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255話 マルコ緊急会議

一部追記しました。

 その日、マルコギルドでギルド職員による緊急会議が行われていた。

 議題はリサヴィのマルコ引き留めについてであった。

 モモが現状について発言する。


「サラさんへの強引な勧誘が益々増えているようです。ギルド内での勧誘は注意していますが、街の中となると流石に注意出来ません」


 それを皮切りに他の職員も次々と発言する。


「宿屋を出た途端、冒険者達に囲まれた、という話も聞いています」

「私が聞いた話では、教会の手伝いをしていたら冒険者達が押しかけて来たとか、わざと怪我してやって来たりして教会の手伝いを中止せざるを得なくなったとのことです」

「私も聞きました。中には加減を間違えてメンバーを殺した者もいたそうです」

「ちなみに“ソレら”はマルコ所属、あるいはマルコ所属を解除された冒険者が多かったようです」


 モモが不機嫌な顔で補足する。

 ギルマスのニーバンは頭が痛くなり、額を押さえる。


「これらの事でサラさんのマルコへの印象が悪いのは確かです。そして、あの演劇のチケットをリサヴィに渡した事で、サラさんの印象を更に悪くし、ヴィヴィさんの印象も悪くしました」


 モモの視線を受け、チケットを渡したギルド職員が「ひっ」と悲鳴を上げて顔を背ける。

 

「……まあ、リオさんはなんとも思っていない様なので最悪の事態は避けられたようですが」


 モモの口振りにニーバンをはじめ、ギルド職員が首を傾げる。


「モモ、リサヴィの実質的なリーダーはサラではないのか?」

「違います」


 ニーバンの問いにモモは即答する。

 ただ、言った後で自分でも説明不足と思ったのか補足する。


「確かに普段はサラさんが行動を決定している様に見えますが、それはあくまでもリオさんがどうでもいいと思っていることだから口を出さないだけなのです。リオさんは自分に興味がない事には本当に無関心なのです。逆に自分が興味ある事には誰の意見も聞きません。そのいい例がリッキー退治です」


 モモの意見に最初疑問を持っていた者達もリッキー退治の事を聞いた途端、「ああ」と納得した。

 リオ以外のリサヴィのメンバーはリッキー退治を受けたいようには見えないが、リオが依頼を受ける事を決定すると嫌そうな顔をしながらも従うのだ。


「極論すれば、サラさんやヴィヴィさんを怒らせてもリオさんさえ怒らせなければOKなのです」


 サラとヴィヴィが聞けば激怒しそうな事をモモはどこか誇らしげに言い放った。


「モモ、リサヴィにはもう一人いますよね。アリスさんはいいんですか?」

「アリスさんは大丈夫です。彼女はリオさんラブですから」

「そ、そうですか」


「リオさんラブ」とモモに真面目な顔で言われ、聞いた方が顔を赤くする。


「演劇の件ですが、サラさん達には申し訳ないですが、現在のマルコにとってあの公演で得られる利益はバカにできません」

「ああ、そうだな。だが、あの最後の言葉は正直何とかして欲しいと思っている」


 ニーバンの言うあの言葉とは「無能のギルマスめ!」である。

 自分の事ではないとわかってはいるが、ギルマスとして面白くないのは事実である。

 そう思っているのはニーバンに限らず、全ギルマスが思うところであった。


「せめて“無能のゴンタ”に出来なかったのか?」

「私に言われましても」

「それはそうなんだが」

「それにあそこまで叫ぶのが流行ってしまった今、変更は難しいでしょう」

「それについてなのだが、最初に一緒に叫んだのはうちの職員だという噂があるのだがな」


 ニーバンの視線をモモはすっと逸らす。


「モモ、どうなんだ?」

「記憶にございません」

「……」

「今は過去のことよりこれからの事です。そうは思いませんか?チケットをリサヴィに渡した……」

「そ、そう思いますっ!はいっ!」

「……まあいい。確かに今更変更したら、ギルドの圧力だと言われるからな」


 ゴンダスの不正はあの劇に関係なく、あっという間に世界中へ広がり、他のギルドでもやってるんじゃないのか、との不信感が募っている。

 冒険者ギルド全体への風当たりが強い状態なのだ。


「では、続けましょう。リサヴィのマルコギルドへの貢献度をまとめてみました。依頼登録料、依頼達成報酬、素材売却益、そして“鉄拳制裁”公演による収入を含めますとマルコ収入の二十パーセントに及びます」


 リサヴィが主に受けているリッキー退治は、依頼ランクがEかFなのでキルドに入る依頼登録料や成功報酬は微々たるものであり、魔物の素材も大した利益にはならない、ゆえにギルドへの貢献は僅かのはずであった。

 しかし、実際にリサヴィがギルドに納める素材は、退治対象のリッキーだけでなく、それ以外の魔物の素材も必ずと言っていいほど含まれていた。

 その中にはカドダーク・ロードやガル・ウォルーなど珍しいものが含まれていることも少なくなかった。

 リッキー退治の依頼のついでに魔物退治しているのか、魔物退治のついでにリッキー退治の依頼をしているのかわからないほどであった。

 リサヴィが納めた珍しい魔物のプリミティブを求める依頼がくれば、冒険者に依頼を出すことなく直接収めることが出来、報酬まるごとギルドの利益になる。

 リサヴィは実際には何倍もの依頼を受けている事になるのだった。

 更に臨時収入も付け加えるなら、ヴィヴィへの魔装具の販売でも思わぬ利益を得た。

 モモは値引き交渉を見込んで予め価格を相当高めに設定していたのだが、ヴィヴィはそのままの価格で購入したのだ。

 このとき、無断で高額の魔装具を購入したことにニーバンは激怒したのだが、文句を言う前に売れて大きな利益が出たので、そのタイミングを逸したのだった。


「……そこまでか」

「はい」


 ニーバンが深くため息をつく。


「最近ではサラさん個人ではなく、パーティの、リサヴィの実力を認める者も増え始めています。その一つがリトルフラワーです」


 その名を聞いて少なからず首を捻る者がいるのに気づき、ニーバンが、


「二つ名のサキュバスの方が有名だな」


 と補足すると、「ああ」という声があちこちで聞こえた。


「彼女達とはガムリム退治の依頼を共同で受けております」


 サキュバス、ガムリムとあまり良くない名を聞き、顔を顰めていた職員もいたが、次のモモの言葉を聞いて、そんな事はどこかへ吹っ飛んだ。


「その際、リサヴィはリトルフラワーと共にガブリムロード二体を含む四十体以上を殲滅しています」

 

 ギルド職員から驚きの声が上がる。

 

「ガブリム四十体だと!?」

「サキュバス、じゃなくてリトルフラワーは確か四名でしたね。リサヴィも四名ですから八名でそれだけのガブリムを殲滅したということですか?」

「正確には七名です。この時、リトルフラワーの魔術士は参加していませんでしたので」

「ちょっと待ってください!そ、そうすると魔術士なしでそれだけのガブリムを倒したと言うのですか?」

「はい。もっと言えば、リサヴィのアリスさんは回復役、ヴィヴィさんは守りを主体としているようですから、彼らを除くと単純計算で五人で四十体倒した計算になります」

「それをBランクとDランクの二パーティで全滅させたというのか。信じられないな」


 ニーバンの意見に皆が頷く。


「それだけでも驚きだが、その討伐依頼のランクはいくつなんだ?……いや、Dランクのリサヴィが受ける事が出来たと言う事は高くてもCランクなのだろうが」

「しかし、二パーティでと言うのは厳しいだろう!一歩間違えていれば冒険者達のほうが全滅してもおかしくない。いや、これが普通のパーティなら間違いなく冒険者側が全滅していたんじゃないか!?」


 その意見にモモが頷く。


「でしょうね。この依頼の元々のランクはC。ガムリムの数は多くて十体程度が棲む巣の殲滅との事でした」

「……何?」

「そんなバカな!!……その街も偵察隊が素人だったのか!?」


 発言者を含め、多数のギルド職員が嫌な事を思い出したと顔を顰める。

 ちなみに無能のギルマスによりマルコ所属のベテランの偵察隊は全員解雇されたが、呼び戻したりして再編成され、今はまともに機能している。

 モモが首を横に振る。


「ガブリムの異常発生は陰謀だったようです」

「誰がそんなバカな事を!」

「邪教を信仰する者達の仕業だったようですが詳しい事はわかっておりません」

「邪教だと?」

「はい。何でもメイデス神の神官の姿があったとか。その証拠に巣の確認に向かった調査隊が複数のアンデッドと交戦したらしいです。おそらくですが、リサヴィ達のおこぼれでももらいに行ったところに仲間の様子を見に来た邪教徒と鉢合わせして殺されたのでしょう」

「そうか」

「ちなみにそのアンデッド達が所持していた冒険者カードから元マルコ所属のパーティもいたようです」

「……そ、そうか」


 ニーバンが苦い顔をしたあとでモモに素朴な質問をする。


「モモ、私はその事を今初めて聞いた。君はそれをどうやって知ったんだね?」

「私はリサヴィの依頼をすべて確認していましてその……」

「ストー……なんでもないです!」


 モモにジロリと睨まれそのギルド職員は顔を伏せた。


「モモ、続けてくれ」


 ニーバンは何事もなかったように振るまう。

 モモが続ける。


「リサヴィはリトルフラワーの他にもBランクパーティの知り合いがいます。その名はウィンド。もともとリオさんはウィンドと行動を共にしていたようです。それで色々あってサラさんとヴィヴィさんでパーティ、リサヴィを結成したようです。リサヴィとは三人の頭文字からとったようですね」

「何故、ウィンドと別行動をとったんだ?」


 あるギルド職員がモモに質問する。


「一つは共通の目的であった金色のガルザヘッサ討伐が終わった事ですね。そしてもう一つがストーカーから逃れるためです」

「ストーカー?」


 別のギルド職員が疑問を口にする。


「はい。実はウィンドにはカリス、というサラさんのストーカーがいたのです。どうも彼に付き纏われてサラさんは相当困っていたようなんです。なんでもサラさんが自分を勇者に選んだとかほら吹いてたみたいですね。あと金色のガルザヘッサ討伐のほら話を聞いたことありませんか?あれを流したのがカリスです」


 モモがカリスにだけ“さん”付けをしなかった事に皆、気づいたがその指摘をする者はいなかった。

 ニーバンはごほん、と大きめの咳払いをし、


「もういい。本題に入ろう。リサヴィはマルコギルドの貴重な収益源と言っていい。マルコになくてはならない存在である事を皆改めて知った事と思う」


 皆が頷く。


「そこでだ、リサヴィをマルコ所属にできればベストだが、最悪でもマルコをホームとして活動してもらいたい。そのための良いアイデアはあるか?実は先のギルド総会でリサヴィの事が話題に上がってな、どこのギルドもリサヴィを狙っている事がわかったため急いで対策を練る必要がある」


 ニーバンの言葉を聞き、職員達に動揺が走る。


「フルモロ支部などはフルモロ大迷宮の探索をさせたがっていたが冗談ではない。絶対阻止しなければならない!」


 モモが考えながら口を開いた。


「リサヴィをマルコに留める方法は難しくなっています。ひとつはリサヴィが好んでリッキー退治をしていることに気づいてどの支部もリッキー退治の移譲を断わるようになって来た事です。そのためストックが少なくなっています。それとマルコにはまだクズが多すぎます」

「モモ、言い方」

「失礼しました。先にも述べましたが役に立たない冒険者がこぞってサラさんにちょっかいをかけてくるからです。これではいつまで経ってもリサヴィの皆さんに良い印象を与える事は出来ません」


 モモは言い直し、多少マイルドになった気もするがあまり変わらない。


「また、以前にサラさんはベルダに行きたいような事を言っていました。恐らく六英雄の一人のユーフィ様に会いたいのだと思います」

「それではもう早かれ遅かれマルコから出て行ってしまうと言うことか?」

「それは止められないでしょう」


 リサヴィ担当?のモモからの言葉でギルド職員は絶望した表情をする。

 

「ーーですが、手はあります」

「それはなんだ?」

「今はまだ検討中の段階ですので詳細はいえません」


 モモが意味ありげな笑みを浮かべる。


「わかった。今は聞くまい。それで他にはないのか?」


「あります。リサヴィにすり寄るクズ……役に立たない冒険者対策をすべきかと」

「具体的には何をするのだ?」

「リサヴィにランクアップしていただきます。クズ冒険者からの強引な勧誘はリサヴィの方達のランクが低すぎることが原因と考えますので」


 またもモモはクズという言葉を使ったがギルマスはもう指摘しなかった。


「少なくともCランクに上がりさえすれば、Cランク以下の冒険者からの強引な勧誘は激減するでしょう」


 そこでモモはニヤリとして続ける。


「そしてリサヴィがCランクに上がれば他の冒険者も必死になってランクを上げようと依頼を受けるようになるでしょう」

「……なるほど。リサヴィを奮発剤に使おうというのか!」

「それはいい考えだな!」

「確かに実力はどう考えても下のくせにランクが上だってだけでサラさん達に上から目線で話してくる者達が多いからな。彼らはその唯一誇れるものが無くなるんだ。必死にならざるを得ないよな」


 ギルド職員の中から次々と賛同する声が上がる。


「それが上手くいけば依頼達成数も増えるな」

「はい、失敗しても降格させるだけです」

「……」


 ニーバンはモモの本当の狙いはそっちじゃないのか、と思ったが口にしたのは別の事だ。


「それで彼らはあとどのくらいでCランクに上がるのだ?」

「はい、もう少しです。ガブリム退治の報酬アップが認められて依頼ポイントが大幅に追加されました。遅くとも今月中にはポイントが貯まるのではないかと」

「そうか」

「問題は彼らが、いえ、リオさんがランクアップする気があるかです」

「普通なら喜んでランクアップするものなのだがな」

「はい。それでそれについてはギルマスにご相談があります」

「なんだ?」

「それは依頼ポイントが溜まったところでご相談させてください」

「わかった」


 その後、色々な意見が出たがこれだ、というものはなかった。

 ニーバンが全員を見回してから言った。


「今回の会議はこれまでとするが、リサヴィを引き留めるいいアイデアがあればいつでも知らせてくれ」


「はい」と皆が返事する。


「くれぐれもリサヴィの機嫌を損ねないように引き続き頑張って貰いたい。当然だが、他の冒険者から“贔屓していると思われないように”注意するように」


 ニーバンはリサヴィを「贔屓してはならない」ではなく、「思われてはならない」といった。

 皆、その意味を理解していた。


「はい!!」と皆が返事をして緊急会議は終了した。


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