句を言っていたらしいのですが、あの募集を張り出してからは研修に参加したいとからFランクへ降格させろと言うようになったそうです」

「……そいつはなんで冒険者をやってるんだ?」

「私もわかりません」

「まあ、いい。では四名、いや、一人は既に確定しているんだったな、あと一名はどうやって選ぶつもりだ?」

「その事ですが、なんとかサラさんを説得して四名全員押し込もうかと思っております」

「できるならそれが一番いいが、大丈夫か?」

「お任せください」

「ではよろしく頼む」

「はい。あ、それとですね」

「ん?」

「実はあの募集を見て自分も指導員として参加したいという者がおりまして」

「ほう、それは思ってもいない効果だったな。そうか、そんな冒険者もまだマルコにいたんだな」


 ニーバンはちょっと感動したが、モモが薄笑いをしているのに気づき、もう一つの可能性に思い当たった。

 

「……まさか、その者達はサラ目当てではないのか?」

「それはなんとも言えません」

「……その者達の名は?私が知っている者か?」

「おそらく。ブラックリストの上位ランカーですので」

「……モモ、そう言うことは最初に言ってくれ。私の感動を返してほしいぞ」

「申し訳ありません」

「以上か?」

「はい。それでいかが致しましょうか?」

「何を言ってるんだ。却下に決まっているだろう。それとも君は参加させたいのか?」

「はい」


 ニーバンはまさかモモが「はい」と言うとは思わなかったので一瞬、ぽかんとなった。


「何故だ?百害あって一利なしだろう」

「そうとも限りません」

「なんだと?」

「実はリサヴィの事を調べているうちに面白い事がわかったのです」

「面白い事だと?」

「はい」

「勿体ぶらずに話せ」

「はい。実はリサヴィに対して害あるものが近づくと高確率で死ぬのです」

「……何?」

「例えば、フルモロ。元冒険者だけでなく現役も悪事を働いていましたが、彼らはリサヴィにちょっかいをかけた事で全滅しました。そして魔の領域、は置いておいてザラの森では恐れ多くもリオさんの暗殺が計画されていたそうです」

「なに?」

「しかし、その者達は魔物に殺されて野望は絶たれました」

「……」

「そしてザラの森での再調査を依頼した時、勝手について来たパーティが寄生虫を操るガブリッパなる者によって全員殺されました。私の知り合いの商隊の護衛をしたこともあったのですが、それを元冒険者くずれの集団、三本腕が襲撃しましたが返り討ちにあって全滅しました。三本腕について補足しますとリサヴィは三本腕のうち、実に二本を倒しています」

「そうか……」

「はい。そうそう、私が休暇中にリオさんにちょっかいかけたバカがいましたが賭けに負けて引退させられましたね。冒険者としては死んだと言えます。まあ、そのようなわけでですね、リサヴィにとって好まぬもの達が寄って来ると天罰が下るのです」

「……天罰は言い過ぎではないか?」

「いえ、天罰です」


 モモは断言した。


「ですから、今回、バカな提案をしてきたブラックリスト上位ランカーを希望通り指導員にしてあげようではないですか!それで死んでも彼らが希望したのですから私達は文句を言われる筋合いはありません!ああっ、マルコ所属の新米冒険者のレベルアップをはかると共にクズ冒険者を排除できる!一石二鳥ではないですか!まあ、もし、彼らが生き残るようであればリオさんが必要だと判断したのでしょう!そうなったらブラックリストから除外も検討しなくてはいけないかもしれません!」


 そう言ったモモの目は狂信者のようで見る者をとても不安にさせるものであった。


(……君は気づいているのか?君はリオを神、あるいはそれと同格のものとして見ているのだぞ)


 だが、ニーバンはその事を口にしてはいけないという強迫観念にかられ口にすることはなかった。

 自分を落ち着かせるために一度深呼吸をする。


「……だが、そんな者達を押し付けられてはリサヴィは文句を言うと思うぞ」

「大丈夫です。きっと許してくれますよ。私とサラさんはとても仲がいいですから」


 ニーバンは「嘘つけ」と心の中で叫んだ。

 一見、モモは新米冒険者やギルドのために動いているように見えるが、その実はリオのために動いているように感じた。

 新米冒険者強化研修が何故リオのためになるのかはわからない。

 言葉では上手く言えないがそう感じたのだ。

 モモのリオへのこだわりは好きとかの次元ではなく、もはや崇拝と言っていいだろう。

 彼女の行動理由が個人的なものだとわかっていても結果としてそれがマルコギルドのためになるのは確かだった。


 ニーバンは迷いはしたものの、モモの案、ブラックリスト上位ランカーが指導員として参加する事を認めたのだった。

 新米冒険者の研修場所は比較的安全な南の森になる予定だ。

 あそこでならそう滅多に死ぬはずがない。

 そう思ったからだ。


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