242話 バカパーティとの共同依頼 その4
「……来るね」
『ぐふ』
それを聞いたアリスがメイスを両手で握り締めながら緊張した面持ちでリオに尋ねる。
「あのっ、それって、行方不明の冒険者達じゃ、ないですよねっ?」
「違うよ」
「ですよねっ」
リオの普段と変わらない口調を聞いてアリスの緊張が和らぐ。
「サラの方はどう?」
『ぐふ。向こうも来たな』
「そうなんだ。ヴィヴィ、弓」
「ぐふ。わかった。畑に近づく前に仕留めろ。近づき過ぎると畑を破壊する恐れがある」
「わかった」
リムーバルバインダーが開き、リオは中から弓と矢筒を取り出した。
リオは何事もないように矢筒から矢を一本抜き取ると弓を構えた。
その様子を見て応援に来ていた自警団が驚く。
月明かりが辺りを照らしてはいるものの、彼らにはリオが弓を構える方向に何も見えなかったのだ。
「あの、一体……」
『ぐふ。お前達は後ろに下がっていろ。来るぞ』
ヴィヴィの言葉が終わらぬうちにリオが矢を放った。
ヴィヴィのリムーバルバインダーに格納されている弓矢は魔力が込められている。
魔力を耐久強度限界まで蓄積した矢は当たると衝撃で爆発を起こす。
放たれた矢は赤い軌跡を描きながら何かに命中して爆発した。
その爆発の影響でその周囲が少し明るくなった。
そこには十を超えるかというウォルーの姿が見えた。
その中でも一頭が二回りほど大きい。
「……あれ?避けられたみたい」
リオがぼそりと呟く。
「えっ?でも微かに悲鳴のようなものが聞こえましたよっ?」
「後ろの奴に当たったみたいだね。あと爆発で何頭か巻き込んだみたいだけど」
ヴィヴィの魔力が込められた矢は魔族であった金色のガルザヘッサにもダメージを与える程の威力を持つ。
ウォルー相手では完全にオーバーキルの代物であった。
『ぐふ。先頭のはガル・ウォルーだな』
「ガ、ガル・ウォルー!?」
その言葉を聞いて自警団の男が怯える。
ガル・ウォルーはガルザヘッサとウォルーが交配して生まれるDランクにカテゴライズされている魔物で普通の人が倒せる相手ではない。
『ぐふ。村に戻り、みんなに戸締りをしっかりするよう伝えろ』
「わ、わかった!」
自警団が慌ててかけていく。
「こんな時にっ、あの冒険者達はどこにいるんですかねっ!」
「ん?さっき死んだみたいだよ」
『ぐふ』
アリスの怒りのこもった叫びにリオは何でもないように答え、ヴィヴィが同意する。
「……へっ?」
アリスが呆然とする中でも、リオは次々と矢を放ち、爆発に巻き込み一度に数頭仕留める。
手の離せないリオの代わりにヴィヴィがアリスの疑問に答える。
『ぐふ。あのバカパーティはさっきまで森に潜んでこっちの様子を伺っていた』
「そ、そうなんですかっ?」
アリスは自分だけ気づいていなかった事にショックを受ける。
ヴィヴィはアリスを気にかける事なく続ける。
『ぐふ。あのバカパーティは自分達がここへ何しに来たのか忘れていたようだ。ウォルーの奇襲を受けて森の奥へ引きずられていった』
「そ、そうなんですねっ。それじゃあっ、確かにもう生きていないですね……」
『ぐふ。私達の知った事ではないがな』
「依頼にないしね」
リオが会話に参加しながら矢を放つ。
「そうですねっ」
アリスはそう答えて、彼らの事を考えるのをやめた。
「大体片付いたし、あのデカイの仕留めてくるよ」
リオが弓と矢筒をアリスに渡す。
リオが右手で剣を抜き、左手で短剣を抜く。
『ぐふ。援護はいるか?』
「いらない、アリアの護衛をよろしく」
『ぐふ。わかった』
「リオさんっ、アリスですっ」
「うん、知ってた」
「リオさんっ、私も……」
「怪我したらよろしく」
「あ、はいっ任せて下さいっ!安心して怪我して下さいっ!じゃなくてっ怪我しないように気をつけて下さいっ!」
リオは小さく頷くとガル・ウォルーに向かって走り出した。
一方、サラの方にはガル・ウォルーの姿はなく全てウォルーであった。
サラは向かってくるウォルーにスリングを放ち、一投一殺のペースで仕留めていく。
そうして、十頭ほど撃ち倒すとウォルーは逃げ出した。
結局、サラは接近戦を一度もすることなくウォルーを撃退した。
サラが宙に浮くリムーバルバインダーに声をかける。
「ヴィヴィ、こっちは終わったわ。そっちはどう?」
『ぐふ。問題ない。今、丁度リオがガル・ウォルーを仕留めたところだ。それで残ったウォルー達も逃げ出した』
「そう」
サラは負けるとは思っていなかったが、人数が圧倒的に少ないので畑を多少荒らされるのを覚悟していたので、ほぼ無傷で守れてほっ、とした。
ヴィヴィがどうでもいいような口調で言った。
『あのバカ共は全滅したようだ』
「そう」
サラはなんの感情も込めず返事した。
夜が明け、恐る恐る家から出てきた村長達は畑の周辺に倒れるウォルーの数に驚いた。
その数は彼が村長になってから一番多かった。
にもかかわらず、これらの魔物を退治したのがたった四名のパーティだというのだ。
実際に自分の目で見ているものの信じられなかった。
呆然としている村長にサラが声をかける。
「村長、私達は休ませてもらってもいいでしょうか?」
「は、はい。もちろんです!」
「恐らくもう襲って来る事はないと思いますが、もしまた現れるようでしたら気にせず呼んでください」
「わかりました。お疲れ様でした」
ヴィヴィが一足先に部屋に上がり、サラ達は軽く食事を取って睡眠をとった。
そして、昼過ぎに村長が話があると言うので村長宅へ向かった。
話は倒した魔物の処分についてと消えたバカパーティについてだった。
「では、プリミティブ以外は私どもが頂くと言うことでよろしいでしょうか?」
「はい」
「ありがとうございます。大変助かります」
「いえ。私達も処分に困りますので」
そこで村長は一呼吸置いた。
「それで、姿を消した彼らなのですが、……どうやら森でウォルーに襲われたようです。彼らのものらしき血痕と装備の一部を森で見つけました」
「そうですか」
その事は既に知っていたがあえて口に出したりはしない。
「ぐふ。まあ、よくあることだ」
ヴィヴィが淡々と言い、その言葉に村長が頷く。
「今までも何人かの冒険者が命を落としたのを見てきましたが、パーティ全滅は流石に初めてでして……私もちょっとショックを受けています」
「そうですね。彼らとはわかりあえませんでしたが、残念です」
その後、アビスの実の収穫が終わるまでリサヴィのみで警備を継続したが、ウォルーが再度襲撃してくることはなかった。
こうしてリサヴィの警備依頼は完了した。




