251話 幼児のおねがい
独白盗賊が去り、各自の食事を済ませ、ヴィヴィの前にある料理をヴィヴィを除く三人で片付けてようとした時だった。(ヴィヴィは普通の食事をしないので前もって三人で分けることにしていた)
とことこと幼い子供がリサヴィのところにやって来た。
こんな時間に何で子供がと疑問に思っていると、
「しょたこん?のおねえちゃん、おねがいがありますっ」
とかわいい声で話しかけて来た。
「そのお姉ちゃんはこっちよっ」
と声をかけられたアリスが笑顔でサラを紹介する。
「おいっ」
サラは抗議の声を上げる。
「はっ!?すみませんっサラさんっ。出しゃばった真似をしてっ。直接話したかったですよねっ」
「謝るとこ、そこじゃないでしょ!」
子供がサラをじっと見て再び同じことを言った。
「しょたこんのおねえちゃん、おねがいがありますっ」
「あのね、私はショタコンじゃないわよ」
サラは頬をひくひくさせながら優しい声で否定する。
しかし、子供はそのまま話を続ける。
「あのねっ、おじさんをぱてぃにいれてくださいっ」
そう言った子供の目はサラではなく、ヴィヴィの前にある料理に向けられていた。
ヴィヴィは子供が見つめている骨つき肉をひとつ取り、子供に手渡してやると嬉しそうにかぶりついた。
そこへ四十は越えようかという見た目おっさんの冒険者がやって来た。
「おいおい、こんなところにいたのか」
おっさん冒険者の子供への掛け声はとてもわざとらしかった。
間違いなく、外でスタンバっていたに違いなかった。
その冒険者の声を聞き、もぐもぐさせていた子供が肉から顔を上げ、おっさん冒険者を見た。
「あ、おじさんっ!」
「こらっ!お兄ちゃんだろ!すまんな、弟が無理言ってよ」
おっさん冒険者が笑顔をサラ達に向ける。
「あなたが兄という設定のほうが無理ありますっ!」
思わずアリスが突っ込む。
「な、何を言うんだ!」
おっさん冒険者は自分の容姿に自信があったらしく、おっさんである事を必死に否定する。
「あなたがおっさんであろうとどうでもいいです。そんな幼い子供をこんな時間に連れて来て何を考えているのですか。早く連れて帰って下さい」
「俺はおっさんじゃない!お兄さんだ!ってそれよりもだっ、」
おっさん冒険者がサラに向き直り笑顔を見せる。
「俺の弟がわがまま言ったようで申し訳ねえが、お願いを聞いてやってはくれねえか?な?よしっ、サラ!今からギルドに行くぞ!」
サラはため息をついてキメ顔をするおっさん冒険者を見る。
「こういう場合、普通は建前でもまずは『子供の言うことだから気にしないでくれ』と言うのではないですか?」
「お、おお、そうだな。まあ、気にしないでくれ」
「はい、ではその子を連れて帰ってください」
「……」
「どうしました?」
「そうじゃねえだろ!そっちも普通は言うこと聞くだろ?」
「いえ、聞かないでしょう」
「ぐふ、聞かんな」
「はいっ聞きませんっ」
「ふざけんなっ!」
「ぐふ。今日二度目の『ふざけんな』か」
サラがヴィヴィを睨む。
「サラ!お前は子供のお願いは無条件で聞くんじゃなかったのかっ!?」
「ぐふ!」
「……誰に聞いたのかは知りませんが、私はショタコンではありません」
「嘘つけ!」
そこへ肉を食べ終わった子供がおっさん冒険者の服を引っ張る。
「なんだ!?まだ話の途中だ!」
「おこづかいください」
「なんだと!?肉やっただろ!それで終わりだ!」
「肉はあなたのじゃないですっ!」
すかさずアリスのツッコミが入る。
「おじさんのうそつきっ」
子供がぷうと頬を膨らませる。
そこへ血相変えた女性がやって来た。
「この馬鹿弟!何勝手に息子を連れ出してんだい!」
そう言うとおっさん冒険者の頭を殴りつける。
「い、痛えな姉貴!ちょっと借りただけだろ!すぐ返すって!……痛え!」
女性は更におっさん冒険者を殴りつけた。
「あんた、いい加減に夢追っかけるのをやめて現実見なさい!いくつだと思ってんの!?」
「まだだよ姉貴!こいつらのパーティに入れば一発大逆転が狙えるんだ!」
「あんたみたいな万年Dランクの、しかもEランク降格間近の冒険者なんか入れてくれるとこなんか何処にもないわよ!あと息子を利用するのはやめなさい!次はないからねっ!」
おっさん冒険者の姉?は子供を連れて去っていった。
呆然としながらも立ち去ろうとしないおっさん冒険者。
「あなたも早く帰ったらどうですか?」
「お、俺はパーティに誘われるまで帰らねえぞ!」
サラはため息をついた。
再び店主が登場し、何も注文せず居座るおっさん冒険者を叩き出した。
「ぐふ。店主の方が強かったな」
「ですねっ」
リサヴィは食事を終えて二階の部屋に戻ってきた。
流石に二連戦は堪えたのか、サラはぐったりしてベッドに体を投げ出す。
リオはすぐにベッドに向かわず、窓の外を眺める。
その隣でアリスも一緒に外を眺める。
ヴィヴィはといえば、仮面を外し、夕食として魔術士用の携帯食をぽりぽり食べる。
携帯食を食べ終わったヴィヴィが笑顔で呟いた。
「うむ。今回はヤバかったな」
ヴィヴィの言葉を聞きつけ、アリスが振り返った。
「そうなんですかっ?」
「うむ?気づかなかったか?サラがあの子供を見る目を。必死に本能と戦っていただろう」
「あたしっ、全然気づかなかった……ひっ!」
アリスはサラのすごい形相を見てリオにしがみつく。
「ヴィヴィ、あなたとはそろそろ決着をつけないといけないようですね」
「うむ?」
険悪な二人を見て、アリスは何とか止めようと必死に考え、
「そ、そうですっ。どうしてもというならっ勝負方法はリオさんに決めてもらいましょうっ」
と、リオに丸投げした。
「ん?僕?」
「うむ。私は構わんぞ」
「そうですね。取り敢えず聞きましょうか」
二人は睨み合いながらもアリスの提案に賛成するが、リオの口から出た決闘方法は全く想定外だった。
「じゃあ、全裸キャットファイト」
「「「……」」」
サラの冷めた目がリオを貫くが、効果は全くなかった。
「……リオ、何故それを選んだんですか?」
「ん?」
リオはサラ、そして恐らくヴィヴィもであろう、彼女らの怒りに気づかず理由を述べる。
「女の子同士は喧嘩したらダメだってナックが言ってたんだ」
「……やっぱりナックですか」
「でも、どうしても戦う時は全裸キャットファイト一択だって。あ、美人であることが絶対条件だったけど、サラとヴィヴィは美人らしいから問題ないね」
もちろん、二人とも全裸キャットファイトなどする気はない。
リオのバカな提案を聞いて気が削がれ、どうでも良くなり、二人の激突は回避されたのだった。
「流石ですっリオさんっ。戦う事なく争いを止めるなんてっ!」
「そうなんだ」
アリスの中でのみ、リオの株が上昇した。




