257話 ニーバンとの会談
リサヴィがマルコギルドに入ると直ぐさまモモがやって来た。
そして大事な話があるといい、依頼完了処理を終えるとギルマスの部屋に案内された。
無能のギルマスことゴンダスに代わってギルドマスターになったニーバンは彼らを立って自ら出迎えた。
それはDランク冒険者への対応としてはとても丁寧であり、それだけ重要な話があると言う事だろう。
「よく来てくれた。さあ、まずはかけてくれ」
「では失礼します」
ソファーにサラ、リオ、アリスの順に座る。三人用だった事もあるが、ヴィヴィは魔装士の装備が邪魔で三人用のソファーにはそのままでは座れない。
「ヴィヴィだったか。君もそちらに座りたまえ」
ギルマスが一人用のソファーを指差すが、
「ぐふ。不要だ」
ヴィヴィは装備を外すのが面倒だからか席には座らなかった。
ギルマスも無理に勧めようとしなかった。
「わかった。いつでも自由に座ってくれ」
「ぐふ」
サラがリサヴィを代表して今回の用件を尋ねる。
「それで今日はどんな御用でしょうか」
そう言ったもののサラには予想がついていた。
マルコ所属にならないかという話か、Cランクアップのことだろう。
リサヴィの面々はギルマスとは初対面だったが、誰もが好意的ではなかった。
無能のギルマス補正がかかり、ニーバンの好感度は本人とは関係なくマイナススタートだったのだ。
ニーバンは彼らの非好意的な視線を受けながらも気づかないふりをして話を始める。
「では早速だが本題にはいろう」
そう言ってニーバンがリサヴィの面々を見回してから言った。
「君達はまだどのギルドにも所属していないそうだが、このマルコギルドに所属する気はないか?」
サラがリオの肘をつつく。
リオが「ああ」と小さな声を上げた後で答えた。
「ないよ」
と言った。
「と言うことですので申し訳ありませんがお断りします」
サラが補足する。
予想されていたこととはいえ、ニーバンはショックを受けていた。
「そ、そうか。他に所属するギルドを決めているということはあるのか?」
「ないよ」
リオが即答する。
それを聞いてニーバンはひとまずほっとした。
「話は以上でしょうか?」
「いや、もう一つある」
「なんでしょうか?」
「君達はCランク昇格を断ったと聞いているが本当か?」
「はい」
「考えて直してみる気はないか?」
「ないよ」
リオにあっさり拒否されたが、それは想定内だ。
「そうか。しかしだね、ギルドには低ランクに留まる者には理由を聞くことになっているのだ。Cランクに上がりたくない理由を教えてくれないか?正当な理由がないと強制的に試験を受けさせることにな……いやっ、もちろん、そんな事は私もしたくないと思っているのだ」
ニーバンは話を途中で軌道修正する事を余儀なくされた。
何故なら強制的、という言葉を聞いて彼らの雰囲気が明らかに変わったからだ。
それも悪い方に。
その言葉が無能のギルマスが行った強制依頼を思い出させてしまったのだと悟るが、その事を口に出せばもっと雰囲気が悪くなることは明らかであったので触れないでおく。
「どうだろう?」
「じゃあ、受けるよ」
リオがあっさり受け入れたことに驚いたのはギルマスだけではなかった。
だが、リオが次に発した言葉に更に驚かされることになった。
「でも試験に落ちたら上がれないよね」
「なに……?」
その言葉でニーバンはリオが落ちる前提で試験を受けるつもりだと気づいた。
意図的に試験に落ちたと判断されれば不誠実な対応から現状ランクからの降格処分もあり得る。
だが、リオにとって降格は痛くも痒くもないものだった。
返って堂々とリッキー退治が出来る様になると考えているかもしれない。
ギルマスは慌てた。
「い、いやいや。それは心配ない。君達の実力なら試験するまでもないだろう。受けると言ってくれさえすれば試験は免除する」
無能のギルマスの規則無視に怒りを覚えていると思い、ニーバンは補足する。
「断っておくが、これは不正ではないぞ。十分実績を残している者は試験を免除することができるとギルド規則にも記載されていることだ」
「そうなんだ」
その言葉を聞いてリオにしては珍しく表情を変えた。
もちろん不機嫌な表情にだ。
その顔を見て皆確信した。
やはりリオはわざと落ちる気だったのだと。
通常、降格は不名誉な事だが、リオは全く気にしない様だった。
(こんな脅しは聞いたことないぞ!リオは一体何を考えているんだ!?もしかしてこれはいい条件を引き出したいための交渉を……いや違う!彼は本気だ!)
長年冒険者の相手をしてきた経験と直感がリオは本気だと告げる。
ニーバンは説得相手を切り替えることにした。
モモの情報ではヴィヴィとアリスはリオの言うことに従うらしい。
であればリオが説得できればヴィヴィとアリスも説得できたことになる。
リオを説得できそうな相手、サラを交渉相手に選んだ。
「サラ、君はどうだ?Cランクに上がれば君を勧誘する者達もぐっと減ると思うのだが」
「そうですね」
Cランクに上がれば少なくともDランク以下の冒険者が上から目線で勧誘してくる事は無くなるだろう。
「しかし、パーティで行動するので冒険者ランクは同じが望ましいですね」
「つまり、君も上がりたくないと?」
「リオがそれを望むのなら」
「私もリオさんに従いますっ」
「そうか。ヴィヴィもかね?」
「ぐふ」
ニーバンは早々にサラを説得するのを諦めた。
本当は降格はナナル様の名を傷つける事になるとか遠回しに脅すことを考えてもいたが、さっきの反応からそれは逆効果になると思い最後の手段を取ることにした。
「君達がCランクになりたくないのはリッキー退治をしたいから、と話を聞いているのだが本当かね?」
「そうだね」
リオが頷いた。
「それなんだが、リッキー退治だけはランクに関係なく受領できるように本部に掛け合ってもいい」
「え?そんな事できるんですか?」
サラの質問にニーバンが頷く。
「前例がないわけではない。リッキー退治は人気がないから恐らく許可が下りるだろう。ただし、本来のランクの依頼も受けてもらう必要はもちろんあるがそれで……」
「わかった」
「……え?」
ニーバンは聞き間違いかと思った。
それはサラも同じだったようだ。
「リオ、それでいいのですか?」
「いいよ」
「ギルマス、今の話は本当に受け入れられるのですか?」
サラの問いかけで呆けていたニーバンは我にかえる。
「あ、ああ。ただ、念のため言っておくが報酬は変わらない」
「いいよ」
「わかった。ではリッキー退治の件が了承されたら連絡する。昇格試験の件はその連絡が来たら改めてと言う事でどうだろうか?」
「わかりました」
こうしてギルマスとの面談は終わった。
ギルマスは拍子抜けした。
モモからリッキー退治さえ保障すれば受け入れるかもしれない、とは言われていたが信じていなかったのだ。
この特別待遇をつけたところでギルド側は全く損しないし、冒険者からも文句が出るはずがない。
それどころかギルドとしては不人気依頼を進んで受けてくれるので願ったりであるはずだった。
この件は、本部で検討され、一部修正されて了承された。
修正部分は「ただし、低ランク冒険者の受付を優先する事」である。
実際問題として何の影響もない修正であった。
リサヴィの面々はCランク試験を通常通り受け、全員合格し、Cランクになった。
再度、パーティ所属をマルコにしないか、と誘われたが断った。
未だリサヴィは所属ギルド未定のままであった。




