240話 バカパーティとの共同依頼 その2
村長は警備の人数を不安に思い、村の自警団を各持ち場に二人ずつ参加させていた。
夜になり、しばらく経った頃、リオ達の持ち場へウォルーが現れた。
リオ達は自警団を下がらせて、撃退に向かう。
リオ達は苦戦することなく、淡々とウォルーを仕留めていると、もう一方の持ち場を受け持っていたはずのバカパーティがこちらへ走ってやって来た。
「加勢するぜ!」
「俺達が来たからにはもう大丈夫だ!」
バカパーティがサラに腕を振り上げてアピールしながらウォルーへ向かって行く。
サラ達が呆然とする中、
「さっきみっともねえ所を見せてからな!“汚名を挽回”するぜ!」
「おう、“汚名挽回”だ!!」
「きっちり“汚名挽回”してやるからな!」
「俺達の戦いをよく見てろよサラ!」
バカパーティが既に敗走し始めていたウォルーの追撃を始めた。
「……あの人達っ、自分達の持ち場を離れて大丈夫なんでしょうかっ?」
「大丈夫ではないですね」
アリスの疑問にサラが冷めた声で答えた。
「ぐふ。確かに“汚名挽回”したな。自分の持ち場を離れるという愚行で」
「ええ、本当に」
見事に“汚名挽回“したバカパーティがサラのもとにやって来た。
「どうだ!」
「見たか!」
「な、サラ!俺達はやるだろう!」
「俺達のパーティに入る気になっただろう!」
戦意喪失して逃走を図るウォルーを追いかけ回しただけで、一頭も仕留めていないにも拘らず、バカパーティの面々の顔はとても誇らしげだった。
サラは呆れてすぐには言葉が出てこなかった。
その代わりに、というわけではないが、自警団の助けを呼ぶ声が聞こえた。
バカパーティの持ち場にいた自警団だ。
さっきとは別のウォルーか、あるいは逃走したウォルーが回り込んだのかはわからないが、数頭畑へ侵入して自警団に襲い掛かったのだ。
「ぐふ。向こうが襲われているようだな」
バカパーティの面々が気合を入れるためか奇声を上げる。
「よしっ!助けに行くぞ!サラ達も応援に来い!」
「お相子だろ!」
「俺達ばっか働かせるんじゃねえぜ!」
「わかったな!」
「「「「……」」」」
バカパーティは自分勝手な言い分をさも当たり前であるかのように言った。
彼らの自業自得なので本心では無視したいところであったが、自警団が襲われている以上そんな事を言っている場合ではない。
サラがリサヴィの面々に指示を飛ばす。
「私が行きます!みんなは持ち場を離れないで下さい!」
「わかった」
「はいっ」
「ぐふ」
サラは先行したはずのバカパーティにすぐに追いついた。
サラが全力疾走したから、ではなくバカパーティがスピードを落としてサラが来るのを待っていたようだった。
サラにいいところを見せるためか、自分達が怪我した時の事を考えてか、ともかく自警団のことを蔑ろにしていることは明らかだ。
サラの彼らへの好感度は既にゼロだったがマイナスに突き抜ける。
その事に気づく様子もなく、バカパーティの盗賊がサラにカッコいいところを見せようと今までやったこともないのに走りながら弓を構える。
盗賊がサラにアピールしようと声をかけようとするが、それより早くサラがその横を無言で走り抜ける。
「ちょ、ちょ待てよっ!」
盗賊が息を切らしながら無理な体勢でウォルー目掛けて矢を放つ。
いうまでもなく、放った矢はウォルーに命中することはなく、見当違いの場所に飛んでいったが、牽制にはなったようだ。
ウォルー達は自警団を襲うのをやめてバカパーティに視線を向ける。
真っ直ぐ向かって来るサラには勝てないと本能で気づいたのか、自警団から離れる。
ウォルー達はそのまま逃走するかと思いきや、バカパーティを次の標的と定めて襲いかかった。
バカパーティとウォルーが戦いを始める中、サラは倒れて動かない自警団の元へ辿り着いた。
自警団の男は重傷であったがサラの治癒魔法がギリギリ間に合った。
ウォルーは邪魔者排除を優先したのか畑は無事だった。
自警団が体を張って守ったのかもしれない。
バカパーティの面々はウォルーを撃退すると、我先にとサラの元へ駆け寄り、怪我を自慢気に見せつける。
「……ポーションを持ってきてないのですか?」
サラのため息つきながらの問いにバカパーティの面々は、
「ポーションは高いんだぜ。タダで治せるのに勿体ないだろ」
「村人はタダで治したんだろ。なら俺達も当然タダだよな」
「だな!」
「おうっ当然当然!」
と大きな態度で答える。
サラは言い返すのも面倒だったので、彼らを無言で治療すると自分の持ち場へ向かって歩き出した。
するとサラの後をバカパーティが慌てて追いかけて来た。
「ちょ、ちょ待てよ!」
「……何か」
サラは歩みを止めず、顔も向けずに問い返す。
「何かじゃねえだろ!なっ?俺達が言った通りだったろ?」
「何がです?」
サラは仕方なく歩みを止める。
そうしなければ、このバカパーティはまた自分達の持ち場を離れてサラ達の持ち場までついて来そうだったからだ。
それではまたこちらが無防備になってしまう。
彼らは腐ってもDランク冒険者である。
流石に自警団よりは強いし、ウォルー数頭程度なら撃退できるだけの力を持っていることを今、証明した。
バカパーティはサラの真意に気づかず、サラが自分達の話を聞く気になったと思い込み気分を良くする。
「お前がこっちにいれば自警団の奴が怪我することはなかったんだぜ」
「……」
「俺達の怪我だってすぐに治療できるだろ?」
「な?こっちにいろよサラ」
「考えるまでもないだろう」
サラはため息をつく。
「自警団の方が怪我したのはあなた方が勝手に持ち場を離れたからです。怪我をしたのはあなた方の、不注意です」
本当は不注意ではなく、実力不足と言いたいところだったが、その言葉はなんとか飲み込んだ。
サラの説明に納得しないバカパーティの面々が口々に文句を言う。
「何言ってんだ!お前らの救援に向かってやったんだぞ!」
「感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない!」
「そうだぞ!」
「お前、鉄拳制裁のサラと呼ばれていい気になって……ひっ」
サラの目が据わった様を見て、盗賊の言葉が途中で止まる。
「私達は助けを求めていませんし、実際、まったく助けを必要としていませんでした」
だが、彼らはその程度言われたくらいでは引き下がったりしない。
「あ、後からならなんとでも言えるぞ!」
「そうだ。俺達が来たからお前ら、リッキーキラーは無事だったんだぞ!」
「そうだそうだ!」
「おうっ、間違いない!」
サラは何度目かのため息をつく。
「リオはウォルーを三頭倒して無傷でした。リオだけではありません。私達は全員無傷でした」
「そ、それこそ俺達が救援に来たお陰だ!」
「そうだ!」
「間違いない!」
「だな!」
サラは彼らに何を言っても無駄だと悟った。
「ともかく、自分達の持ち場に戻ってください。自警団の方達が心配した顔をしてます」
「もちろん戻るがお前も一緒だ」
「アホか」
サラはついに我慢の限界を超えた。
「ア、アホだと……てめ」
「いい加減にしなさい!とにかく持ち場に戻りなりなさい。話の続きは明日の朝です」
そう言うとサラは二度と振り向かずに自分の持ち場に歩き出した。
もし、これでもいう事聞かないようなら鉄拳で語る気だった。
しかし、幸い?にも彼らは今の言葉で納得し、しかも満面の笑みを浮かべる。
「よしっ明日だぞ!」
「約束だからな!」
「絶対だぞ!」
「約束は守れよ!」
サラの今の言葉のどこに希望的なものを見出したのかわからないが、バカパーティの面々は口々にそう叫んだあと、示し合わせたかのようにタイミングバッチリでキメ顔を去って行くサラに向けた。
サラの背中に目があるわけもなく、サラは彼らのキメ顔に気づく事はなかった。
仮に気づいたとしても何が変わるわけでもなかったが。
結局、この日の夜にウォルーが再び襲って来ることはなかった。




