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238話 ギルド総会 その2

「……ったく、子どものケンカだな」


 グラマスであるホスティのボヤキを聞き、そばに控えていたグラマスの補佐官であるシージンが彼に耳打ちする。

 

(リサヴィのリーダー、リオはヴェイン所属のパーティ、ウィンドのリーダーでありますベルフィに拾われて冒険者になったそうです)


 それを聞き、グラマスの表情が変わった。


「落ち着け!」


 グラマスのひと声で一瞬にして静かになる。

 グラマスは一つ咳払いをして話し出した。


「その、なんだ、リサヴィのリーダーのリオだが、元を正せばヴェイン所属のウィンドのリーダー、ベルフィによって拾われ冒険者になったそうではないか。以前はランクが低く、師ともいえるベルフィと同じヴェイン所属になりたくてもなれなかったが、今はその資格を得た。そう、本人もヴェインに所属する事を望んでいるだろう」


 実のところ、ホスティはみんながリサヴィを欲しがるので自分も欲しくなったのだが、その理由が見つからず、さっきまで強がりを言っていたのだった。

 グラマスまでリサヴィ争奪戦に加わり、突然のことで皆が唖然とする。

 もちろん、すぐに猛反発があちこちから飛んだ。


「そんなわけあるか!」

「何アンタまで参加してんだ!」

「誰がアンタだ!この野郎!」

「グラマスは面白い事を言いますね」


 上品な口調に戻ったムルト支部のギルマスが冷やかな目をグラマスに向ける。


「……なんだと」

「まさか知らないのですか?リサヴィがウィンドと袂を分けた理由を」

「何?」


 グラマスが補佐官に目をやるとすっと顔を背けた。

 

(この野郎、知ってて黙ってたな)


 補佐官であるシージンは遊び心をどんな時でも忘れない。

 このような大事な会議でも平然と会議をかき回すことをするのだ。

 それでもグラマスが彼をそばに置くのは彼以上に優秀な者がいないからである。

 ムルトのギルマスがメガネの端をくいっと上げて説明を始める。


「ではお教えしましょう。ウィンドのメンバーにカリスとかいうサラのストーカーがいたのです。彼から逃れるためにリサヴィはウィンドと別れたのですよ。まあ、その彼はウィンドを脱退、いや、追放されたようですが未だ彼自身はヴェイン所属らしいではないですか。そんなストーカーが所属するギルドを望むはずがないでしょう」

「てめえ!」

「落ち着いてください、グラマス」


 グラマスの補佐官は自分の情報が発端で争いが起きたにも拘らずその事を全く感じさせなかった。


「うるさい!わかっておる!」


 結局、リサヴィについてはグラマスは何もしない、リサヴィの意思に任せるとの結論になった。

 要請のあったフルモロ大迷宮の探索をする冒険者については各ギルドから希望者を募り、その中から選ぶ事となった。

 こうして二日目の会議が終了した。



 グラマスのホスティが彼の部屋に戻ると豪華な椅子に深く腰を下ろす。


「ふう」

「お疲れ様でした」

「ああ。お前もご苦労だった」


 ホスティは補佐官のシージンに礼を言う。


「とんでもございません」

「ったく、みんなガキで困る」

「グラマスも一緒になって騒いで……いえ、なんでもありません。独り言です」

「……」


 シージンはこほんと咳払いをして話を変える。


「しかし、リサヴィは興味深いパーティですね」


 ホスティはシージンに先を促す。


「フルモロで冒険者達の悪事を暴き、マルコでも不正を暴いた。中にはグラマスが彼らに任務を与えていたと邪推する者もいるようでした」

「そんな事するか」

「はい」

「ところでワーストテンの事だが」

「リッキー退治がワーストスリーから外れたことでしょうか?」

「ああ。あれも確か……」

「はい。リサヴィ、です」


 リッキー退治は貧しい村からの依頼が多いため報酬は安い。

 冒険者ギルドも必要最低限の経費しか受け取っていないが、それでも冒険者が受け取る報酬が安過ぎる。

 冒険者ギルドは慈善団体ではないので赤字になってまで報酬を上げることは出来ない。

 とはいえ、今までギルドが何も対策しなかったわけではない。

 過去に一度、サービスポイントと称してリッキー退治などのワーストテンの中でも低ランクで報酬の安い依頼にギルドポイントを通常より多めに与えたことがあった。

 だが、これは大失敗に終わった。

 確かに依頼を受ける者は多くなったがその分失敗も多くなったのだ。

 依頼に失敗した冒険者から「嫌がらせかよ!」と大ブーイングが起きた。

 それを聞いたホスティはグラマスの部屋で「お前らの腕が悪いんだろう!」と思いっきり叫んだのであった。

 嫌なことを思い出したと頭を振って追い出し話を戻す。

 

「ナナルの弟子の鉄拳制裁のサラが未だDランクというのはどういう事だ?」

「彼女は神官特典を利用せず、普通の冒険者と同じFランクからスタートしているからです」

「なんでそんな事をしたんだ?」

「一緒に冒険を始めたリサヴィのリーダーであるリオがFだったからそれに合わせたのでしょう」

「何故合わせる必要がある?」

「リオと一緒に依頼を受ける時、自分のランクより下の依頼ばかり受ける事になりますのでそれを気にしたのかも知れません」

「ああ、なるほど。確かにな」


 先ほどの会議で議題に上がっていたように自分のランクより低い依頼ばかり受けているとギルドから注意を受けるのだ。


「それで実際にサラ以外のリサヴィのメンバーの実力はどうなのだ?」

「リーダーの戦士リオに関してはリッキーキラーなどと見下すような二つ名で呼ばれておりますが、私は彼の実力は相当なものと判断します」

「ほう、それはどうしてだ?」

「彼はあの金色のガルザヘッサ討伐に参加しております」

「それはサラもだろう」

「ご存知の通り、金色のガルザヘッサ討伐では偽の噂が流れまして関係者全員に聞き取りを行いました。そのときにリオが戦いに貢献したと、一人を除いて証言がありました」

「……ああ!思い出したぞ!カリス!あいつか!どこかで聞いた名だと思っていたが“ほら吹き”カリス!奴はほら吹くだけじゃなく、ストーカーまで働いていたのか!!」

「はい。そのほら吹きカリスですが、冒険者適性検査を受けるよう出頭命令を出しておりますが、未だ出頭しておりません。そのため現在Cランクへ降格となっております」

「くそっ!そういうクズがギルドの信用を落とすんだ!もうさっさと除名できんのか!?」

「はい。規則上、まだ出来ません。このまま拒否し続ければ除名となりますが」

「わかった。もうカリスの事はいい。続きを頼む」

「はい。リオですが、他にも賞金首であります三本腕を名乗る強盗団の頭二人を討伐しております」

「確か元冒険者で除名前は全員Bランクだったな」

「はい」

「つまり、リオはDランクでありながらBランク以上の力があるということか」

「はい、そのようになります」

「ただトドメを刺しただけ、とかではないのだな?」

「その可能性は低いでしょう」

「そうか」

「その他にもあるのですが、最新の情報ではBランクの魔物、ガブリムロードを倒したようです」

「……本当に冒険者ランクとはなんだと言いたくなるな」

「左様で」

「リオの事はわかった。他は?」

「次に魔装士のヴィヴィですが、彼女は戦果だけ見ますとあまり目立った活躍はないですが、リムーバルバインダーの操作テクニックが群を抜いており、パーティメンバーのサポート役として活躍しているようです。また、魔装士達の中では一目置かれた存在のようです」

「そうか、……ちょっと待て。彼女と言ったか。ヴィヴィは女なのか?」

「はい。親しい者にしか素顔を見せないそうですが相当な美人だとの事です」

「そうか」


 ホスティの頭にハーレムパーティの名が浮かんだ。

 彼も元冒険者であり、若い頃はハーレムパーティに憧れたものだった。

 ホスティはその考えを頭を振って追い出す。

 シージンはその行動に気付かぬ振りをして先を続ける。


「最後に神官のアリスですが、彼女は冒険者になって日が浅く、ハッキリ言って未知数です。ただ、先ほどの会議で話がありましたが、彼女は第三神殿の一級神官フラースとダッキアに教えて受けており、そのお陰かDランクとは思えないほど多くの魔法を授かっているようです。その中には再生魔法もあるとか」

「何?それはすごいではないか。それが本当ならアリスもどのパーティも喉から手が出るほど欲しがるだろう」

「はい。ただ、彼女は幸か不幸かサラの影に隠れてあまり注目を集めていないようです。ーーリサヴィのメンバーに関しては以上となります」

「ふむ。皆がリサヴィを欲しがるのは当然だな。だが、それ程の力を持ちながらリッキー退治ばかりしているというわけか」

「はい。ギルドの依頼とは別に立ち寄った村で直接依頼を受けることもあるようです。ただ同然で請け負うことも……。ですので彼らが実際に受けたリッキー退治依頼の数はこの倍以上はあるかと私は考えております」

「……呆れたな。リッキーに深い恨みでもあるのか?親しい者が殺されたとか」


 リッキーは弱いとはいえ魔物である。

 その蹴りは内臓破裂するほどの威力を持っているのだ。

 冒険者であっても舐めてかかって反撃の蹴りを食らい、命を落とす者もいる。


「いえ、そのような情報はありません」

「そうか……今更だが、何故このパーティには神官が二人もいるのだ?この神官不足の時にこれは過剰ではないか」

「はい。私もそう思います」

「うーむ。二人ともリオを勇者だと思っているわけか?」」

「サラはわかりませんが、少なくともアリスはそう言っているのを聞いた者が何人もいるようです」

「そうか」

「はい……」

「ん?なんだ?まだ何か言いたいことがあるのか?」

「実は先ほどの会議では個人的なものと思い議題にあげませんでしたが、リサヴィについて冒険者達から意見書が何通か届いております」


 ホスティの表情が不機嫌なものに変わる。

 

「……想像はつくが言ってみろ」

「はい。ご想像の通りかと思いますが、サラとアリス、彼女らはリオにはもったいないからとリサヴィの解散を要求しております」

「そんなものはギルドにではなく本人に言え!」

「話してダメだったからかと」

「知るかっ!!」

「ではそのように回答いたします」

「ギルドが安易にパーティ編成に口を出してみろ。依頼を失敗したときギルドのせいにされてはかなわん!」

「はい。まさにパーティ編成に口を出して失敗したばかりですし」

「全くあのゴンダスのバカ者が!だから俺は奴をギルマスにするのを反対したんだ!」


 ギルドマスターの選定には街の権力者の意見も考慮する必要がある。

 ゴンダスがマルコのギルマスに選ばれたのは彼と癒着が発覚したガメツ商会の推薦だけでなく、マルコを治める領主の要望もあって、それらに押し切られたのだった。

 ホスティは一連の不祥事に領主も一枚噛んでいると考えているが、それを調査できるのはレリティア王国だけだ。


「お察しいたします」

「これからはもっと注意を払わねばな。そうでなければ冒険者ギルド離れを起こすぞ」

「さようで。今は遺跡探索ギルドという受け皿がございますし」


 その名を聞いてホスティは更に不機嫌になる。


「そうだ。今は取るに足らん存在だが侮っていい相手ではない」


 遺跡探索ギルドは冒険者ギルドと異なり目的がハッキリしている。

 冒険者ギルドがいわゆる何でも屋に対して遺跡探索ギルドはその名の通り遺跡探索に特化したギルドだ。

 遺跡探索という事で報酬も高いものばかりである。

 冒険者の中には遺跡探索ギルドとの掛け持ちしている者もおり、最近では遺跡探索ギルドの依頼を優先的に受ける者もいる。


 冒険者ギルドが大陸中に存在するのに対して遺跡探索ギルドは冒険者ギルドの少ないカルハン魔法王国に多く、その勢力を伸ばしている。

 まだまだ支部の数は少ないが、カルハン魔法王国内だけでいえば既に冒険者ギルドより力を持っているのだ。

 その証としてカルハン魔法王国内のダンジョン探索の権利を多数得ていることが挙げられる。


「どんなものにも終わりはある。暗黒大戦から続いている冒険者ギルドにも終わりがくる時があるだろう。だからと言って終わっていいものでもない。少なくとも俺の目が黒いうちはそんなことはさせん!」



 そして三日目。

 成績発表が行われた。

 トップは言うまでもなく、ヴェイン本部で圧倒的大差をつけて一位だった。

 最下位は皆の予想通りマルコ支部だった。



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