258話 カリサラ(仮)
カリスはパーティメンバーを集めていた。
リオからサラを“救出した”後の事を考えてである。
金色のガルザヘッサをカリスとサラの二人で倒したという妄想話を信じて仲間に加わった者がいた。
どんな噂であっても一定数は信じる者がいるのであった。
また、カリスのかつての強さを知っていたことが災い?してパーティを組みたいとやって来た者もいた。
カリスは今まさにその男と会っていた。
「よく来てくれたな!」
カリスはかつての冒険者仲間である魔術士に笑顔を向ける。
魔術士が笑顔を返しながら言った。
「それにしてもお前がウィンドを抜けるとは思わなかったぞ」
「まあ、話せば長くなるが簡単に言えば見切りをつけたんだ。奴らは金色のガルザヘッサを倒して腑抜けになりやがった。それも自分達は何もしてないのにな!」
「……あの噂は本当なのか?」
カリスは頷くと魔術士に妄想話を話し始める。
金色のガルザヘッサを討ち取ったのは自分とサラである事。
にも拘らず、ベルフィ達が手柄を横取りしたのだと。
魔術士はその話を聞き終えて唸った。
彼はカリスだけでなく、ウィンドのメンバーの人柄をよく知っており、彼らがそんな事をするとは思えなかったのだ。
しかもベルフィは名誉のために金色のガルザヘッサを追っていたわけではないことも知っていたのでそんな事をする理由が全くわからない。
更に疑問はあった。
サラの事である。
「サラってのはナナルの弟子の鉄拳制裁のサラなんだよな?」
「そうだ。そして俺はそのサラに勇者に選ばれたんだ!」
そう言ったカリスの顔は誇らしげだった。
「じゃあ、なんでサラはお前と一緒にいないんだ?」
カリスが表情を険しくする。
「リオの野郎と棺桶持ちが連れ去ったんだ!俺を崖から突き落としてな!」
「おいおい、そりゃ穏やかじゃないぞ!ってか、お前よく無事だったな」
「ああ、落ちる瞬間サラが俺に魔法をかけてくれたんだ!」
カリスがその時の様子を思い出しているような顔をするが、そんな事実はない。
「何?そりゃどんな魔法だ?」
彼は魔術士であるが、神官の魔法にも興味を持っていたのでそのサラが使ったという魔法について尋ねた。
しかし、
「愛だ!」
「……は?」
魔術士はカリスの意味不明な言葉に首を傾げるが、カリスは気にしない。
「ともかくだ!サラは俺の助けを待ってるんだ!一刻も早く助けに行かんとな!そして俺達でパーティを結成するんだ!名前だってもう考えてある。聞きたいか?」
「え?いや、別に……」
「俺とサラの名からとってカリサラだ!」
「……そうか」
魔術士の頭の中に「カリスの話はなんかおかしいぞ!」と警告する声が聞こえる。
魔術士はその声を信じ、カリスのパーティへの加入に慎重になる。
「ところでそのカリサラ?への加入だが……」
「おうっ、悪いなっ。パーティ結成はサラを無事取り返してからと決めてるんだ」
「そうか。いや、それでいい」
「悪いな」
「気にするな」
「その方が俺も都合がいい」と魔術士は心の中で付け加える。
そこで魔術士は改めてカリスの話の疑問を口にする。
「なあ、さっきの件だがギルドに報告したのか?」
「どの件だ?」
「お前をリオだったか、が崖に突き落とした事に決まってるだろ」
「ダメだダメだ」
カリスが首を横に振る。
「そりゃどういう意味だ?」
「ベルフィ達もグルなんだ。あいつら口裏合わせやがってよ、誰も信じてくれねえんだ!」
「なんでベルフィがリオ?の協力をするんだ?」
「逆恨みだ!」
「逆恨み?」
「おうっ。あいつはサラが勇者に俺を選んだ事に納得してなかったんだ!見下げた奴だぜ!」
「そ、そうか。ところでサラもお前が崖から突き落とされたとこ見てんだろ?もうお前は死んでると思ってんじゃないのか?」
「馬鹿野郎!サラが勇者と認めた男だぜ!生きてると信じてるに決まってんだろうが!」
「そ、そうか」
「おうっ。それにな、サラには俺が無事である事を知らせる手紙を送ってんだ」
「ほう。それで返事は?」
「まだだ。リオ達の監視が厳しいんだろう。あの自称勇者が!」
リオは自分の事を勇者などと言った事はないが、カリスの妄想のなかではそう宣言しているようだった。
サラから返事がないと聞き、魔術士の疑念は更に深まった。
彼らのいる部屋にカリスの妄想話を信じて仲間になった戦士と盗賊がやってきた。
「おい、カリス、サラの居場所がわかったぞ!」
「なに!?本当か!どこだ!?どこにいる!?」
「慌てんなって。どうやらマルコの街にいるようだぞ」
「マルコ……レリティア王国か!」
「ああ。マルコの街近くに出現した魔の領域で大活躍したらしい」
「流石だな!俺を勇者と選んだだけのことはあるな!」
カリスはまるで自分の事のように喜ぶ。
戦士が見知らぬ魔術士がいることに気づいて尋ねる。
「新しい仲間か?」
「おうっ」
カリスが彼らに魔術士を紹介した。
「よしっ、これでメンバーは揃ったな!」
カリスが一同を見回し、満足げな笑みを浮かべる。
「マルコへ行くぞ!」
「それはいいんだが、今回の調査で予想外に金がかかってな。一部立て替えてやったから返してくれよ」
「安心しろ!サラと合流できたら倍にして払ってやるぜ!」
「おいおい、そんな簡単に約束して大丈夫か?」
魔術士がカリスに心配そうな顔を向けるが、カリスは全く気にしなかった。
「おう!少なくともサラがもらった金色のガルザヘッサの懸賞金の半分は俺の分だ。俺に会えれば喜んで全額だって差し出すぜ!」
「俺が貸した金も倍になるのか?」
戦士がカリスに尋ねるとカリスは大きく頷く。
「任せとけっ!」
戦士にカリスは自信満々に答えたが、その一連のやりとりで魔術士は更に不安を覚えた。
「おい、カリス。お前、金借りてるのか?結構蓄えてたんじゃないのか?」
「サラを探すのに使っちまったぜ」
カリスは何でもないように言った。
「てことはお前、今、金持ってないのか?」
「おうっ。だからマルコまで頼むな!」
そう言ってカリスは魔術士の肩をポンと叩いた。
魔術士は非常に嫌な予感がしたが、「やっぱりやめとくわ」などと言える雰囲気ではないので取り敢えずマルコまでは付き合うことにするのだった。




