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26話 初めての報酬

 リオ達はヴィヴィの案内で無事森を抜けフィルの街に戻って来た。


「ねえ、どうする?」

「冒険者ギルドに依頼達成の報告に行きましょう」

「ぐふ。まず宿屋を取るべきではないか?」

「そうだね。せっかく街に来てるんだから宿屋に泊まりたいね。先に宿屋でいい?」

「ええ」



「……ねえ、なんかみんな見てない?」


 そういうことに鈍いリオが気づくくらいである。

 当然他の二人も気付いていた。


「ぐふ。サラが美人だからだろう。私ほどではないがな」


 サラは前回の教訓を生かして街に入る前にフードを深く被り顔を隠していたのでヴィヴィの言葉には無理があった。

 サラはすかさず反論する。


「あなたよあなた!」

「ぐふ?それはない。仮面で隠しているからな」

「何を白々しい。その魔装士の姿が目立っているのよ」

「ああ、そう言えば魔装士は珍しいんだったね。ヴィヴィ、大丈夫?」

「ぐふ。私はとても繊細だからな。注目を浴びるのはキツイな」

「どの口が言うのかしら」

「じゃあ早く宿屋を探そう。前回泊まった宿屋にする?場所覚えてないけど」

「覚えてないなら前のところにする意味はあるのですか?」

「僕は覚えてないけどサラは覚えてるかなって思って」

「……まあいいですけど」

「ぐふ。迷うなよ」

「一本道で迷うわけないでしょう!」


 

 宿屋の主人はヴィヴィの姿をみて驚いたものの口に出すことはなかった。

 リオ達は今回も四人部屋を貸し切る事にした。

 荷物を置いてサラがリオに話しかける。


「リオ、まだ夕食には早いですから冒険者ギルドに依頼達成の報告に行きましょう」

「わかった。ヴィヴィはどうする?」

「ぐふ。私は留守番していよう」

「……まあ、その姿でついて来られても目立ちますからね」

「じゃあ、ご飯の時呼びに来るね」

「ぐふ。不要だ。私は携帯食で済ます」

「そうなんだ」


 ヴィヴィは魔装士の装備を外した。

 二人の前で下着姿になる。


「ヴィヴィ!」

「いちいちうるさいな。今着る」


 ヴィヴィはリュックから服を取り出した。

 下着姿よりはマシだが、こちらも薄着だった。


「装備外すなら、目立たないよね?ヴィヴィも一緒に来てもいいんじゃないの?」

「うむ、そうしたいところだが、魔装具は装備しているだけで心身共に疲れるのだ。それに点検も必要だ」

「そうなんだ。大変なんだね」

「うむ。それに私がこの姿を晒すとサラ以上に目立ってしまうからな」

「そうね、商売女と思って男達が寄って来そうね!」


 サラが思いっきり嫌味を言うがヴィヴィは平気な顔をしていた。


「うむ。そういうことにしておこう。それでお前のプライドが保てるならな」


 サラはぐっと拳を握りしめる。


(本当にムカつく女ね!)


「さあ、リオ、遅くならないうちに行きましょう。念のために貴重品は持っていきましょう」

「うん?」

「うむ、当然だな。サラは着替えのパンツを忘れるなよ」

「ん?ぱんつ?」


 リオの頭が不自然に下を向いた。

 サラに殴られたのだと気づく。


「なんで僕殴られたのかな?」

「私のパンツを想像したからです」

「え?してないよ」

「うむ、思い込みで暴力か。最低な神官だな」

「う、うるさいわねっ!さあ、貴重品はちゃんと持ったわね?!」

「うん」

「じゃあ行きましょう」

「うん。じゃあ、ヴィヴィ留守番お願いね」

「うむ、任せておけ。ついでにサラのパンツも見張っておいてやる」


 ヴィヴィは真面目な顔で言った。


「必要ありません!」



「リオ、ちゃんと貴重品は持って来ましたね?」

「うん。でもヴィヴィがいるんだから盗まれることはないんじゃないの?」

「……何故あなたはそんなにヴィヴィを信用してるんですか?」

「え?ヴィヴィは泥棒なの?」

「そうは言ってません。まだどういう人間かわかっていないという事です」

「そうなんだ。でも僕は別にヴィヴィを信用してるわけじゃないよ」

「ああ、何も考えてなかったんですね」

「それもあるけど」

「あるんですか?」

「ヴィヴィに助けてもらわなかったら僕は死んでいたと思うんだ。だったら僕の持ち物はヴィヴィの物と言えなくもないんじゃないかな」

「……」


 サラは思わず言葉に詰まる。


(本当によくわからない子ね。こんな悟ったような事言ったりするなんて)


「でも今回だけですよ。いつまでもそんな考え方を持つのは危険です。あなたの命はあなたのものなのですから」

「わかった」


 本当にわかったのか疑うほどその言葉には感情がこもっていなかった。



 冒険者ギルドに着くとカウンターに向かい、受付嬢に冒険者カードと依頼の薬草を渡す。

 受付嬢はそれらを受け取って奥へ消え、手に報酬の銀貨五枚を持って戻ってきた。

 

「おめでとうございます。無事任務達成です。初めての依頼お疲れ様でした」

「ありがとうございます」

「報酬はどうされますか?」

「私が二枚でリオが三枚でお願いします。私の分は貯金でお願いします。リオはどうしますか?」

「僕が三枚でいいの?」

「ええ、私は余った薬草をもらいますので」

「わかった。僕は手持ちが少ないので直接もらうよ」

「はい、承知しました」


 受付嬢は袋から二枚抜き、三枚をリオに渡した。リオは財布に入れた。


「次に依頼達成ポイントですが、今回十ポイントになりますがどうしますか?」


 依頼達成ポイントとはその名の通り依頼達成時にもらえるもので、ポイントを貯めることで次のランクへ上がることが出来る。

 このポイントは参加した冒険者に均等に配られるのではなく、冒険者達で話し合って振り分けを行うことになる。ギルドでは誰がどんな活躍をしたかわからないからである。当然、揉める事も少なくないため、パーティ独自でルールを決めていたりする。冒険者同士での話し合いでまとまらない場合はギルドが仲裁に入ることになるが、ギルドが決定したポイント振り分けに異論があっても変更することは出来ない。

 当然のことながら難易度の高い依頼ほど報酬と共にポイントも高くなる。


「半分ずつでいいですね?」


 サラが確認を取るとリオはうん、と頷いた。


「五ポイントずつでお願いします」

「かしこまりました」


 リオとサラは共に五ポイントを得た。

 ちなみに次のランクEへ上がるためには最低百ポイント必要なのであと九十五ポイント必要という事になる。

 最低、と書いたのは百ポイント貯めても自動でランクアップするものではなく、冒険者が自ら申し出る必要があるからだ。

 またランクアップは昇格するランクによっては面談、実技試験があり、これらに合格する必要がある。

 システム上、金銭等で依頼ポイントの売買が出来てしまうため、そのレベルにあった能力をもっているか確認するのだ。

 ……それでも抜け道が存在してランク不相応の者が出たりするのだが。



 受付嬢にべルフィ達のことを聞いたが新しい情報は入っていなかった。

 街道の復旧もしていなかった。


「仕方ないですね。歩いて行くことも考えてみましょうか」

「そうだね。ヴィヴィもいるから迷うことはないだろうし」

「……」

「どうしたの?」

「いえ、なんでもないです」

「そう?」

「ええ。じゃあ、宿屋に戻りましょう」

「うん」


 二人が冒険者ギルドを出ようとした時だった。


「すみません、そこの神官様!」


 サラは立ち止まり振り返ると先ほどカウンターにいた者とは別の受付嬢だった。


「私ですか?」

「はい、ちょっとお時間よろしいですか?」


 リオが気づかず出て行こうとしていたのでサラは慌ててその首根っこを掴む。

 リオが「うぐっ」と変な声を出す。


「サラ?」

「ちょっと待ってくださいーー何かご用ですか?」

「はい。実は神官様に依頼したい案件があるんです」

「神官に、ですか」


 サラはリオの首根っこを掴んだまま受付嬢を見る。


「サラ、苦しいよ」

「あ、ごめんなさい」


 サラはリオを解放した。

 

「それでどのような依頼でしょうか?」

「立ち話もなんですし、応接室でお話しさせてください」

「リオ、いいですか?」

「うん」

「ではお話を伺います」

「ありがとうございます!」


 サラは周囲の視線が気になった。

 それはいつも感じる視線ではなく、依頼内容を知っていて同情しているように思えた。

 サラが他の受付嬢に目を向けるとさっと視線を逸らされた。


(……どうやらロクな依頼じゃないようね)


 サラはブレイクがいないかと辺りを見回したが見当たらなかった。

 受付嬢はサラの行動を察し、


「大丈夫です。ブレイクさんはいません。今頃は街を出ているでしょう」

「それ、何が大丈夫なんですか?」


 受付嬢は何も答えなかった。


(本当に嫌な予感しかしないわね)


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