244話 愚策の結末
教会の周りには怪我人以外にもピンピンした冒険者達がたむろっていた。
目的は言うまでもなく、鉄拳制裁サラがいる事を聞きつけ、彼女の勧誘に来たのである。
しかし、教会へは騎士団による厳しいチェックが入り、勧誘目的は言うまでもなく、軽傷者も教会に入れてもらえない状況であった。
「くそっ、軽傷者は門前払いかよっ!」
「この傷どうしてくれんだ!」
そう叫んだ彼らも突発的自傷症を発病した者達だった。
リーダーが自分でつけた腕の傷をペロリと舐める。
「どうするリーダー?このまま出てくるのを待つか?」
パーティの一人がそう言ってリーダーを見る。
「はっ、あいつらのようにかよ?」
教会前にたむろっている冒険者達に軽蔑した視線を送る。
彼らも同類であるはずだが自分は違うと思っているようだった。
そのリーダーがニヤリと笑った。
「また悪い事考えたな?」
「抜かせ!俺はいい事しか考えねえよ!」
「どっちでもいいから聞かせてくれよ!」
「なあに簡単な事だ。軽傷だから門前払いを食うんだ。なら……重傷を負えばいい」
「それってつまり……」
「おうっ、お前ら、ちょっと大怪我したい奴名乗り出ろ!」
リーダーの無茶振りにメンバーは後退りする。
「いや、それは言い出しっぺのリーダーが……」
「ざけんな!俺はアイデアを出したんだぞ!なんでもかんでも俺にやらせんじゃねえ!」
「で、でもよ……」
「わかった、わかった。ジャンケンで決めな!この意気地なしども!」
「「「……」」」
「どうした?」
「でもよ……」
「おいおい、あのサラが治療するんだぞ!大丈夫だ!噂じゃ、重傷者でもサラの治療魔法なら完治する上にすぐ普通に動けるようになるって話だ!」
「で、でもよ……」
「あのサラに褒められるぞ『よく、この傷を我慢できましたね』とかな!もしかしたら全快祝いにキスくれるかもしれんぞ!」
「い、いやあ、それは流石にないだろう」
「お、おう、ないない」
「それは流石に、なあ?」
リーダーは頭の軽いメンバーがその気になって来たのを察した。
内心で笑みを浮かべながら更に畳み掛ける。
「そうかぁ?噂じゃ、サラは元娼婦って話だ。十分あり得るだろう」
「そ、それはヨシラワンでサラの名を呼んでる奴がいたってだけだろ?」
「ああ。だが、その頃、サラはヨシラワンにいたって話だ」
「……お、俺やるぞ!」
ついにパーティで一番頭が軽い男が名乗りをあげた。
「おい、お前」
「よく言った!よし、お前を副リーダーにしてやるぞ!」
「お、おう!」
立候補した男はサラにキスされ、しかも副リーダーとなった自分をサラがうっとりした目で見つめる姿を夢見て頬が緩む。
「リーダー!流石にこいつに副リーダーは無理だろ!」
「そうだぜ!」
「うるせえ!根性なしのお前らは黙ってろ!」
「で、でもよ……」
「いい加減にしろ!他の奴らに先を越されたらどうすんだ!?」
「いや、流石にこんな事やる奴は……」
「ああ、思いついても実際に実行しようとする奴はいないと思うぜ」
しかし、リーダーはパーティメンバーの意見を無視し、剣を抜くと立候補したメンバーを見る。
「覚悟はいいか?」
「お、おうっ」
「行くぞ!」
「こ、こいっ!」
リーダーが立候補したメンバーに思いっきり斬りつけた。
「があああ!い、いでえ……た、たす……」
「よしっ!お前ら!急いでサラのもとに運ぶぞ!」
「「お、おうっ!」」
「……」
「どけっ!重傷者だ!サラ!」
サラの元へ一人の冒険者が担架で運ばれて来た。
「……」
「さあ、頼むぞサラ!俺の仲間を救ってやってくれ!」
「……」
「よしっサラ!助けてくれた礼に俺達のパーティに入れてやる!」
「いえ、結構です。それよりこの傷は“致命傷でした”ね」
「おうっ、俺の必殺の一撃だからな!食らったら大体の奴は死ぬ!」
そう言ったリーダーの顔はどこか誇らしげだった。
「でしょうね。もう死んでいます」
「そうだろう!……へ?」
「死者は蘇る事はありません。ーー騎士団の方、この者を捕らえて衛兵に突き出して下さい。殺人を自供しました」
罪のない者を殺せば当然罪に問われる。
これが街の外であれば、誤魔化すことも出来ただろうが、街中で堂々と、しかも自供までしたのだからその罪は誤魔化しようがない。
サラの指示を受け、神殿騎士団がリーダーを取り押さえる。
「ちょ、ちょ待てよ!俺は無実だ!サ、サラ!お前のせいだ!お前がさっさと治療しねえから!」
「私の所へ運ばれて来た時には既に死んでいました」
「ほら、さっさと来い!」
騎士団がリーダーを引っ立てて行く。
それを呆然とした顔で見送る彼のパーティ。
「お、俺は悪くねえ!俺達に治療の順番を譲らなかった奴らが悪い!」
リーダーは往生際が悪く、責任を周りの者に押し付け始めた。
そして最後には、
「サラ!お前が!お前が俺のパーティにさっさと入らねえから悪いんだ!」
などと言う始末である。
リーダーが連行されて行った後、サラは「やれやれ」と首を横に振った。
「ほんとっ、ここはバカばっかりですねっ」
アリスの言葉にサラは大きく頷く。
「次の人を呼んでください」




