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248話 リサヴィに必要なメンバー

 訓練場から戻るとリオは依頼掲示板へ向かった。

 リサヴィの面々もその後に続く。

 サラが教会の事が気になりアリスに尋ねる。


「アリスまで抜けて教会は大丈夫ですか?」

「はいっ。教会に集まってた冒険者達はサラさんの後を追っかけて行って静かになりましたっ」

「そ、そうですか」


 またも手助けに行った事で余計な仕事を増やしていたとわかり、教会に申し訳なく思うサラであった。


「それにヴィヴィさんの言う通りこちらに来て正解でしたっ」

「ぐふぐふ」


 アリスは予約した宿屋の場所を知らせに来たヴィヴィにリオが決闘すること、サラが向かった事を告げた。

 それを聞いたヴィヴィは、


「ぐふ。まんまと引っかかったな。サラはリオと二人きりになるこの機会を狙っていたのだ」


 とアリスを焚き付けたのだった。


「あのねえ……」


 サラはため息をついた。



 アリスとヴィヴィはギルドの雰囲気がおかしいのに気づいた。

 ギルド内ではパーティを組んでいる者を勧誘する事は禁止されているが、それでもいつもなら一人や二人はその規則を破り、サラを勧誘に来るのだが、今日は遠巻きから見るだけだった。

 いや、その視線の先がサラではなくリオである者も少なくない。

 それはいつもの見下すものではなく、何か恐ろしいものでも見るような目であった。

 アリスが依頼掲示板を眺めているリオに尋ねる。


「あのっ、訓練場での決闘で何かあったのですかっ?リオさんが勝ったのは聞かなくてもわかりますけどっ」

「さあ」


 リオは何も考えずに返事した。

 アリスは今度はサラに尋ねる。


「サラさんは何か知ってますかっ?わたしとヴィヴィさんはサラさんが抜け駆けしてリオさんに告白してるとこからしか見てないんですっ」

「ぐふぐふ」

「まだ言うか。告白なんてしてません。が、見当はつきます」


 「私は途中からしか見てませんが、」と断ってからサラは分かる範囲で訓練場のでの出来事を説明した。


「……と言う事です。恐らくですが、リオが容赦なく相手を一方的に叩きのめしたのでリオの本当の力を知って驚いたのでしょう」

「相手は最低ですねっ。でも流石リオさんですっ」

「ぐふ。これで静かになるといいがな」

「……そう願いたいですが」



 誰もがサラを自分のパーティへ誘うわけではない。

 実力を伴ったBランク以上のパーティであれば尚更だ。

 そもそもBランク以上のパーティに神官がいない方が珍しい。(ケンカ別れしたが、ウィンドにも以前は神官がいた)

 しかもその神官のランクはサラよりも上のはずなのだ。

 パーティメンバーが内心ではどう思っているかはわからないが、パーティに入るかもわからない者のために今の関係を壊してでもサラをパーティに加えようと考える者はそうはいない。

 そのため、サラを誘うのは主に神官がおらず、パーティ構成に見直しの余地があるCランクかDランクのパーティであった。

 だが、これはあくまでもリオが自分達より弱い、というのが大前提にあり、それを誰もが疑っていなかったときの話だ。

 しかし、先の決闘でリオの実力を知った。

 その上、恐怖が刻み込まれた。


 あの化物、“冷笑する狂気”に関わりたくない。

 “冷笑する狂気”を野放しにしてはダメだ。

 “冷笑する狂気”を制御出来るのはサラしかいない。


 そう結論づけてサラを仲間にする事を諦める者達がいる一方で、


 リッキーキラー(あえてそう呼ぶ)は強い。

 それは認めるが奴に勇者の資格はない。

 勇者はあんな戦い方をしない。

 だから、奴は勇者には選ばれない。

 やはり、サラには真の勇者が必要だ!

 そしてそれは俺だ!

 

 と考える者達もまだ少なからずいた。



 ギルドのドアが乱暴に開かれた。

 入ってきた男は装備から見て戦士だろう。

 彼はギルド内を見渡し、サラを見つけると一直線に向かってきた。


「おい、お前、サラだよな?」

「それが何か?」


 高圧的な態度にサラは内心ムッとしながらも答える。

 

「よしっ、サラ!俺がお前のパーティに入ってやる!」


 その言葉を耳にした冒険者達の視線が一斉にその男に集まる。

 その男は皆の視線、好奇な視線に晒されながらも、臆する事なく、それどころかどこか誇らしげだった。

 先の決闘から時間はそれほど経っていない。

 その決闘を見ていなくても今のサラは機嫌が良さそうには見えない。

 普通であればそんな状態のサラに声をかけることさえ避けるはずであるが、その男は全く気にした様子もなかった。

 冒険者達は事の成り行きに注目しながらその男が何分で断られるかの賭けを始めた。



 サラはその男の顔に見覚えはない。

 初対面の、少なくとも記憶に残るような会話すらした事もない、そして名前すら名乗らないこの男の態度に内心腹を立てていた。


「リオ、どうしますか?」


 サラの問いに答えたのはリオではなかった。


「リッキーキラーなんかに確認する必要なんてないだろ。俺の方が強いんだぜ!な、いいだろ?」


 今の発言でこの男が先ほどの決闘の事を知らないことがハッキリした。

 あれを見た後で、本人を前にして“リッキーキラー”などと言えるはずがないのだ。

 冒険者達はリオが怒りはしないかとビクビクしていたが、当のリオは何の反応も見せなかった。

 男の自信満々な様子から、もしかしたら彼は二つ名があるほどの有名人かも知れない。

 しかし、実際に腕が立つとしてもこのちょっとのやり取りだけで一緒のパーティは無理と思わせる相手であった。

 サラの答えは決まっていたが、リサヴィのリーダーはリオである。

 サラは男の言葉を無視して再度リオに問いかけるが、リオの返事は素っ気ないものだった。


「サラに任せるよ」


 リオは何も考えていないような顔でそう言った。

 

「そうですか。ーーではお断りします」


 男は何故か断られるとは思っていなかったようでとても驚いた顔をした。


「なっ……なんでだっ!?お前らのパーティは四人だろ!?まだ余裕があるだろう!俺が入ってやるって言ってるんだぞ!」

「必要ありません」

「理由を言え!俺が納得する理由をよ!」


 サラは頭は痛くなった。

 何故自分がこの男を納得させなければならないのかと。

 だが、その男の言葉はこのやり取りを見ていた冒険者達にとっても非常に興味あるものだった。

 サラはそっけなく答えた。


「私達は人数を増やす事はまったく考えていません」

「はあ!?バカか?」

「あなたが、ですね」


 サラはすぐさま言い返す。


「なんだとっ!……いいだろう!目上の者として教えてやる!」


 男の言い方からして冒険者ランクはサラ達より上のCランク以上と推測するが、確認しない。

 サラは彼のランクが何であろうとどうでもいい事だったからだ。


「人数が増えるほど依頼を達成しやすくなるんだぞ」

「人数が増えれば一人当たりの報酬が減りますし、連携も難しくなります」


 男の言葉にサラがすかさず反論する。


「そ、それは報酬の高い依頼を受ければいいんだ!連携なら俺が合わせてやる!」

「ではその報酬の高い依頼を受けるパーティを探して下さい」

「俺が加われば高難度の依頼を受けられるって言ってんだ!」

「興味がありません」


 男はサラにバッサリ切られ、うっ、と唸るが立ち去ろうとはしない。

 しばらく考え、

 

「ダンジョン攻略のときは四人じゃ辛いだろう!」

「え?」

「考え付かなかったか?」


 男が勝ち誇った顔を見せる。


「よしっ、サラ!自分の過ちがわかっ……」


 男が自信満々に話しかけている途中でサラが非情な言葉を発した。


「まだいたんですね」

「な……」


 サラの言葉に男は呆然とし、あちこちのテーブルから笑いが漏れる。


「て、てめえ、こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって!!」


 サラがため息をついた。

 

「いつ下手に出ていたのかは気づきませんでしたが、では逆に聞きます」

「なんだ!言ってみろ!」

「そもそもあなたのクラス、冒険者ランク、そして名前、どれも聞いていません。それで『パーティに入れろ』と言って入れるパーティがあるとでも?まあ、探せばそういう奇特なパーティがあるかもしれませんが、少なくともリサヴィは違います」


 その言葉を聞いて男はやっと自分の事を何も話していない事に気づいた。

 

「お、俺は……」


 だが、男が何か言う前にサラは言葉を続ける。


「それと、先程ダンジョンと言いましたが、今のところ私達が挑戦する予定はありません。仮に挑戦するとして、更に仮にパーティメンバーを募集するとしても必要なのは戦士ではありません」


 サラの戦士不要宣言を受け、テーブルのあちこちで戦士達が悲鳴を上げる。

 と同時に盗賊達がガッツポーズを決める。

 盗賊というクラスは魔装士ほどではないが、不遇な扱いを受ける事が多く、ほとんどの盗賊が報酬の分配で不満を感じていた。

 他のクラスと同等の扱いを受けていたウィンドのローズとリトルフラワーのジェージェーは少数派だったのだ。 

 サラの発言により盗賊達はリサヴィに必要なクラスは自分達だと確信し、自分達にチャンスが回って来たと思ったのだ。


「それであなたのクラスはなんですか?」

「く、う、………くそっ!」


 男はサラに向かって「ショタコンがいい気になるな!」と捨て台詞を残してギルドから出ていった。

 様子を見ていた冒険者達から笑いが起き、賭けの精算を始めた。



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