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241話 バカパーティとの共同依頼 その3

 翌日、サラは村長とバカパーティが揃ったところで依頼のキャンセルを申し出た。

 この場にリサヴィで来ているのはサラのみだ。

 村長とバカパーティの面々がその言葉を聞いて共に驚いた。


「サラさん、理由を教えて頂けませんか?」


 村長の問いにサラは理由を簡潔に説明する。


「私達がいると彼らが真面目に依頼を行いません。その結果、自警団の方に大怪我をさせてしまいました」


 サラの言葉にバカパーティがすぐさま反論する。


「馬鹿野郎!それはお前が最初から俺達の持ち場にいりゃあ起こらなかった事だろう!」

「おうっ!自分が悪いくせに人のせいにすんじゃねえ!」

「お前、腕は確かだが頭悪いな!」

「だな!」


 サラはため息をついた。

 

「このように私は別パーティなのに手伝いを強要するのです。私達と彼らとでは一般常識が大きく異なるようなので、そんな者達と一緒に依頼を継続するのは不可能と判断しました。これはリサヴィ全員一致した意見です」

「そ、そんなっ、なんとか考え直して頂けませんか?」


 村長は昨日の戦いの報告を受けている。

 バカパーティの身勝手な行動も当然知っていた。

 彼らが勝手に持ち場を離れなければ自警団が怪我をすることはなかったであろうことを。

 同じDランクの冒険者でも明らかにリサヴィの方がバカパーティより腕が上である。

 それだけでなく、リサヴィの名はリッキー退治専門として多くの村に知れ渡っており、腕が立つだけでなく、誠実な人達であるととても評判がよかった。

 実際、彼らを目にしてその噂が真実であると村長は確信した。

 ゆえに村長はどちらかを選ぶなら迷う事なく、リサヴィを選びたかった。

 バカパーティもサラが依頼をキャンセルする事に抗議の声を上げる。


「キャンセルは依頼失敗になるんだぞ!いいのか!?」

「仕方ありません。このまま続けて村に迷惑をかけるよりはマシです」

「あなた方がいなくなる方が村にとっては困ります!」


 村長には申し訳ないと思ったが、サラの意志は固かった。

 なので村長はバカパーティの説得にかかる。


「あなた方とサラさん達とはパーティは別ですし、持ち場も違うのですから……」

「「「「うるせえ!」」」」


 依頼主である村長に暴言を吐くバカパーティ。


「サラ、お前、ふざけんなよ!お前らがやらねえなら俺らもやめるぞ!」

「そうだぞ!いいのか!」

「そうなったら良心が痛むだろ!」

「考え直した方がお前のためだぞ!」


 全く反省の色が見えないバカパーティの態度にサラは頭が痛くなった。

 と、同時にこの場にヴィヴィがいなくてよかったと心底思った。


(我慢強い私でさえキレそうなのよ。ヴィヴィだったら今頃キレてリムーバルバインダーを彼らに叩きつけていたかもしれないわ)


 サラがヴィヴィより我慢強いかはともかく、バカパーティの横暴には流石に村長も頭にきたようで、バカパーティを切ってでもリサヴィを残す決断をする。

 

「お静かに!……では依頼主として“お互いのパーティに干渉しないこと”を依頼条件に追加させていただきます。もしご不満でしたらキャンセルしていただいて構いません。もちろん、依頼失敗にはしませんが、この条件を受け入れた後、干渉するようでしたら契約不履行でギルドに報告します。これでいかがでしょうか?」

「なんだと!?」

「ふざけんな!」


 バカパーティの面々が喚くのを無視して、村長はサラだけを見ていた。

 村長にここまで言われてはサラも断る事は出来なかった。


「……わかりました。それでしたら私達は依頼を継続します」



 その日の夜。

 リサヴィの持ち場に村長が自警団の者を連れてやって来た。

 その顔はとても困った表情をしているように見えた。

 サラは内心ため息をつく。

 

(……またあのバカ達が何かやったわね)


 サラはチラリとリオを見るが、対応する気がないと察し、リサヴィを代表して村長に声をかける。


「どうかされましたか?」

「はい、実は、その、彼らが……いなくなってしまったのです」

「は?いなくなった、とはキャンセルしたんですか?」

「いえ、違います。文字通りです。彼らが持ち場に現れないので宿屋へ見に行かせると姿がなく……」

「依頼を受けたまま出て行ったのですか?」

「いえ、荷物は置きっぱなしでして……」

「そうですか」

「それで村の者に聞いて回ったところ、『偵察に出かける』と言って森に入って行った事がわかりましたが、未だに帰って来ておらず困っているのです」

「そうですか。……ちょっと待って下さい。ーーみんな、ちょっと聞いて下さい!」


 サラがリオ達に村長の話を伝える。


「ぐふ。嫌がらせか」

「そんなのって無責任ですっ。ありなんですかっ?」

「ぐふ。アリス、サラの力を甘くみるな。クズコレクターの二つ名は伊達ではない」


 そう言ったヴィヴィは顎をくいっと上げる。

 顔は仮面で見えないが、なんか誇らしげだった。


「ああっ」

「なるほど」


 リオは頭が不自然に下を向いた。

 サラにどつかれたのだと悟る。

 

「僕……」

「『なるほど』ではありません。大体この依頼はあなたが受けると言ったんでしょう!あのクズと引き合わせたのはあなたです!」

「そうだった」

「実際問題どうしますっ?私達だけじゃ全部見張れないですよっ」

「……ぐふ。仕方がない。私がリムーバルバインダーで上空から監視しよう」

「……それしかないですね。お願いします」


 リサヴィはパーティを二つに別けて持ち場を見張る事にした。

 最初、村長はバカパーティの持ち場を村の自警団が受け持つと言ったが、その案にサラが反対した。

 昨日の様子を見て自警団だけでは畑を守り切れても死者が出そうだと思ったのだ。

 村長はそれならばせめてと、各持ち場の自警団を二人から四人に増員した。

 配置だが、リオとアリスが行方不明になったバカパーティの持ち場を、サラが元々の持ち場を担当することになった。

 ヴィヴィはその中間に立ち、リムーバルバインダーをそれぞれの持ち場へ向かわせて魔物の監視兼連絡役を務める。

 サラは表情にこそ出さなかったが、魔装士のリムーバルバインダーの操作範囲の広さに改めて驚いていた。


(……魔装士、というより、やはりヴィヴィが特別なのでしょうね)



 バカパーティは森に少し入ったところに隠れて警備の様子を観察していた。

 彼らは自分達を馬鹿にしたサラを見返してやろうと考えていた。

 頭の非常に軽い彼らが思いついた作戦は、サラ達がピンチになったところに颯爽と駆けつけて助け、自分達がいかに有能か示そう、というものであった。

 仮にリオ達がピンチになったところを助けたとしても、彼らが勝手に持ち場を離れた事が原因なので感謝されるはずないのだが、この作戦が上手くいくと彼らは信じて疑わなかった。


「……ははっ、アイツら慌ててやがるぜ!」


 様子を探っていた盗賊が笑いながらリーダー達に報告する。


「そりゃ、無理もねえさ。単純計算でも戦力半減だぜ」

「おうっ、単純計算でな」

「実際には半分以下になったんだからな!」


 彼らはサラ以外はカスだと思っていた。

 昨晩、リオが戦っている所を彼らは見ているはずだが記憶に残っていないらしく、ヴィヴィとアリスも戦力外と見ていた。

 対して自分達の評価は非常に高かった。

 彼らは皆、物事を客観的に見るのが苦手のようであった。

 盗賊がポケットからアビスの実を取り出した。

 無断で畑からもぎ取ってきたものだ。

 それを服の袖で擦ってからカブりつく。


「うげっ、まずっ!」


 盗賊はすぐさま吐き捨てた。

 

「なんだよ、高級食材って聞いたから期待してたのによ!」

「ははっ、バカだな。アビスの実はそのまま食うもんじゃねえ。潰してマナポーションの材料にすんだよ」

「これ売れねえかな?」


 彼は根っからの盗賊だったようで盗んだ物を平気で売ろうと考える。

 

「お前がかじったヤツなんか売れるかよ!」

「言ってくれんじゃねえか!」


 盗賊は食べかけのアビスの実を放り捨てた。


「……おっ、アイツらパーティを二つに分けやがった」

「なに!?バカか!?」

「いやいや、それしか手はないだろう。ここの自警団は全然役に立たねえからな!」

「確かにな!」

「……こっちは、俺達の持ち場はリッキーキラーと顔だけの頭の弱そうな女神官が担当するみたいだ」

「おいおい、こりゃ俺達の出番はすぐ来そうだな!」

「はははっ!違いねえ!」


 しかし、彼らの出番が来る事はなかった。

 盗賊が放り投げたアビスの実。

 その匂いを嗅ぎつけてウォルー達が気配を消しながら彼らに近づいていたのだ。

 ウォルー達の接近を真っ先に感知すべき盗賊はリオ達の様子を探ることに夢中で全く気づかなかった。

 いや、彼の盗賊の技術では気配を消したウォルーを感知するのは無理だったのかもしれない。

 こうして彼らのバカな作戦は誰に知られる事なく失敗し、その代償に彼ら自身の命を支払う事になったのである。


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