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243話 激しい勧誘

 マルコ教会の神官見習いがマルコの街の入口に立っていた。

 不安げな表情でやって来る旅人達を見ていたが、ある旅人達の姿を見つけると笑顔になって彼らのもとに向かった。


「サラ様、アリス様」


 サラとアリスは走ってやって来た神官見習いの顔を覚えていた。


「どうしたのですか?」

「じ、実は怪我人が多くて教会の神官だけでは間に合わなくて手伝って頂ける神官を探していたのです!」

「怪我人がそんなにいっぱいいるんですかっ?」

「何かあったのですか?確かに冒険者の数が多いようですが」


 サラ達の質問に神官見習いが頷く。


「はいっ。魔の領域の探索で怪我を負うものが多く、神官の治療が追いつかない状態なのです!それにポーションも不足してまして」


 サラが首を傾げる。


「魔の領域は教団が攻略を進めていたのでは?」

「はい。その攻略ですが、終了間近との噂が流れまして、危険度が下がったとみた冒険者達が続々と魔の領域へと探索に向かっているのです」

「なるほど。それで実力を見誤って怪我人が続出していると」

「はい!是非、お二人にもお力を貸して頂きたく!」

「でもっ、わたし達が行くとっまた前のような事が起きませんかっ?」

「それは大丈夫です。幸いにも今は第三神殿の騎士団の方がおられまして、彼らが治療を必要と判断した者しか通していません。勧誘目的なら中にすら入れません!」

「わかりました。リオ、いいですか?」

「ん?何が?」


 サラはリオが今の話を全く聞いていなかったと察した。

 頭を振った後、簡潔に述べる。


「教会が私達に力を貸して欲しいそうです。私達、アリスもいいわね?……私達は協力しようと思いますがいいですか?」

「いいんじゃない」


 リオは深く考える素振りも見せずに即答した。


「ぐふ。では私達はギルドに向かい依頼達成報告をしておくか」

「そうだね」

「あと、宿屋の確保もお願いします。冒険者が多いので早めに宿屋を予約した方がいいでしょう」

「ぐふ。わかった」

「あとリオ、くれぐれも勝手に依頼を受けたりしないで下さいね!」

「わかった」


 リオはこれまた即答した。

 サラは不安に思いつつも神官見習いの後をアリスと共について行く。



 神官のアリスを見て一組のパーティが近づいて来た。

 最初はアリスをパーティに勧誘するつもりだったが、すぐにサラがいる事に気づいた。

 サラは普段戦士の格好をしているし、フードを深く被り顔を隠しているので気づかれる事はないのだが、その冒険者達は以前にサラを見た事があったのだった。


「サラじゃないか!」


 彼らの一人が不用意に大声で叫んだせいでサラ達は冒険者達の注目を浴びる事になった。

 サラの名を呼んだ冒険者のパーティが満面の笑みを浮かべてやって来て行手を塞いだ。

 

「久しぶりだな!サラ!」

「お前も魔の領域の探索に来たんだな!」

「……誰です?急いでいるので退いて下さい」

「おいおい、連れねえなぁ。俺だよ俺!」


 その冒険者は馴れ馴れしく話しかけてくるがサラは本当に見覚えがなかった。


「知りません。退いて下さい」


 しかし、そのパーティが退く気配はない。

 それどころか勧誘を始める始末だった。


「俺達よ、魔の領域へ探索に出かけるつもりだったんだけどよ、回復役がいなくて困ってたんだ。ポーションはバカ高えしよ。ここでお前と会ったのも運の尽きだぜ」


 その冒険者は本当は「何かの縁」と言おうとしたのだが、言い間違い、間違えた事に気づかなかった。

 サラは間違いに気づいたが訂正しなかった。


「尽きたのならさっさと退いて下さい」

「これは神様がよ、俺達のパーティにサラを入れろって言ってんだぜ!」

「そんなバカな事をいう神は六大神にはいません」


 しかし、サラの言葉は彼らには届かなかった。


「よしっ、サラ、俺のパーティに今すぐ入れ!そんで魔の領域へ出かけるぞ!な?」


 そう言ってその冒険者がサラにキメ顔をする。

 少し遅れて彼らのパーティメンバー全員がキメ顔をした。

 しかし、言うまでもなく全く効果はなかった。



 そうこうしているうちに他の冒険者達もやって来てサラ達を取り囲み勧誘合戦が始まる。


「よしっサラ!俺……」

「うるさい」

「よしっサラ!これ……」

「うるさい!」

「よしっサラ!すぐ……」

「うるさーい!」

「おい、アリエッタ!俺達はお前でもいいぞ!」

「誰がよっ!」


 しつこく勧誘しまくる冒険者達を拒否するものの、次から次へと湧いて出るため、思うように前に進めない。


「サラ様、アリス様、私が先に行って応援連れて来ます!」

「ええ」

「お願いしますっ」


 神官見習いが冒険者達の輪からなんとか外に出た。

 そして教会へ全力で駆けていく。

 

「サラ!俺は怪我してんだ!頼む!」


 サラがそちらへ視線を向けると、声をかけた冒険者がキメ顔をする。


「どこですか?人の話を聞かない耳の治療は無理です」

「おいおい、酷えなあ」


 その冒険者はキメ顔が全く効果なかった事に内心傷つきながらも笑顔を絶やさない。

 そして、

 

「傷なら……ここにあるぜ!」


 そう言って手にした短剣で自分の腕にスッと傷をつけた。

 

「な?」

「……あほか」

「なっ……てめえ!」


 冒険者は怒りを露わにするが、サラは動じない。


「自傷癖のある者は治すだけ無駄です。ポーションでも飲んでおきなさい」


 サラはそう言うともう見向きもしなかった。


「ちょ、ちょ待てよ!」


 尚も食い下がろうとする冒険者だったが、その動きがピタリと止まった。

 と同時にサラ達を取り囲んでいた輪が解ける。

 サラは視界が開けてその理由を知った。

 先に教会へ連絡に向かった神官見習いが神殿騎士団を連れて戻って来たのだ。

 こうして騎士団に守られながらサラとアリスは教会へ辿り着いた。

 神官見習いが話していたポーション不足というのは本当のようで、教会の前に露店があり、ポーションなどを高額で販売していた。

 教会の前でよくやるわ、とサラは呆れを通り越して感心するのだった。


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