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250話 盗賊、独白す

 ヴィヴィが予約した宿はマルコでいつも泊まる宿屋だった。

 ここを選んだのは前回、宿屋を出る時、


「いつでも部屋を空けていますから是非またご利用して下さい」


 と宿屋の主人が言っていたのを思い出し、半信半疑で向かったところ、本当にリサヴィのために部屋を空けていたのだ。

 何故その言葉が本当だとわかったかと言えば、ヴィヴィの前で何人もの冒険者達が「本日は満室です」と断られていたからだ。



 その宿屋に到着するとサラはあるものに気づいた。

 

「……あれ、何?」


 サラの冷めた目が宿屋の看板の辺りを見ていた。

 そこには、

 

 “あの神官サラの御用達の宿屋!”

 

 と言う文字が店の看板以上の大きさで張り出されていたのだった。


「ぐふ。私がさっき来た時はなかったな」

「急いで作ったんですかねっ」

「ぐふ。予め用意していたのだろう」

「じゃ、入ろう」


 リオはそれを見ても何も思わなかったらしく、さっさと中へ入っていく。

 それに続くヴィヴィとアリス。

 どうやらサラ以外はなんとも思っていないようだった。

 サラはため息をついて後に続いた。



 リサヴィが宿屋の一階にある酒場で食事をしているそばで一人の冒険者が所在なげに立っていた。

 と、彼は唐突に独り言を言い始めた。


「ふう。あの時のトラップ発見と解除は俺だから出来たんだよなぁ。あのトラップが発動したら何人犠牲者を出したかわからんかったな!自分で言うのもなんだが大した腕だぜ!」


 チラリとリサヴィの様子を見る冒険者。

 反応がないと知ると更に独り言を続ける。


「そうそう!あの時も俺が魔物の存在にいち早く気付いたから奇襲出来たんだよなぁ!奇襲に成功しなかったら無傷じゃ済まなかっただろう!やっぱパーティにゃ盗賊が必要だよなっ!」


 再び冒険者がリサヴィの反応を窺う。

 最後の投げかけは明らかにリサヴィに向けたものだったが今度も無反応だった。

 嫌な沈黙の後、ヴィヴィが口を開いた。


「ぐふ。最近、独り言をいう奴が増えて来たな」

「そうですねっ」

「冒険者は危険な職業ですからね。精神的に不安定になることもあるでしょう」

「そうなんだ」

「そうじゃねえだろ!」


 先ほどからリサヴィのそばで独り言を言っていた、心に問題を抱えていると思われた冒険者がリサヴィのテーブルをバンっと叩き、会話に割って入って来た。


「ぐふ?」

「『ぐふ?』じゃねえ!こんなに腕のいい盗賊がフリーで目の前にいるんだぞ!盗賊のいないパーティなら普通仲間に加えたいと思うだろ!声かけるだろ!何でかけねえんだ!」


 ヴィヴィをはじめとした彼らの態度に怒り出す盗賊。


「そうなんだ」

「そこ!『そうなんだ』じゃないだろ!」

「「「「……」」」」

「何だよその沈黙はよ!?」


 ヴィヴィが盗賊に顔を向けるとつまらなそうに言った。


「ぐふ。そのパターンは間に合ってる」

「なっ……」


 そう、今回のように自己アピールしてリサヴィのほうから誘わせようとしたのは彼が初めてではなかった。

 

 ギルド内での強引な勧誘は厳しく取り締まられるようになったため、次の勧誘場所としてリサヴィが泊まっている宿屋の一階の酒場が狙われるようになった。

 ここの宿屋の主人はリサヴィに好意的で以前から店内でのリサヴィのメンバーの勧誘を禁止していた。

 だが、逆にリサヴィからの勧誘は禁止しなかったので、この盗賊のようにリサヴィから誘わせるように仕向ける作戦をとる者が今までもいたのだ。

 リサヴィは四人パーティだが、ヴィヴィは部屋で食事をとるため四人テーブルに空席がひとつ出来る。

 そこをリサヴィ加入希望者達に気づかれ狙われた。

 加入希望者はリサヴィのいるテーブルの空席に半ば強引に座ると喉が枯れるまで自慢話を始めるのだ。

 いかに自分が有能であるかを語り、リサヴィから誘わせようとするのである。

 食事を終えたヴィヴィが戻ってきて席を埋めるようにしているが、その前に席を取られることも少なくなかった。

 宿屋の主人にしてみれば冒険者が自慢話をしているだけなのでやめさせる事はできない。

 いや、そういう者達も食事を注文するお客だったので、明らかに行き過ぎではない限り黙認したのだ。

 言うまでもないが、今までに成功した者はおらず、得しているのは売り上げが増えた宿屋の主人だけだった。



 今回、サラ達は宿屋に向かう途中で後を付けられているのに気づいていた。

 この時点で自称、腕がいい盗賊の実力は知れていた。

 尾行者が加入希望者だと確信し、ヴィヴィは自分の食事を後回しにして席を埋めたのだった。

 そのため、その盗賊は事前に得ていた情報と違ってリサヴィとの相席が出来ず、そばでブツブツ独り言をいう危ない人になっていたのだった。

 

 

 宿屋の主人が見かねてリサヴィのテーブルにやって来た。

 

「お客さん、カウンターが空いてるんでどうぞ」

「俺はここがいいんだ!」

「そうは言ってもね、見ての通り席は空いてないよ」

「そこの棺桶持ちが食ってねえだろ。そいつを退けろよ!」

「ぐふ。私の分も注文しているから問題ない」


 ヴィヴィの言う通りヴィヴィの前にも料理は運ばれていた。

 全く手をつけてはいなかったが。


「ふざけんな!」

「お客さん、ワガママ言わないでくださいよ」

「ワガママ言ってんのはこいつだ!」


 盗賊がヴィヴィを指差す。

 宿屋の主人が大きなため息をついた。


「お客さん、食事する気がないなら出てってください。営業妨害で兵士呼びますよ」

「汚ねえぞ!親父!お前はリサヴィの味方か!?」

「私はお客さんの味方です。さあ、どうするんですか?」

「リサヴィと交渉できないならこんなとこに用はねえ!」


 その盗賊は喚き散らしながら酒場を出ていった。

 その後ろ姿を見送りながら宿屋の主人がため息をつく。


「最近、ああいうのが増えて困ったものです」

「すみません」

「あ、いえいえっ、皆さんのせいじゃないですよ!皆さんはいいお客様です!」

「そうなんだ」

「あの看板を外せば少しはおかしなのが来るのが減ると思いますが」


 サラの提案を宿屋の主人は笑顔でスルー。


「ではごゆっくり」


 そう言って宿屋の主人は去っていった。



「ーーざっく。十点だな」

「ヴィヴィさんっ?」

「ざっく。今の奴は全く捻りも目新しさもなかった」


 しかも“おいっサラ”の決め文句もでなかった。

 0点でも良かったな、とどうでもいい後悔をするヴィヴィであった。


「そうなんだ」

「なんの評価をしてるんですか、全く……」


 だが、今夜はまだ終わらない……。


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