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254話 神官交換

「パーティで相談してな、サラ、しばらくお前とコイツを交換することにした」


 酒場で食事をしていると(ヴィヴィはいるだけ)突然、やって来た冒険者達がそんな事を言った。

 リサヴィの面々は会話をやめ、不思議そうな表情で彼らを見る。

 サラと交換すると言われた男神官は不機嫌さを隠さない。


「言っとくがな、あくまでも一時的にだからな!お試し期間中でもお前らが無能と判断した時点で俺はパーティ抜けるからな。わかったな!」


「ぐふ。今度はそう来たか」と誰かが呟くのがサラに聞こえた。


「よしっサラ!飯食ったら早速ミーティングをするぞ!」


 そのパーティのリーダーがサラを急かせる。

 サラは頭痛に頭を押さえる。


「……すみませんが、何を言ってるのかサッパリわからないのですが」


 今度はリーダーが不思議そうな顔で戦士の格好をしたサラとアリスを見比べる。


「お前が魔の領域で活躍した神官のサラだよな?そっちは……偽物か?」

「だ、誰が偽物ですかっ!」


 怒りを露わにするアリスをヴィヴィが「ぐふぐふ」言いながら抑える。

 

「確かに私はサラですが、それが何か?」


 男神官がサラを睨みながらイライラしながら説明する。


「だから、一時的に俺とお前がパーティを交換するって話だ!その程度のことも理解できないのか!」


 まるで決定事項のように告げられた身勝手な話にサラは精神力をゴッソリ持っていかれる。

 

(最近、魔物と戦うより冒険者との会話の方が疲れるわ)


「……私達は同意してませんが」

「気にするな。あくまでもお試しだ。お前らもCランク神官の腕を直接見れるんだ。損じゃないだろう」


 何故か上から目線で話をするパーティのリーダー。


「必要ありません」

「どうだ、リッキーキラー」


 リーダーはサラの言葉を聞き流しリオの意見を聞こうとするが、男神官の方が口を開くのが早かった。


「言っとくけどな!俺がお前を勇者だと認める事はないからな!」


 リーダーと男神官の言葉にリオは無反応で食事を続ける。

 その態度に腹を立てた大柄の戦士がリオの皿を乱暴にテーブルから床へ振り落とす。


「話を聞きやがれ!リッキーキラー!」

「……」


 リオがゆっくりと大柄の戦士を見た。

 

「なんだ、文句でもあるのかっ?」


 リオが何か言う前にヴィヴィが口を開いた。


「ぐふ。お前らが馬鹿なのだけはわかった。あと料理は弁償しろ」


 リサヴィみんなが思った事をヴィヴィが代表して口にする。

 その言葉はサラが言いたかった言葉だが、ナナルの弟子として名が広まっている以上、下手な事をしてナナルに迷惑をかけてはまずいと我慢していたので、この時ばかりは「よく言ったわ!」と心の中でヴィヴィに拍手を送った。

 

 当然、馬鹿と言われたパーティは激怒する。

 

「この棺桶持ちが生意気な事いいやがって!表に出ろ!」


 気が短い大柄の戦士がヴィヴィを酒場の外へ無理やり引っ張って行く。

 壁に立てかけていたリムーバルバインダーがヴィヴィの後をフラフラとついていく。

 

「無茶はしないでくださいよ」 

「わかってる。自分がどんなに矮小な存在なのかわからせてやるだけだ!」


 サラはヴィヴィに言ったつもりだったが、返事してきたのはヴィヴィではなく、大柄の戦士の方だった。

 更にサラにキメ顔までしてきたが効果は全くなかった。

 外で野次馬達が賭けを始めたようでその騒ぎが酒場の中にまで聞こえてくる。

 サラはため息をつく。

 

「あなた方が何をしたいのか知りませんし、興味もないので私達の事は放って置いてください」


 しかし、リーダーは余裕の表情で、「お前のためだ」と笑って聞き流す。


「お前のような優れた神官がこんなガキの相手をしてるなんて能力の無駄遣いだ」

「言っとくがな!俺はお前に負けてるなんて思ってないぜ!リーダーがどうしてもって言うから少しの間パーティを代わってやるだけだからな!勘違いするなよな!」

「結構です」


 サラは冷めた口調で言った。

 その言葉を聞いた男神官が勝ち誇ったように叫ぶ。


「みろ!逃げやがった!やっぱり噂は誇張されてんだよ!これでわかっただろリーダー!!」

「もうそれでいいから帰って下さい」

「いや、一度くらいチャンスをやらないとかわいそうだ」


 リーダーはあくまでも上から目線での物言いでサラを諦める気配はない。

 ちっ、と男神官が舌打ちする。


(え?あなた、今ので納得したの?もっと頑張りなさいよ!)


 サラは心の中で男神官を応援するが無駄だった。


「ぐふ。まだ終わってなくてよかった」


 そう言いながらヴィヴィが戻って来た。


「おい、なんでお前一人なんだ!?」

「ぐふ?」

「『ぐふ』じゃねえ!お前……」

「おいっ、お前、あの戦士と同じパーティの神官だろ?あの戦士、外で転がってるぞ。早く助けてやれよ!」

「な、なんだと!?」


 男神官が慌てて酒場を飛び出して行く。


「ヴィヴィ、何をしたのですか?」

「ぐふ。不幸な出来事が重なったのだ」

「不幸な出来事ってなんだ!」


 リーダーがヴィヴィに詰め寄り睨みつける。

 その迫力に押されたアリスが、「きゃっ」と声を上げてリオにしがみつく。

 声とは裏腹に笑顔なのは恐怖で表情の制御ができないからであろう。

 たぶん。


「ぐふ。盾の操作を誤ってな、うっかりヤツの顎を砕いてしまった」

「なんだと!?」

「ぐふ。それで驚いた拍子に盾が制御を離れてな。落下した先にヤツの足があって、うっかり砕いてしまった」


 愕然とするリーダー。

 当然ながらサラはヴィヴィがワザとやったと確信していたが指摘はしない。


「あ、ありえん!アイツはランクでもクラスでもお前より格上なんだぞ!Bランクだって目前なんだ!そんな奴が運で負けるだと!?」


(やっぱり、流石に誤魔化し……)


「どんだけ運の悪いヤツだ!」

「きれたっー!」


 思わずサラは叫んでしまった。


「ん?なんだサラ、今の奇声は?」


 パーティの盗賊が不審な目をサラに向ける。


「い、いえ、あなた方のリーダーが怒りで切れたのかと」


 苦しい言い訳だったが、リーダーは納得したようで笑顔を向ける。


「はははっ、そんなことで切れるかよ。俺はそんなに器は小さくない!」

「はあ、それは……すみません」


 そこへ、神官に肩を借りながら不運が重なって?ヴィヴィに負けた大柄の戦士が怒りの形相でやって来た。

 

「てめへ!かんほけもて!よくもはりはあったな!」

「ぐふ?」

「おい、よせって。傷は治したがまだちゃんと動かせるようになるには時間がかかる」

「う、うるへー!」

 

 運悪く?敗れた大柄の戦士がヴィヴィを睨みつける。

 口はまだ上手く回らず、潰された足も治ったもののまだ上手く動かせないようだった。

 男神官が神官としての能力でサラ、そしてアリスに劣っているのは明らかだった。

 だが、この男神官の名誉のために言っておくとこれが普通である。

 魔法を授かっている時点でこの男神官は神官として優れているほうであった。

 大柄の戦士の援護を盗賊がする。


「これでいい気になるんじゃないぞクラス最弱の棺桶持ちが!本当に運が良かっただけだからな!これでお前、運を全部使い果たしたぞ!」

「ぐふ。では以後気をつけるとしよう」


 ヴィヴィの言葉を聞き、パーティの盗賊がちょっと見直したような表情をする。


「はんっ、お前、謙虚なところもあるじゃないか。それを忘れんなよ!」

「ぐふ」



 ヴィヴィと大柄の戦士の遺恨は大きく響いた。

 男神官がサラとの交換を猛反対する。


「おい、リーダー!これはもうダメだ!遺恨が残るパーティとの交換なんてありえねえぜ!」

「ふぁあ!おへもこんはかんあへほちをなははにもふ、ひがふふったひんかんなんふぁといっふぉにぱーふぃはんへふふぇふぁいへ!」


 言ってる事はよくわからないが、男神官の意見に大柄の戦士も同意しているようだった。


 パーティ二人の反対を受け、リーダーは渋々だが納得した。


「と言うわけだ、サラ。悪いが今回の話は無かったことにしてもらおう」

「……」

「二度とちょっかいかけて来んなよ!」

「……」

 

 こうしてそのパーティは酒場を去って行った。



「……疲れたわ」


 サラは心の底からそう呟いたのとは対照的に「ぐふぐふ」呟くヴィヴィはとても楽しそうだった。

 彼らが去った後、アリスが「あっ」と叫んだ。

 

「どうしました?」 

「ぐふ?」

「あの人達っ!リオさんの料理ダメにしたのに弁償してませんっ!」

「ぐふ。安心しろ」


 ヴィヴィはそう言ってテーブルに銀貨を数枚置いた。


「ヴィヴィさんっ、それってっ……」

「ぐふ。私とあのバカ戦士の決闘で賭けを始めた奴らがいてな。私も私が勝つ方にかけたのだ。ラッキーだった」

「どこがよ……」

「流石ですっ、ヴィヴィさんっ」

「ぐふぐふ」


 

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